派遣切りはサブプライムローン問題が原因ではない
派遣切りを非難する人の中には、米国の不動産バブルやサブプライムローン証券(CDO)の破綻が原因だから日本の労働者は無関係だと述べている意見をしばしば見かける。しかしリーマンの買収を行った野村證券を始め、日本の金融機関は、CDO証券による被害が軽微だった事を覚えているだろう。
日本の今の不況は、サブプライムローン問題と相関関係はあるが、直接の原因はそれではなくて極端な円高である。まず、なぜ直接関係しないかを示すので下記図を見て欲しい。
国内で輸出関連企業による大規模派遣切りの原因は、現地生産の進んでいる自動車産業を別にすると、急速な円高が業績悪化の原因である事がわかる。 また、円高の原因は池田氏のこの記事によれば円キャリーの巻き戻しによるものであるが、そもそも輸出関連企業が繁栄したこの期間の円安が、米国不動産バブルが原因であるから、それが元に戻っただけだとも言えるのである。故に、この円高も米国に文句を言う筋合いとはいえない。
次に、急速な円高の状況を、下記のドル円為替グラフで示す。
この5年間の対ドル為替レートは105円から115円であった。それが短期間のうちに20%以上も上昇した。例えばの話し、あるメーカーが単価US1ドル(ほんとうは115円)の商品を米国へ販売していたとする。急速な円高で、ドル建て単価を日本円へ換算すると売価が20%(25円)下落してしまった事になる。今時のグローバルビジネスでは、輸出販売価格に20%も利益を乗せられる(おいしい)商売はめったに無いので、メーカーとしてはドル建ての販売単価を10数%から20%値上げせざるを得ない。しかし米国のバイヤーも、景気の悪いこの時期に20%もの値上げ要求をのむ筈が無い。結果として日本や中国からの輸出商売はとまってしまったのである。
これまでの話しを要約すると、日本の派遣切りは米国サブプライムローン問題とは直接関係がなく、急速に進んだ円高によりドル建ての販売価格を維持する事ができず、かといって米国バイヤーも値上げをのむ事ができず、その結果、国内からの輸出商売が止まり、注文が激減したので工場の生産調整の煽りを食って派遣社員などの非正規労働者が大量解雇されたのである。
これを輸出型企業のせいにするのは酷である。国内の不動産バブル崩壊から立ち直った後の「かげろう景気」を牽引してきたのは、誰あろう輸出関連企業だったからである。もしあえて悪者を探すとすれば、国内需要の創生を怠った政府であろう。
追伸:文中の図に理論的な問題があればコメント欄でご指摘ください。
サブプライムローンなどを裏づけにした証券化商品の総称はCollateralized Debt Obligationを略してCDOと言われています。
一方、CDSはCredit Default Swapといわれるデリバティブ取引で、極めてシンプルに言うならば「倒産保険」と呼べるものになります。
上記の2種類の取引は全く別物ですので訂正された方がよろしいかと思われます。
F_manさん、コメント有難うございました。確認したところ、私の勘違いでした。今晩、早速変更します。