低所得者対策は政府の責任

1月 24th, 2009 Categories: 1.政治・経済, 3.中国ネタ

小倉氏はしきりに、香港の貧困層を強調しています。香港の経済発展を否定する事で、雇用流動化も否定したいようです。ところで、入手された情報は正しく分析・評価すべきではないでしょうか。

香港の路上生活者は2007年の政府資料(ここ)によれば327人で、人口比0.0047%です。日本の路上生活者は貧困の救急箱ブログによれば2万人で、人口比で0.0143%です。終身雇用と社会福祉の整備された日本の方が、自助自立で生きる香港より、路上生活者が人口比で3倍も多い事がわかります。ソウルの例を出す前に、もっと足元を見たほうが良かったようです。

路上生活者の話題が出ましたが、小倉氏に教えて頂いた(ここここの)資料に詳細な調査報告が出ています。香港における野宿生活者の実態と自立支援事業の進展プロセスによれば、「香港における野宿生活者支援への取り組みは,日本の政令指定都市やそれを抱える府県にとっても,ある意味で参考になるシステムを有している。」と香港方式を評価しています。

政府の支援が必要な低所得者が増えた理由は、残念ながら雇用の流動化とは関係ありません。政策的に受け入れている新移民(中国大陸からの移民)が2007年の(この記事)によれば50万人(人口比7%)を超えました。香港ドリームを求めてやってくるかれら新移民の多くは広東語が話せず、技術もスキルもない昔ながらの移民第一世代なので、香港では月給4万円から6万円の低賃金の職しか得られません。新移民の問題解決には時間が必要ですが、年々毎年増え続ける新移民を止める事もできません。せめて新移民の人達には頑張って夢を掴んでほしいものです。

九龍城とは懐かしいですね。日本から友達が来ると、探検と称して城内観光に行ったものです。ここの生い立ちは、雇用流動化とは何の関係もありません。詳しい生い立ちについては、(wiki)を読んで香港の歴史を勉強してください。ところで私は、現在の香港について述べています。そこのところご理解頂ければと思います。

ところで昨今の大不況の中で、香港政庁の低所得者対策はどうなっているのでしょうか。China Loopによれば、香港政庁は昨年11月に、低所得者へ食事を提供する為に1億ドルの融資を発表したそうです。昨年9月から家庭の電気代を2ヶ月毎に8000円程度、政府が補助しています。おかげで我が家の11月から1月までの電気代は0円でした。終身雇用の国の低所得者対策とは、決断の速度といい対策の内容といい、えらい違いではないでしょうか。

4000万円のマンション購入について、月額24万円の支払いが必要との事ですが、住宅ローンには頭金が必要です。香港の銀行では購入額の30%を求められます。小倉さんの計算方法がわからないので、月額24万円から逆算して30年で支払い総額8640万円。これを4000万円+金利と仮定すると元本の2.16倍。そこで30%の頭金を除いた2800万円 x 2.16倍を30年で割ると、月額16万8千円。ところで私は前の記事で「大卒でオフィス勤めの月給20万円くらいの普通のサラリーマン夫婦」と申し上げました。つまり、夫と妻の給料だけで月額40万円の収入です。日本では、もっと辛い返済をしているサラリーマンの方は多いのではないでしょうか。

小倉氏が擁護する「終身雇用」がきちんとワークする為には、右肩上がりの経済を必要としていますが、いまや世界は非常に不安定な状況です。日本の企業は、「労働者の福祉」を企業に押し付ける無能な政府と、「事後の正義」を掲げる裁判所のおかげで、人員調整できない「正社員」を山ほど抱えています。円高と不況が続き、何年も赤字が続いた時の対策を考えれば、経営者は可能なかぎり内部留保を積み増す他に方法がありません。労働者の正義をかざして、正社員保護とか派遣切り反対を訴えるのは自由ですが、企業は「打ち出の小槌」を持っていません。人員調整もできず、赤字が何も続けば、内部留保を吐き出し終えたところで自主廃業するしかないでしょう。そうなれば困るのは誰でしょうか。

追記1:

記事の表題を、失業者対策...から低所得者対策...へ変更しました。

追記2:

頂いたコメントを読むと、変更した表題が別の誤解を与える可能性があるので、以下に補足説明します。小倉氏が香港の低所得者の多さを指摘されたので、私もつい調子に乗っていろいろ書きましたが、50万人を超える新移民の問題は、日本のなまっちょろい(仕事があるのに選り好みして働かない)派遣村の人達とは条件がまったく違います。新移民の人達は自ら望んで移民し、何でも出来る仕事を全力でやって、全力で生きている人達です。そういう人を不況下に政府がフォローするのは間違っているとは思いません。香港はすっかり豊になってしまい、どん底から這い上がる強力なハングリー精神がだいぶ廃れてしまいました。新移民の人達は、そういうエネルギーをたくさん持っています。香港の活力が失われないようにする為にも、政府がこういう人達を社会へ適合させる為にいろいろ行う事は必要かつ有益であり、長期的に香港の為になる事だと考えます。

それから、小倉氏は私の考え方を新自由主義と呼んでいるようですが、私は全体(企業と労働者と失業者とその他の人々)の利益を最適化する合理的な選択をするべきだと考えているだけです。 目先の「可哀想」な人を助けるのは医者や弁護士の使命かもしれませんが...

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12 Responses to “低所得者対策は政府の責任”

  1. けけ!
    1月 24th, 2009 at 21:11
    1

    最初の議論に戻ってるんじゃねーの?
    結局、香港を例に挙げて、新自由主義によるバラ色の未来を宣伝するのは諦めたんですかい。

  2. pugpon
    1月 24th, 2009 at 21:35
    2

    >1
    もうちょっと建設的なコメントをされたらどうですか?現代人のほとんどは、小倉さんの言うような遠い昔に捨て去られた平等主義の理想郷など目指してなんかないんですよ。市場のメカニズムを上手く利用しながら、その問題点を見て全否定したり退行したりせず、如何にもっとよい社会を築けるかが、向こう十年の世界的課題でしょうが。

  3. bobby
    1月 24th, 2009 at 22:38
    3

    けけさん

    コメント有難うございます。なかなか鋭いご指摘ですね、というのは冗談です。私が新自由主義かどうかはわかりません。雇用の流動性を高める事は、企業にとってだけでなく、労働者にとってのメリットになると信じていますから、香港の例を述べています。その同じ手で、ベーシックインカムの導入を書いています。こちらは新自由主義の範疇にはいるものでしょうか?

    香港での雇用の流動性と経済繁栄の話しは、本記事とは別に、下記の2つの新しい記事をご参照ください。

    【転職でランクアップさせるスキルと給料】
    http://bobby.hkisl.net/mutteraway/?p=535

    【香港の繁栄を支える人材循環と起業精神】
    http://bobby.hkisl.net/mutteraway/?p=536

    記事表題についてですが、50万人を超える新移民の問題は、日本のなまっちょろい(仕事があるのに選り好みして働かない)派遣村の人達とは条件がまったく違います。新移民の人達は自ら望んで移民し、出来る仕事を全力でやって、なんとか生活している人達です。そういう人を不況下に政府がフォローするのは間違っているとは思いません。

    Pugponさん
    仰る通りです。何主義かなんて関係ありません。冷静に考えて、全体(企業と労働者と失業者とその他の人々の利益)を最適化する合理的な選択をするべきだと思います。

  4. けけ!
    1月 25th, 2009 at 15:24
    4

    香港は、雇用の流動化が経済を繁栄させ、貧富の差のない社会です。
    但し、移民は除く。

  5. 人間は歴史から学ばない
    1月 25th, 2009 at 16:27
    5

    中途半端に経済学をかじった人間って、どうしてこうも教条主義的になるのか。

    かつてはマルクス経済学にマインドコントロールされた人間が資本主義から社会主義への移行は必然であると思い込んだ。
    今はフリードマン流の経済学(必ずしも主流的な経済学とは乖離していないが、極端)が世界を覆い、それにマインドコントロールされた人間は規制こそが諸悪の根源であると思い込む。

    両者に共通するのは現実との対話の欠如。理論をそのまま何の修正も無く現実に当てはめれば全て問題は解決すると思い込んでいる。そして理論を現実に当てはめてうまくいかないと、理論がまだ抵抗勢力によって十分に当てはめられておらず、抵抗勢力を排除してより純粋な理論を当てはめるべきと主張する。
    例えば革命当初のソ連、大躍進政策・文化大革命の中国、ポルポトのカンボジアのように、今の竹中平蔵等の主張はかつての社会主義者の主張と瓜二つ。

    それがどんな悲劇を招くか歴史は教えているのに。

    法律家は司法試験の段階で法理論の理解だけでなくそれを現実に当てはめたとき、現実との齟齬、不都合などが生じないかということを徹底的に訓練される。それができないと司法試験には合格しないし、司法修習も終了できない。経済学者との大きな違いは現実との対話についての訓練がされているかどうかである。

  6. bobby
    1月 25th, 2009 at 19:40
    6

    けけさん

    ご理解頂き有難うございます。仰るように香港は貧富の差が大きいのですが、それが社会の活力になっています。そういう香港が私は好きです。

    人間は歴史から学ばないさん

    法律家の社会へのアプローチはボトムアップ。経済学者の社会へのアプローチはトップダウン。社会への視点が違えば、考え方はかくも異なるのですね。

  7. 人間は歴史から学ばない
    1月 30th, 2009 at 01:43
    7

    経済学者の社会へのアプローチはトップダウン。

    つまり上から目線って訳ですね。何様のつもりなんだか。

    私は「法律家の社会へのアプローチはボトムアップ。」などという趣旨のことは全く書いていません。どうしたらそう読めるのか。不思議でなりません。

  8. bobby
    1月 30th, 2009 at 10:17
    8

    人間は歴史から学ばないは小倉さん、でしょうか。コメント、有難うございます。ご指摘の内容は私がla_causetteを読んで、個々の記事の内容から判断した考察です。

    私はソリューションプロバイダーという仕事をしています。平たく言えば業務コンサルです。昔のシステム屋は困っている担当者を「救う」システムづくりをしていましたが、「下から」見た「部分最適化」はその部署だけを幸せにするのであって、会社全体で見ると逆に非効率になっている事が多いのです。会社全体の業務効率を高めて全社的な「幸せの平均値」を上げるには、「上から」見て、各部署の「メリット」のバランスを考えながら、全体最適化する改善方法をみつけなければなりません。上から見るという事は、傲慢な事ではなく、全体のしくみをはっきり見る為の必須条件です。

    会社と社会も大変似たところがあります。労働者の利益を最大化するしくみにすると、誰も資本家や経営者などやらなくなり、しまいにはすべての会社が国有企業になります。昔のソ連や中国の状況に逆戻りですね。一方で資本家の利益を最大化するしくみにすると、産業革命当時の欧州のような労働者虐待に逆戻りですね。各グループの利益のバランスを考えながら全体の利益を最大化するしくみを考えて提案するのが、良くも悪くも、経済学者の仕事だと思います。(それを導入するのが政治家と官僚の仕事ですね)

    対象を上から見て全体のしくみを理解し、各部のバランスを考えながら、全体最適化の為のソリューションを考えるという事は、業務システム設計を行う者も徹底的に訓練され、各顧客ごとに、毎回のプロジェクト毎に、それを実地に行って結果の検証をしているという点では、法曹界の方には負けないという自負があります。また、不条理な人間関係を扱う弁護士さんとは違い、システムは大変合理的なので、設計する我々も常に合理的な思考を要求されています。

    弁護士さんの職業的な思考傾向はどうでしょうか。小倉さんの職業的な信念は、法廷で争っている両者を同時に幸せにする(和解させる)事ですか。それとも自分のクライアントを幸せにする(法廷闘争に勝つ)事ですか。もし後者であるのなら、現在の派遣切りや雇用流動化の議論においても、社会全体の利益でなく、自分が弁護する側にたっている労働者の利益を最大化する為の議論をされていませんか。

    池田氏の記事は確かに独善的であり感情的に不愉快ですが、政府や資本家や労働者のどれも擁護しておらず、記事内容は実に合理的であり、記事の対象にする多くの分野で全体の最適化を考えています。知的レベルが高く合理的な思考をする人ならば、池田氏の理屈を評価するでしょう。小倉氏が池田氏の理屈に反発を感じるのであれば、それは職業的な思考傾向が、本議論における小倉氏の立ち位置に大きな影響を及ぼしているのだろう類推して、「社会への視点が違えば、考え方はかくも異なるのですね。」と述べさせて頂きました。

  9. 人間は歴史から学ばない
    1月 31st, 2009 at 11:57
    9

    申し訳ない。私は小倉弁護士ではありません。
    同じ弁護士ではありますが、小倉弁護士が非常に嫌っている新司法試験組であり、資格は得ましたがまだまだ経験の無い者です。
    また私は、かつて某金融機関で長年、ディーラー等をしており、ロー制度開始後に法曹界へ転進したものです。
    もちろん日本証券アナリスト協会の検定会員でもあります。
    ですから、私は経済経営的な思考形態にも、法律家的な思考形態にも経験(「通暁」しているとは私の「日本人的美的感覚」からはいえませんが、欧米的には「専門家」と堂々と名乗るでしょう。)があります。

    当たり前ですが、法律家もBobbyさんのおっしゃるように「上から」の思考形態を前提として行っています。そもそも、法律とは最上位に憲法が存在し、例えば経済的な規定では、憲法22条や29条によって営業の自由や私有財産の保障がなされています。次に下位規範としての法律、特に民法が原則的な規範を定めており、その特殊形態として会社における法規範を民法の特別法たる商法、会社法が民法の規範を修正し、そのまた下に、いわゆる業法や規則等が存在します。
     なぜそのような形態を採っているかと言うと上位規範に行けば行くほど、原理原則を定めており、下位規範の解釈の指針として作用すること、また、上位規範の原則や理念をそのまま現実に当てはめていけば、不都合が生じるのは不可避であり、そこで原則の修正として、特別法が制定されてきたのです。Bobbyさんの言い方を借りれば「トップダウン」ですね。

    そこまでは立法の問題ですが、かかる制定法を前提として、それを現実の案件に当てはめたときにも、現実の案件は当然ながら1件1件事情が異なるわけですから、法律と案件のあてはめに不都合が生じることがあります。(法律を案件にそのまま当てはめると、当該法律が制定された趣旨とは逆の結果が生じてしまうなど。例えばレベルは異なりますが大きく見れば、最適な資源配分を通じて労働者の厚生をも改善する趣旨で労働法制を緩和したが、結果は逆となっていることなども同じような現象です。)そのような場合に、法律を柔軟に解釈し、案件に当てはめていくのが法律家の役割です。
    法律家はBobbyさんの言うところの「トップダウン」の思考形態も当然ながら徹底的に訓練されます。そこまでは経済経営系の方とは変わりません。ただ違うのは、最後の法律と案件の不都合に対しても対処する訓練を徹底的にされるということです。

    話は変わりますが、一体「社会全体の利益」って何ですか?安易に使われていますが、これほど論者によって意味内容が異なる言葉は、価値の対立にしかならないし、議論しても立場が違うと言うことを確認するだけで、徒労に終わることが多いので避けたほうがよろしいと思われます。
    忖度するに経済系の人が主張する「社会全体の利益」とは資源のパレート最適性のことを指すのでしょうが、当然のことながらパレート最適性は社会「厚生」を極大化はしますが、「公正」は全く担保しませんね。

    あと、気になるのはBobbyさんは「トップダウン」との言葉を使われますが、この言葉も避けたほうがよろしいかと思われます。私が思うに、経済学の「マクロ」「ミクロ」の言葉で代替されたほうが日本語的には無用の摩擦を生じさせず、無難だと思います。

  10. bobby
    2月 1st, 2009 at 00:22
    10

    人間は歴史から学ばないさん

    >私...などという趣旨のことは全く書いていません。

    人違いだったようですね。上記のコメントを見て、「書いてない」という元の文章が、本記事のTB先の記事かと勘違いしました。その2つ上のコメントを指していたのですね。失礼しました。

    合理的かつトップダウン思考ができる方が、雇用問題に関する池田氏の意見のどの辺に反対されるのか大変興味があります。下記のような曖昧な批判でなく、理屈には理屈をもって論破して頂きたいものです。もちろん、経済素人の私のところではなく、池田氏のサイトでという意味です。

    >マインドコントロールされた人間は規制こそが諸悪の根源であると思い込む。

    >そして理論を現実に当てはめてうまくいかないと、理論がまだ抵抗勢力によって十分に当てはめられておらず、抵抗勢力を排除してより純粋な理論を当てはめるべきと主張する。

    今日はちょうど都合良く、「雇用問題のまとめ」という記事が出ています。
    http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/91cdb14c810ee53d7653c4c2b3b56d22

  11. yajikita
    2月 1st, 2009 at 04:22
    11

    金融機関で長年ディーラーをやっていると。
    規制の多いマーケットのほうが非効率で裁定機会が多い。ただし、その規制が強すぎると裁定できなくなり歪みは放置される。効率的なマーケットは規制の少ないマーケットである。
    ということで規制に反対な人が結構います。私の知り合いの中には「自由市場」なんていう刺青を入れてた人もいます。まあ適度に規制があったほうが、規制の例外を利用して比較的簡単に儲かりますが。
    いろいろな国の規制当局と交渉していると疲れるときもありますよ。一番ひどいのは条例に書いていない裁量行政ですが。

  12. 12月 4th, 2009 at 01:02
    12

    Very useful topic, thanks http://sxeantihile.wordpress.com

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