無償化して高学歴者の所得を上げるには
大学の無償化について、しばしば議論されるようになりました。
BLOGOSに転載されてた小林りん氏の記事が興味深く、バックナンバーも含めて読んでみました。
高等教育無償化は、低所得者層のためと言うけれど
https://forbesjapan.com/articles/detail/17172
日本の高等教育は「無償化」に値するか
https://forbesjapan.com/articles/detail/17311
【上記記事の要約】
1)現在の大学進学層を見ると、貧困層ではなく富裕層への優遇になりかねない。
2)大学や学部により、経済的なりターンに配慮すべし。
3)一律無償化は卒業できない学生を増加させる。
小林りん氏は教育関係者の視点から述べておられると思います。
そこで、自分の経験もふまえて事業者側からの視点で、大学無償化についての私の意見を少し述べてみたいと思います。
【事業組織が必要としている大卒は少数】
事業組織が本当に高学歴者を必要としているのは、経営職、管理職、研究職、高度な技術職といった職種に限られます。
どの組織もおおむねピラミッド構造なので、一部の例外を除くと、一つの事業組織において上記の職種のポジションは少数です。
十歩譲って、上記職種の候補者も含みましょう。
日本の大企業では上記職種の即戦力を中途で採用せず、新卒採用して社内から採用する傾向が強いからです。
それでも、それほど多くの高学歴者を必要としません。
それ以外の全ての構成員は、実際には高卒に置き換え可能です。
高卒でも十分に可能な職種に、大卒だからといって、より多くの給与を支払う合理性が見当たりません
【大卒というだけで価値があるのは発展途上国だけ】
発展途上国が発展を開始する初期において、国営企業や外資企業が増大します。
それらの組織を運営し発展させる為には、上記で述べた高学歴者が必要となります。
ところが、そもそも高学歴者の絶対数が少ないのです。
そういうタイミングにおいては、低所得者家庭の子女が頑張って高学歴を得れば、一気に高所得を得て、生活も安定させる事ができます。
中国やフィリピンでは、家族あるいは一族でお金を出し合って、1人の秀才君を高等教育へ送り込む事で、みんなで経済を豊かにしようというモデルがあります。
しかし、これが機能するのは、労働市場で高学歴者の需要が供給より少ない場合です。
需要より大きな高学歴者が供給されるようになると、高学歴者の「市場価値」は値崩れを始めます。
せっかく大学を卒業しても、それに見合う給料やポジションを得られる求人が見当たらず、よい待遇で就職できなくなります。
いまの日本はまさに、高学歴者を過剰に労働市場へ供給しており、大卒の価値は大きく下がっています。
【大卒の所得を上げる方法】
極論を述べると、高学歴者の分母を小さくして、そこへ優秀な学生を集める事です。
具体的には、社会のニーズがある大学・学部、経済リターンの高い大学・学部を厳選して、税金による「無償化」を実施します。
それ以外の大学は、税金による補助を打ち切ります。
施設と定員数、出席日数と授業の質などの規制を今より厳しくしてゆき、立ち行かない大学は統廃合して、大学の数も大幅に減らします。
上記によって、少数の無償化された大学からだけ、社会や組織が必要とする高学歴者を供給します。
すると、富裕層であれ貧困層であれ、無償化された大学・大学院を出た労働者の所得はかなり高くなります。
【大卒のスキマを埋めるのは誰】
上記によって、企業や組織は経営者・管理者・研究者・高度な技術者を得る事ができます。
一方で、彼らの手足となる労働者(ピラミッド構造で真ん中から下の層)が必要になります。
オフィスワーカーの多くは、高卒(いま既に無償化に近い状態になっている)への置き換えで十分です。
簿記や工業的な専門知識が必要な労働者は、工業高校・商業高校をテコ入れします。
上記で十分に補完できれば、専門学校へ税金補助は行いません。
【結論】
大卒・大学院卒など高学歴者の所得を上げる為には、供給過剰の高学歴者数を適正化すると同時に、適格者だけが高学歴を選択できる「しくみ」が必要です。
もし高学歴者の供給量を更に増大させながら、なおかつ所得を上げようと思ったら、高学歴者を必要とする労働市場を増大させる必要があります。
日本に高度成長期のような経済発展の機会が再度あれば、それは可能でしょう。
あるいは、高学歴者の労働市場を世界へ広げる事ができれば。
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