実技試験はなぜ批判されるか(2)

3月 28th, 2009 Categories: 1.政治・経済

ソフトバンクの「特別採用コース」は言ってみれば実技試験であり、問題は無いとこちらに書いたところ、Shiroさんという方から「営業職の実技試験が、当該企業の直接の利益」をもたらして、応募者には「支払い」がない事はアンフェアであるとの指摘がありました。

アゴラで安富氏も「学生に契約を集めさせておいて賃金も手数料も支払わないのは、完全なルール違反である」と指摘しておられます。しかし私は、応募者が試験中に(たまたま)受注を得る事が出来たからといって、それが「特別採用コース」の本質的な問題点になるとは考えておりません。それに、素人の学生が試験期間中に簡単に受注できるものなら、そもそも企業が営業の適正を試そうなどと考えないでしょう。hito-yaさんもこちらの記事で、そう易々とは売れないと指摘されています。だからこそソフトバンクは、受注数ではなくて受注までの過程のレポートを重要視すると言っているのだと思います。

問題にするのであれば、それは営業成果ではなくて拘束時間に対して「支払い」をするかどうか、ではないでしょうか。有償アルバイトの場合でも、企業は業務拘束時間に対してアルバイト料を支払うのですから。

そこで現在の採用試験や内定後入社前の研修を考えて見ましょう。企業は応募者や採用予定者に対して、ふつうは試験や面接(時に何回もある)や入社前研修(数日から1週間)の為の拘束時間への「支払い」をしません。これを棚上げにして、「特別採用コース」だけを非難するのはどうかと思います。

こう書くと、内定が出た後なら入社前提だから良いではないか、という人がいると思いますので予め書きますが、「内定=労働契約締結では無い」と理解しています。労働契約を書面で交わさない日本では、出社という事実によって労働契約が事実上開始するのではないでしょうか。内定後の内定取り消しは20年以上前からしばしば起こっており、決してイコールではありません。(もし内定=労働契約締結という判例があれば、企業は入社式前研修にも給料を支払わなければなりません)

>やはりアンフェアだと感じます

これは米重氏も述べておられるように、ソフトバンクの入社試験は、従来通りの入社試験がメインであり、「特別採用コース」はあくまで応募者が選択し得るオプションという事になっているので、これまで学歴格差と学力によりソフトバンクに応募して入社していたグループの学生にとっては、まったく無関係という事であり、何がアンフェアなのか理解できません。恐らくこれを批判する人のほとんどは、「特別採用コース」が不要な人だと思います。

あえて言うならば、通常の試験で入社した学生から見て、「特別採用コース」で入社する人は(彼自身と両親が学資と時間を投資して獲得した学歴と学力に対して)アンフェアだと言えるかもしれませんが。

「特別採用コース」は、学歴格差社会というアンフェアな構造に対する敗者復活戦であり、(対象者が広がれば)失業者やフリーターや派遣労働者などへの敗者復活戦に成り得ます。私は、そのように好意的に見ています。
好意的に捕らえるべきだと思います。このようなしくみは、

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5 Responses to “実技試験はなぜ批判されるか(2)”

  1. shiro
    3月 28th, 2009 at 16:33
    1

    長いコメントを読んでいただいたうえ、詳しい記事をありがとうございます。なるほど、これはこれで筋が通った話だと思います。

    私の要点は支払いの有無よりも、募集側と応募側のとり得るオプションの違いというところにあったのですが、案外微妙な観点のような気がしてきたのでもう一度整理させてください。

    まず支払いの方について片付けます。

    「入社前研修(数日から1週間)の為の拘束時間への「支払い」をしません。」これは非常におかしな習慣ですね。私は日本で「就職活動」をしたことがなかったのでよく知らなかったのですが、どういう根拠でこういうことが可能なのでしょうね。「名目は任意参加の無料セミナー、実質はほぼ強制」みたいな感じなのでしょうか。ごく一般的な内容で他の企業に行くことになっても役に立つようなものであればともかく、当該企業に特化した内容であったり実質強制参加なのであれば、私は非難されるべきものであると考えます。

    一方、面接について支払いが生じないのは「企業のために何かをさせている」わけではないのでおかしくないと思います。面接段階では双方はまだ対等の立場であり、互いにまだ果たすべき義務や対価について合意したわけではないので。

    フェアネスにとって重要なのはこの「立場の対等性」だと思います。ある物を売るという職種については、雇用者が被雇用者に「*それ*を売る」というコミットメントを要求できるのはあくまでそれに対して対価を払うという契約を結んでいるからであって、契約締結以前にその契約を前提としたコミットメントを要求することは、雇用者側の立場を不公正に強くしているのではないか、ということです。契約書にサインする直前まで、被雇用者は「私にはあなたのところにコミットするか、あなたのライバルにコミットするかを選ぶ自由がある」という立場にいなければ、対等性があるとは言えません。

    雇用者側が選考条件に「自社の営業活動」を提示した時点で、被雇用者のそのような選択肢が奪われてしまう、そこに問題を感じるのです。(支払いは、コミットメントに対する契約の後にくるものなので、いわば副作用であって本質ではありません)。

    従って、応募者が自発的に自分の営業力を示すために営業を試みることには問題を感じません(応募者が自らの意志で選択しているので)。また課題が「ソフトバンクモバイルの営業活動」ではなく「どの携帯会社でも良いのでそこの営業活動を試みること」であっても問題ないでしょう。さらには、選考側と被選考側の人間に信頼関係があった上でそのような課題が出されたのであれば、ケースバイケースで許容できると思われます (例:応募者が何度も何度も挑戦してきてどうしてもソフトバンクに入りたいと言う。お互いに人間として良く知るところとなったが決め手に欠ける。最後の手段としてそのような課題を出してみる、という場合…この場合、既にコミットメントという点に関しては選択が済んでいると考えられます。これならば、「敗者復活戦」という話も納得できます)。

    あくまで問題になるのは、「選考対象になる」条件として、「対等な立場ならコミットしなくても良いはずのコミットメントを選考側が要求する」というケースのみです。

    このようなケースが許される状況もあります。例えばある国の国籍を取るために、その国に忠誠を誓う、とか。あるファンクラブに所属するために、ファンであることを行動で示す、など。これらはそもそも対等な立場を前提としていないので許容されるものです。雇用関係はうっかりするとすぐに立場の対等性が崩れるため、特に雇用者の側に対等性を崩す可能性のある行為を厳に謹むことが求められていると思います。今回のソフトバンクの行為が、たとえ敗者復活といった善い動機から出たものであるとしても、いやそうであるとしたらなおさら、構造的にアンフェアネスを含む手続きは特に意識して避けるべきではないか、というのが私の立場です。

    とは言っても、現実として雇用者が不当に強い立場に立っていることは多々あるわけで、それと比較して今回のものが特にアンフェアかというとそういうことは無いと思います。ただ、だからと言って正当化されるべきものでもないよな、とも思うのです。

  2. 3月 29th, 2009 at 11:19
    2

    >こう書くと、内定が出た後なら入社前提だから良いではないか、という人がいると思いますので予め書きますが、「内定=労働契約締結では無い」と理解しています。労働契約を書面で交わさない日本では、出社という事実によって労働契約が事実上開始するのではないでしょうか。内定後の内定取り消しは20年以上前からしばしば起こっており、決してイコールではありません。(もし内定=労働契約締結という判例があれば、企業は入社式前研修にも給料を支払わなければなりません)

    いや、内定は労働契約締結と見なす、という最高裁の判例があるようです。

    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E5%AE%9A

  3. bobby
    3月 29th, 2009 at 19:22
    3

    Shiroさん、今回も力の入ったコメントを有難うございます。返事をまとめる時間をすこしください。

    フロレスタンさん、貴重な情報を頂き有難うございました。日本の歪んだ雇用関係のもとでは、そういう判例も有るかもしれないと考え、(もし内定=...)を書き加えておいたのですが、やはりあったのですね。

    wikiにある判例と関連の資料を読みましたが、当時(昭和54年)の状況とは異なり、現在では一人の学生が複数の企業から内定を取る状況(*1参照)があるようです。また、企業も内々定(*2)と内定を区別しています。単に内定を出しただけでなく、企業が学生に誓約書を書かせた段階で、始期付解約権留保付労働契約が成立するようです。

    ところで内定とか誓約書というのは、雇用契約関係を述べるにあたってはまったく合理的でないと思います。企業は内定を出す段階で、誓約書ではなく始期付雇用契約書を学生に送付すべきです。また学生も始期付雇用契約書に署名して一定期限内に企業へ送り返す事で、お互いの雇用・被雇用関係を合理的に確定させるべきだと思います。

    そこで話を本筋に戻しますが、内定=始期付解約権留保付労働契約であっても、学生は4月1日までは雇用関係が開始されません。ですからソフトバンクの「特別採用コース」がダメなら、多くの企業が毎年3月下旬に行っている入社前の研修やセミナーなども全てダメとすべきであろうと思います。

    *1
    http://www.jinji-support.com/enter/naitei.html
    *2
    http://coco-su.com/faq/nai/10.html

  4. 3月 30th, 2009 at 00:01
    4

    >ソフトバンクの「特別採用コース」がダメなら、多くの企業が毎年3月下旬に行っている入社前の研修やセミナーなども全てダメとすべきであろうと思います。

    全く同感です。というよりも、私は4月の新卒者一斉就業開始を前提とした就職活動(今は就活と略して言うのが一般的になっています)すら違和感を感じます。それも大学3年生がスタートなのですから、どうかしています。「就活のバカヤロー」という新書が出ているくらいです。

    ソフトバンクに関して言えば、ADSLの無料モデム配布による勧誘や携帯電話のサービスなど、胡散臭いことをしばしばやるので、そういう延長上で見られている、という側面があることは間違いありません。敗者復活戦だろうが何だろうが、私は就職活動中の学生から勧誘を受ける消費者の立場から、こういうことは鬱陶しいだけで迷惑だと感じます。企業サイドの採用担当者の無能か怠慢か手抜きがベースにあるのではないかと思いますね。

  5. bobby
    3月 30th, 2009 at 03:04
    5

    Shiroさん、返事の内容をまとめた記事を下記URLにアップしましたのでご参照ください。

    http://bobby.hkisl.net/mutteraway/?p=761

    フロレスタンさん、私も20数年前に入社前の新入社員研修を「当たり前」の事として受けました。当時はバリバリの日本人センス(笑)を持っていたので、別に違和感はなかった。しかし海外に住んで20数年のいま、改めて考えてみると、卒業する半年以上前に「内定」をもらい、入社前の新入社員研修に参加し、4月1日に全国一斉の入社式というのは、とても不思議な国だなあと感じています。何が不思議かというと、全国の非常に多くの会社が、これらの事を横並びでみんなが同じようにやっている事です。

    ところでソフトバンクの胡散臭さというのは、今の日本には必要ではないかと感じています。日本人的に感じる「胡散臭さ」の理由は、普通と違う事を平然と行う社風にあるのではないでしょうか。

    本来、社会は大きな多様性があるはずなのに、日本の社会は横並びを良しとし、出る杭を打つ性格が強すぎます。こういう社会には多様性が育たない。画一化した社会は効率的で強さもあるが「異常な事態」に弱い。生物進化でいえば、環境が安定しているときは種が大きく拡大するが、枠を超える異変が起こると、あっという間に種全体が滅びてしまう事になるのかと思います。今の日本もバブルが弾けた後、医療や社会保険の問題、輸出企業しか儲からない問題、そして世界中の信用崩壊に端を発して、それほどダメージを受けていない日本が米国よりよほど不況で暗くなっているのは、社会に多様性が育っていない事が大きな理由の一つではないかと推測しています。

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