雇用の流動化は社会全体の人件費を下げるか

2月 15th, 2009 Categories: 1.政治・経済

解雇規制を緩めて、雇用の流動化を促進させる政策を取ったとしたら、実際にはどのような事が起こるのでしょうか。小倉氏は「消費の原資が減少するので、当該社会に属する消費者は商品やサービスを購入しなくなる」と述べていますが、どうなのでしょうか。私の香港・フィリピンでの経験をもとにして考えてみました。

まず、解雇規制を緩めると、全員が派遣社員になって賃金が派遣並みに下がるというのは被害妄想です。企業の労働は、いつでも取替えが効く単純労働より、習熟を要する職種の方が多いので、全員を派遣労働者にするのは不可能です。更に、不況時の人員調整という合理的な理由で解雇できるとなれば、派遣会社へ余分な費用を払う事自体が大きな無駄になります。つまり長期的に必要とされる職種のフルタイム労働者は基本的に全員が正社員になるであろうと思われます。

次に、雇用の流動性について考えて見ます。その為には、企業(経営者)が雇用したり人員調整する理由を考える必要があります。企業を株主の違いで分類すると、株式市場へ上場している企業と、非上場(上場していない)企業に分類できます。私の個人的な意見ですが、上場企業と非上場企業では、解雇規制が緩和された場合の状況が異なると考えます。

上場企業の株主は一般に、株式市場で株を購入した投資家です。企業が上場する理由は、より多くの事業資金を株式市場から獲得して、事業を拡張する事です。経営者はその為に株主に対して、集めたお金でより多くの利益を得て、それを(配当または株価の上昇で)株主へ利益を返す義務を負っています。需要が増大する好況時には、集めた資本金を投入して設備投資や事業拡大(大量雇用)を行い、より多くの利益を得る努力をする義務を(株主に対して)負っています。需要が減る不況時には生産調整や事業縮小(大量解雇)して経費削減し赤字の減少に勤める義務を(株主に対して)負っています。また、上場する事ができた企業は、それ以外の企業にくらべて高い付加価値を生み出している事が多いので、賃金水準も高いと言えます。つまり、上場企業で働く事は社会的ステータスが高く、賃金水準が(付加価値労働生産性に応じて)高い反面、不況時に大量解雇されるリスクが高いといえます。

非上場企業の株主は、経営者自身や親族である事が多いので、上場企業のように短期間で株主へ利益を返す要求はかならずしも強くありません。むしろ家業のように、事業を行う事自体が企業存続の目的となっているような会社も多いのではないかと思います。非上場の企業は、一般に小資本であり、銀行から事業資金のファイナンスを得る能力も弱いので、大きな設備投資力がありません。つまり好況時と不況時の生産設備能力の振幅がすくないので、不況時の解雇も大きくありません。また新入社員の教育もシステマティックに行う事ができないので、教育された既存労働者を比較的大切にします。もうひとつ、非上場企業の中でも圧倒的に多くの小・零細企業(経営者が全従業員の顔を憶えられるくらいの規模)では、経営者と解雇する労働者との個人的な人間関係が構築されるので、日本の経営者は心理的に解雇しにくいという事情もあります。つまり非上場企業で働く事は、社会的ステータスは低く、賃金は比較的低いのですが、大企業よりも解雇リスクが低く長期的雇用関係を築きやすいと言えます。

上場企業と非上場企業で働く労働者数の比率は20%:80%くらいでしょうか。解雇規制が緩められても、労働市場の圧倒的多数占める非上場の小・零細企業では、人員調整の為に解雇する事態は少ないであろうと考えます。

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