技術者の雇用の流動化と下請けメーカーの活性化

2月 25th, 2009 Categories: 1.政治・経済

雇用のルールをどうすれば良いかという山崎元氏のブログ記事のコメント欄で、技術者の転職についての話題が盛り上がっています。

あるコメントは原子力技術者を例にとって、指名解雇できるようになった場合の危惧を述べています。

技術者がその会社でしか通用しない高度な専門技術を見つけようと努力することの対価は、長期雇用の保証やその技術が必要でなくなったときに方向転換できるまでの面倒を見るという約束だと思います。そもそも会社がそんな約束を果たすと期待している技術者がバカなのでしょうか?

使い回しの利きにくい特殊な技術の開発にかかわる場合、技術者には高いリスクが生じ、転職できない袋小路に陥るのではないかと危惧しているようです。それに対して別のコメントが反論を行っています。

その分野でしか使えない技術なんて、極めて少ないのではないでしょうか。原子力発電所に関連した技術で申しますと、核分裂の制御そのものは、特殊でしょう が、他の蒸気発生・冷却系、タービン、制御、等々は随分と広い分野で活用できる技術でしょうし、何よりも特殊な知見よりも、技術的問題を解決するセンスの 方が重要です。個別の特異的な知識等は、経験者の指導を受けることが出来れば、入社して1年ぐらいでキャッチアップできる場合が多いのではないでしょうか。

つまり本当に特殊な技術などは少なくて、残りの技術は他企業でも転用が利くものが多いだろうと言っています。また、技術者にとって開発した技術そのものより、それを生み出した問題解決能力がより付加価値が高いのであり、特殊な技術を開発し得る能力は、それ自体が転用の利く価値の高いものであろうと。私もその通りだと思います。新しい技術というものは、それを開発する過程がもっとも大変で、知識や能力を要するのだと思います。そういう創造的な技術者は、どこの分野の企業も高給でヘッドハントしたいと考えているのでしょう。

ところで技術者の雇用流動化は製造メーカーにとってどのようなインパクトを与えるでしょうか。企業側が技術者の指名解雇ができるようになれば、企業は不要な技術者の為に無理して配置転換ポジションをつくる必要がなくなり、大手企業は現在不要な人員の整理により人件費予算に余裕が生まれます。この予算で、事業に必要な高い能力を持つ技術者を、外部の労働市場から(高給で)調達できるようになります(これまでの話しはすべて大手企業が前提です)。山崎氏も技術者の賃金に関して、下記のようなコメントを行っています。

制度がどうなるにせよ、将来世代の技術者は、もっと労働条件の契約に関してシビアになるべきだと思います。一般論ですが、日本の企業は、有能な技術者に対して、もっと多額の報酬を払うべきだと思います。

日本のお家芸といえば自動車や半導体・電子部品や電気・電子製品などの製造メーカーです。これら企業内で、製品開発や高密度実装に関わる技術者の賃金は、彼らが生み出してきた高い付加価値に比較して、これまで非常に低い賃金だったと思います。しかし、雇用の流動化がはじまり、転職組の高給技術者が社内に登場すると、指名されない(企業が必要だと考えている)技術者の中には、労働市場に目を向けて、自分の技術の価値をより認めてくれる(より高い報酬を払ってくれる)企業へ転職する者も現れるでしょう。そのようにして必要な技術者の流出が始まります。

その結果、外部労働市場より調達した即戦力の技術者と(人員整理で生き残った)プロパーな技術者の賃金体系に整合性を持たせざるを得なくなり、社内技術者の賃金が必然的に上昇します。社内における技術開発コストが上昇すると、企業は技術投資を絞り込むようになり、これまでのように「何でも自社で開発」する事ができなくなります。

日本の大手メーカーは、社内の技術者の賃金をこれまで非常に低く抑えてきたおかげで、「何でも社内で開発する」事ができました。「何でも」の範囲には、国内の下請け製造メーカーが独自で開発した部品の技術コピーも含まれています。昔は、下請け部品メーカーが新しい技術開発を行い、それを最終メーカーが採用して製品に組み込み、両社が儲ける構造がありました。今は、技術者の賃金抑制により、下請けが開発した部品技術でもオファーが高ければ大手メーカーは自社で真似して社内開発する方が安いので、下請けメーカーは儲ける事が困難になっています。技術者賃金が上昇し、開発コストが高まる事で、大手メーカーは下請けメーカーの開発した技術や部品に相応の対価を払って購入せざるを得なくなるでしょう。そうなれば下請けメーカーの技術者は、自分の得意分野への開発投資をもっと積極的に行えるようなるでしょうし、大手メーカーの優秀な技術者がスピンアウトして起業するケースも増えるかもしれません。そのようにして、日本の製造メーカーと技術者全体がレベルアップできる可能性があると思います。

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