社会制度設計は「正義」よりも全体利益と合理性

2月 3rd, 2009 Categories: 1.政治・経済

社会全体の雇用と経済に関係する制度問題を論ずるとき、企業内で個別に発生する法律違反問題は重要でもないし優先順位も高く無い。小倉氏は事ある毎に、このような個別の犯罪例を持ち出して社会制度の批判を行う傾向があるので、下記図のように犯罪被害者の視点というフィルターを通して企業や社会制度を議論しているのではないかと推測する。しかしながら社会全体を見渡せば、被害者でも加害者でも無い経営者や労働者は圧倒的に多数である。社会制度の問題を論じる時には、「正義」よりもまず圧倒的多数である普通の労働者や経営者や資本家の利益を中心にして合理的に考えるべきである。(ところで小倉氏は、私のような素人からこのように屈辱的な批判を受けるのが嫌であれば、不利益者を減らす切り口でなく、利益者を増やす切り口に戦術転換すべきである。利益者を増やす切り口は、結果として不利益者を減らす事につながるが、不利益者を減らす切り口は、全員が貧しくなる悪平等の結果を含んでおり、往々にして双方は同じ結果をもたらさない。)

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長期的に経済成長できる産業基盤が育ち、より多くの労働者の権利(生存権、職業選択の自由)が守られ、より良い賃金で働ける労働機会が増し、全体の利益(とりあえず、ここでは国民総生産と仮定する)がより大きくなるにはどうすれば良いだろうか。社会全体の制度設計を考えるとき、個別の問題解決を積み上げていっても、全体の利益をより多くする事は難しい。個別のグループは常に、自己の利益の増大を主張するからである。対象が十分に複雑で利益背反する構成要素が含まれている時、効率的な制度設計を行うにはトップダウン手法で行う事で高い効果を得るられる事は産業界では実績により証明されている。代表例であるシックスシグマ(DFACE法)のフローチャートによる設計手法を参考として示す。

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設計対象は、企業と雇用に関係した現在の社会構成を以下にように定義するものとする。下記図のように投資家や資本家(赤)、経営者(赤)、管理職(赤)、正社員(緑)、非正規社員(オレンジ)、失業者(黄色)、社会落伍した路上生活者(水色)のように分解した場合(これは思考実験の為の一例であって、このように分類すべきという訳ではない)を考えて見る。

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通常の経済状態(好景気でも不景気での無い状態)という条件で、水色と黄色のグループをなるべく小さくしながら、国民総生産がなるべく大きくなるように、全体枠の中の各グループの利益を調整(投資や会社運営や労働契約や解雇を規制する法律などの調整)しながら、社会的な制度(投資家に対するルール、企業に対するルール、雇用に対するルール)の設計を行う。この際に、労働者の利益が極端に小さくならないように、制約条件として国民の生存権・職業選択の自由、会社法、労働契約法、労働基準法、労働安全衛生法を加える。(その他の制約条件については*1参照されたし)

検討する設計の雛形については、マルクス派、ケインズ派、ハイエク派、新古典派流の考え方に所属する各人において意見が異なる。そこで、各人は自分が推す制度を、上記のようなステップで(先にあげた制約条件のもとで)脳内シミュレーションしてみれば良い。到達目標は、長期的な経済成長である。経済成長は国内経済のパイを広げるので、奪い合わなくとも全体の利益を増やす事ができるからだ。

社会制度の設計は、ある意味でシステム設計に似ているところがある。効率的なシステムの設計はトップダウン手法で行うが、設計がある程度進むと、今度は現在あるプログラム・モジュールを活用する為にボトムアップでのアプローチを併用して開発のリスク低減、コスト削減、納期短縮を行う。社会制度の実装においても同様に、新しい社会制度を具現化してゆく過程で、新制度のフレームが歪まない範囲で(場合によっては新しい法律を作成したり、既存の法律を修正したりしながら)、現在ある法律を用いて下から積み上げてゆく。社会制度設計の最終段階において、投資家、経営者、労働者の利益を確保しながら、それぞれが加害者・被害者となる犯罪がなるべく起き難いような社会制度に微調整を加える事は必要である。しかしながら制度の目標は全体の利益を高める事で、一部の犯罪を抑止する事ではないから、最終的には犯罪は制度ではなく法律で個別に取り締まるべきである。

どのような社会制度も、たった一度の設計と導入で最良の結果を得る事は難しい。新しい社会制度の導入を行った場合、結果の評価と最適化調整と再評価は重要である。調査は統計的な手法を用いて行い、先のシックスシグマ手法における現状認識のところへ戻って調査結果を分析し、設計との食い違いを見せている部分の修正の為の最適化調整を行い、再度の評価を行うべきである。社会は常に、内部要素と外部要素の影響を受けて変動している。いま現在で最良の社会制度は10年後にも最良とはいえない。上記のフローに従って、社会制度は常に現状認識から評価までのプロセスを繰り返し行い、社会変動を最適化調整によって修正するべきである。

以上のようなアプローチによって思考実験を行ってみた結果、私の個人的な意見としては、池田氏が主張するように負の所得税によるセーフティーネットを前提とした解雇規制の緩和によって雇用の流動を高め、この記事が指摘するように通信や放送業界や建設業など衰退傾向にある業界の既得権企業利益を守る為の規制を撤廃して、中小零細企業が新しく大企業に成長する余地を作ったり、新しい技術に基づく新しい産業の振興を邪魔しない事は、日本をこれから更に経済成長させ、失業者を減らし、投資家と経営者と労働者がともにパイの取り分を多くする結果を生むものと考えている。

補足*1:

刑事の法律を守る事は当然であるからあえて記述しない。労働三権は、資本家の力が非常に強かった過去の社会制度から労働者を守る為に最適化された法律であるので、新しい社会制度設計においては、ひとまず棚上げする。これらはあくまで、この記事における思考実験の為の条件であって、このようにせよと主張しているわけではない。

補足*2:

本文で使用した図面のエクセル表

social-design-process-2009-02-03.xls

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