雇用規制のまとめ

2月 1st, 2009 Categories: 1.政治・経済

池田氏小倉氏が「雇用問題についてのまとめ」という記事をアップしているので、私は「雇用規制」についてまとめてみました。

1)解雇規制弱める事は「不況時の失業率を高める」とはいえない(製造業編)

製造業における工員雇用数の増減は、景気(需要数)の他に、設備能力(設備投資)に比例する。大きな資本力を持つ大企業は、好況時は生産力(設備投資)を大きく増やすので、設備能力の増大に応じて工員の雇用数を大きく増やす。故に不況時には、余剰工員を大きく減らす必要が生じる。一方で、小さな資本力の中小零細企業(全体の8割から9割)は、好況時に設備能力(設備投資)を大きくする事は困難なので、好況時と不況時の工員雇用数に大きな差が無く、不況時の人員調整もゼロまたは小さなものになる。つまり不況時の大量解雇は大企業に限定され、全体の8割から9割の中朝零細製造業では、解雇はゼロまたは小さなものになる。

2)解雇規制弱める事は「不況時の失業率を高める」とはいえない(ホワイトカラー編)

ホワイトカラーの雇用数の増減は、景気(需要数)の他に、事業予算(今年使えるお金の額)に比例する。大きな資本力を持つ大企業は、好況時には大きな事業予算を作成するので、事業部・支店・販売店が拡張・増大し、それに応じて雇用数が増大する。不況時には事業部の縮小や撤退・支店や販売店の閉鎖により雇用数が減少する。一方で、資本力や内部留保の小さい中小零細企業(全体の8割から9割)は、好況時でも事業を拡張する事が難しい(事務所をひとつ借りるだけでも大きな経営リスクとなる)ので、好況時と不況時の雇用数にあまり差が無い。つまり不況時の大量解雇は大企業に限定され、全体の8割から9割の中朝零細製造業では、解雇はゼロまたは小さなものになる。

3)労働者の過大保護は「好況時の内需を低下させる」

大きな資本を株式市場から調達した上場企業は、需要の増大に合わせて供給力を増大させて、より大きな利益をあげ、より大きな配当によって株主に報いる経営責任を負う。(株式市場から資金を調達するとは、そういう事である)。国内の解雇規制が強く、正社員または非正規社員による人員調整ができない環境では、工員雇用数を好況時に合わせると、生産原価に占める直接人件費が好況時と不況時で(残業代を除くと)ほぼ同じになってしまう為、ただでさえ生産量も利益が少ない不況時の月次損益が更に悪化する要因となり、株主から経営責任を追及される事になる。故に、国内の解雇規制が強くなると、好況時の生産力(工員雇用)の増大を(解雇規制の緩やかな)アジアの工場で行う経営判断を下す事が必然となる。すると景気が上向いている時でも、国内の設備投資も工員雇用数も増えず、結果としてその分の国内景気を減速させてしまう。これは机上の空論ではなく、1990年代後半から現在に至るまでずっと続いている現実である。

4)短期の問題だけを考えてはいけない(1)

企業が新入社員を雇用する時、面接者がその企業の業務、職場にどれだけ適正があり、能力があるかを面接や試験だけで判断するのは極めて難しい。一旦雇用した後で能力や適正が無いと思われる場合に、解雇する事が難しければ、企業は無経験者や低学歴者などのを書類先行で間引いてしまい、工員など単純労働者からの転職者などが雇用される可能性が著しく減少し、業種間の労働者移動が難しくなる。新入社員に3ヶ月の試用期間を設けて、その間は双方が随時、労働契約を解除できる条件を持てば、企業は学歴や過去の経験が少ない者でも、面接者が少ない場合には労働者の能力や適正を「試してみる」余地が生まれ、条件の悪い労働者へ雇用の機会が広がる。

5)短期の問題だけを考えてはいけない(2)

企業では景気に関係なく社員を解雇する事が時々ある。労働者と経営者、労働者と職場、労働者と業務内容など、労働者との相性の問題は実際に雇用して(されて)業務を開始してみないとわからない。何年経っても労働者が仕事や職場に馴染めず、生産性が上がらない場合、同僚や会社に迷惑が及ぶだけでなく、本人にとっても大きな不幸である。特に中小零細企業では配置転換するほど職場が大きくないので、社内転職も困難だ。そういう場合に企業が合理的に解雇できる柔軟性があれば、解雇される労働者は、短期的には不幸せになるし、周りも「可哀想」という感情が発生するが、長期的にみれば、その労働者に適した会社なり職場にたどり着いて、より幸せになる可能性が高まる。

6)工員の所得水準を低下させつつサービス業の労働生産性を高めることは可能である

グローバリゼーションが進む現代において、高齢・高賃金・生産性が低い日本の工員が、全てに勝るアジアの工員と競争するのは不可能だ。故に国内の工場(工員雇用数)はこれから益々減少する。逆に、工場がアジアへシフトする事で減少した工員賃金の差額が、社内にいるもっと付加価値の高い労働者(エンジニアや営業や管理職など)の賃金に配分され得るので、社会全体としては今より所得が上がる人は多くなり、サービス業の客単価は上昇し、サービス業の労働生産性も上昇する。

7)不況下に労働者保護を緩めなければ、不況はさらに長期化する

不況下で企業が人員調整できないと、企業は原価上昇による経営悪化で体力が低下する。損益の赤字が続くと、株価も更に低下する。すると不況の原因が取り除かれた後も、企業は内部留保に不足を生じて自力で積極的な設備投資を行えない。また不況時に人員調整を意図的に行わなかった事で経営陣が株式市場(特に海外投資家から)から嫌われて、株価が低迷して株式市場からも銀行からも十分な資金調達ができない。製造業が積極的な設備投資を行わないと、景気上昇の起爆剤を失って、不景気は更に長期化する可能性がある。

8)企業の雇用責任

不況時に企業が人員調整すると、雇用責任という言葉を持ち出して、企業に雇用の維持を求める意見がある。しかしながら、企業が労働者に対して負う雇用責任とは、労働契約法、労働基準法、労働安全衛生法など企業が労働者に対して負っている責任に則り、雇用している労働者に安全で公平な環境や報酬を提供する事である。企業が不況時に、大量の生産力を超える労働者を、経営を悪化させてまで雇用維持しなければならない責任は無い。

雇用規制の緩和を行うと、社会全体が労働者をどんどん解雇し始めるとは思いません。私が20数年住んでいる香港を見ても、労働者の流動性を高める事は、中小零細企業を活性化させるだけでなく、労働者自身の賃金とスキルをアップさせています。更に言えば、だれでもが積極的に転職する訳ではなく、自分の能力を信じ、向上心の強い人が転職によって自己実現の機会を得ているのです。私の会社にいるスタッフの半分以上は新卒で入社して以来、ずっと弊社(同じ会社)で働き続けています。残りの半分は転職により入社した人達です。

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