水際対策失敗の教訓を生かそう

東京大学医科学研究所の上昌広氏は、JMMで5月6日に配信された絶望の中の希望~現場からの医療改革レポートで、政府(厚生労働省)が空港で行っている新型豚インフルエンザの水際対策を、「専門家もWHOも効果を否定している」として批判しました。

さて、政府(厚労省)と上氏と、どちらの判断が正しかったのか、今日時点で国内感染者が200人を超えている現実を見れば明らかです。ところでアジアで日本以外に水際対策をおこなっているのは、私の記事で既に紹介している中国、香港の他に、韓国フィリピンタイマレーシアでも行われています。

科学的にも、経済合理性からも、インフルエンザの水際対策に効果が無い事は上氏の記事から明らかです。しかし、東アジアの国の多くの大国が水際対策を取っている理由は、良い悪いという意味ではなく、単に文化の違いではないでしょうか。科学的とか経済合理性という考え方が、そもそも欧米文化の考え方ですが、アジアの人々の価値観は、より情緒的なのかもしれません。池田氏のブログで格差是正の為にも雇用の流動化を進めるべきだという記事を書くと、反論するコメントの多くが「解雇される人への同情」に主眼を置いた情緒的なものが多いのもその為ではないかと考えます。

ところで中国、香港、タイ等の水際対策については、文化的な問題の他に、SARSや鳥インフルエンザといった強毒性のエマージングウイルスと常に向き合っている政府の「恐怖」があると思います。また新型豚インフルエンザを、鳥インフルエンザと同様の体制で対応する事は、政府の体制を確認し、弱点を見つけて改善し、次に来るかもしれない本当の「恐怖」への備えにするという意味も少なからず含まれている筈です。

その一つの証拠として、中国・香港の国境での検疫体制の改善を示す事ができます。前回のSARS騒ぎでは、香港側と中国側の検疫局が別々に「検疫シート」への記入と管理を行っていました。今回の新型豚インフルエンザでは、たとえば羅湖の国境で、香港側の検疫局だけが「強制的」な検疫シートへの記入と回収を行っています。中国側の検疫局もイミグレの前に検疫コーナーを設けていますが、シートへの記入は「任意」の状況です。一般的に役所というものは、他局や他国との情報共有は苦手ですから、重要な情報はできるだけ自分で収集と管理をしようとします。新型豚インフルエンザの検疫シートの記入と回収を香港側だけで行っているという事は、それは香港側の検疫局の情報を中国側の検疫局が効果的に共有するシステムが出来上がっているという証拠と考えます。

上氏は、日本の政府は伝染病に対する医療体制が出来ていないと指摘しています。今回の新型豚インフルエンザ騒動では、政府(厚労省)は水際対策をはじめる事で、伝染病対策のきっかけを作ったと言えます。現在は国内で感染が拡大している訳ですから、政府(厚労省)が国内での本格的な伝染病対策をはじめる良い機会と考えてはどうでしょうか。対策とはすなわち、きちんと予算をとって、医療体制の整備を行う事です。今回の経験を無駄にせず教訓として生かす為に、政府(厚労省)はぜひとも検討をお願いしたいものです。

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