雇用の流動化が経済を繁栄させる実例

1月 22nd, 2009 Categories: 1.政治・経済

世の中、なぜにかくも短絡的な思考の方が多いのでしょうか。経済学者の池田氏が雇用の流動化を促進する制度が必要(ここ)だと説いているのに対して、弁護士の小倉氏は「雇用の流動化=失業と貧困」説(ここ)からいまだに抜け出せません。小倉氏はぜひ、「雇用の流動化=経済活性=繁栄」の実例である香港を一度ぜひご覧いただきたいものです。以下、私の住む香港を例にご説明致します。

香港では、雇用の流動性は極めて高いのですが、平均的な所得水準は高く、貧民街もなく、街には高級車が溢れており、30代前後で4000万円くらいのマンションをローンで購入する若者はとても多いのです。

終身雇用などだれも気にしない香港では、自分の能力や経験を磨く事にだれもが貪欲です。大学卒業して目当ての業界(会社)に就職しても、1年から3年おきに転職を繰り返します。一つの会社で習得する知識や経験は限られていますし、一つの会社の中での昇給幅も限られています。転職する度に、当然、今より高い給料を要求します。新卒給料の相場は、20年前からあまり上がっていません。どこの大学を出ても、新卒は知識も経験も無いからです。しかし、ほんの数年で、良い職を得た人と、そうでない人の給料の差はどんどん広がります。職業による差もありますが、能力の方がはるかに重要である事は言うまでもありません。

香港人が転職を繰り返し、給料とスキルアップを急速に増やすのは、だいたい35歳までです。それ以降は、求める給料やポジションの関係で転職が難しくなりますので、できるだけ安定した職場を見つけて、あとは定年までなるべく大人しくしようとする人が多いようです。

香港人が転職する理由は、昇給とスキルアップの他に、もう一つ大事な理由があります。会社の自分に対する支配力をなるべく減らすという事です。現在の日本の労働者は、そういう意味で、あまりに他者に依存し過ぎています。高度成長期以前の日本は、そうではありませんでした。今の日本人は、あきらかに会社に甘えすぎています。

香港で夫婦共働きが多い理由は、いくつかあります。一つは住宅ローンを短期(5年から10年)で返済する事。もう一つは家族の収入源の分散化の為です。収入原の分散といえば、一人で複数の収入源を確保している人も多いようです。株への投資であったり、夜間のアルバイトであったりします。香港の納税申告書(香港では全員が税務署へ青色申告する)には、複数の収入原の会社を書く欄が複数あります。会社はアルバイトを禁止しても、税金さえ納めれば税務署は関知しません。夫婦がそれぞれ、複数の収入原を持つのが理想的なようです。(妻の視点から見れば、共働きの理由として、夫から経済的に独立している事も含める事ができます。男の方が統計的に早く死ぬし、離婚対策もあるのでしょうか。)

香港を見ていただければ、小倉氏の懸念が杞憂である事がご理解頂けると思います。

追記1:

小倉氏が記事の追記で、自由に解雇できる「解雇条件」について池田氏に噛み付いています。しかし池田氏は、雇用流動化の議論について、法律上は禁止されていない人員調整など経済的理由が判例によって困難になっている現状を改善する事についてずっと話をされていました。これは彼のブログを読んでいる読者には周知の事です。このような失態を招く前に、私が書いた(TBさせて頂いた)「 雇用の流動性と不当解雇は別次元の問題」(ここ)をぜひ注意深く読んで頂ければ良かったのですが...

追記2:
香港では、部門閉鎖や縮小などの「経済的事」を理由にした解雇は認められていますが、年齢・容姿・性別・結婚や出産・宗教・上司に嫌われるなどを理由にした解雇は禁止されています。渡辺千賀さんが米国事情を述べていますが、香港でも大企業や大きな工場の方が、「経済的事」による大量解雇が頻繁です。それ以外の中小企業では、「経済的事」による解雇はあまりありません。

追記3:

ぜひ日本でも見習って欲しいですが、香港には労働者の駆け込み寺があります。解雇された労働者が解雇理由を不満に思う時は、すぐに労工署(Labor department)に駆け込んで苦情を申し立てます。労工署は両者を呼んで調停を行いますが、労工署は十中八か九は労働者側へ見方します。会社が一人だけ解雇する時には、会社が客観的な証拠を揃えるのは非常に困難なので、たいていは労働者が勝ちます。その場合、労工署は解雇された労働者に給料数ヶ月分のお金を支払う事を勧告して和解させます。私の会社でも2回、解雇した社員に駆け込まれて、相手側へお金(給料3ヶ月分くらいだったでしょうか)を支払いました。解雇から和解終了まで1-2ヶ月くらいと比較的短期に解決します。

追記4:

労工署の調停を蹴って裁判に持ち込む事もできますが、消耗する時間とお金は労工署の調停の比ではありませんので、よほど意地か恨みが強くないと、そこまでもつれる事はありません。労働者はお金と名誉の回復が必要なのであって、自分をクビにした会社の職にしがみ付く必要はめったにないからです。

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15 Responses to “雇用の流動化が経済を繁栄させる実例”

  1. pugpon
    1月 22nd, 2009 at 17:01
    1

    Bobby さん
    香港の事例は興味深いですね。うちの会社にも中国人はたくさんいますが、行動原理は全く同じです(自分の非をなかなか認めないなどの悪しき国民性も併せ持ちますが。)。多くの日本人に彼らの逞しさと自立心があれば、派遣村での見せ掛けの正義を振りかざす人達のことを、茶番だと笑い飛ばすことができたろうにと思いますね。

  2. bobby
    1月 22nd, 2009 at 17:16
    2

    Pugponさん

    >自分の非をなかなか認めないなどの悪しき国民性も併せ持ちますが。

    東莞のお客さんの会社でもしばしば耳にしますが、これは文化の違いと思って諦めた方が精神衛生上いいですね。(笑

  3. pugpon
    1月 22nd, 2009 at 17:57
    3

    >東莞のお客さんの会社でもしばしば耳にしますが、これは文化の違いと思って諦めた方が精神衛生上いいですね。(笑

    だいぶ昔に諦めました(笑)
    しかし、今回の労働問題(実態は単なる不況だけど)を見るにつけ、日本人はだんだん知性の面でヤワになっていっているような気がしますね。小倉氏も湯浅誠氏も1960年代後半生まれなので、ゆとり教育は関係ないですが。。。。ゆとり教育といえば昨年廃止が決定したのにもかかわらず、実行に移されるのはなんと2011年の春になるそうです。しっかりしてよニッポン人!

  4. あのね申す
    1月 22nd, 2009 at 21:53
    4

    >久間氏のブログより
    全文は読んでいませんがお疲れ様です。
    極論から言えば税金(諸経費含む)払うまでは現実と理想は紙一重なのでしょう。

  5. bobby
    1月 23rd, 2009 at 12:17
    5

    あのね申すさん

    コメント有難うございます。もし宜しければ「久間氏のブログ」のURLをお教え下さい。

  6. あのね申す
    1月 23rd, 2009 at 22:10
    6

    自由帳とbobbyでLIVEDOOR検索でひけます。

  7. bobby
    1月 24th, 2009 at 00:40
    7

    小倉さん

    この記事へのリプライ記事を書いて頂き、ありがとうございました。香港がジニ係数が高くても、夢の有る良いところだという記事を下記にアップしました。
    http://bobby.hkisl.net/mutteraway/?p=534

    また、香港の新卒大学生が「雇用の流動性の高さ」をどのように利用して、スキルと給料をアップさせてゆくかという記事も下記にアップしました。
    http://bobby.hkisl.net/mutteraway/?p=535

    ご参照までに。

  8. bobby
    1月 24th, 2009 at 00:52
    8

    あのね申すさん

    高校生さんのブログの事だったのですね。思い出しました。その節は有難うございました。

  9. あのね申す
    1月 24th, 2009 at 20:57
    9

    よく頑張れるなと感心しました。
    と言いつつ、先ほど、
    かのブログにコメント書いてしまったのですが(苦笑)
    基本携帯ROM専でPC叩くのはすごーく興味が湧いた時だけなので。
    とくに、かのブログは彼が社会に出て将来どのような事を感じるのか興味があってROM専してて書く気はなかったのですが・・・
    bobbyさんのコメントに、
    その線は苦労するぞと余計なお節介をやく事に興味が><

  10. bobby
    1月 25th, 2009 at 11:48
    10

    あのね申すさん

    高校生といえば最も潔癖な時期ですから、目の前の「可哀想」をストレートに感じ取るのは悪い事ではないのですが。もう少し、理屈には理屈で返してほしかったと、それだけが残念です。あんな風に逃げてしまうと、大人になったときに半端な議論しか出来なくなるのじゃないかと、それが気になりました。

  11. あのね申す
    2月 3rd, 2009 at 00:14
    11

    私の意見ですが
    人は知識の範囲までしか理解できないのだと思います。
    経験と言う知識がない彼にとって理解できない世界が多いのだと思います。
    私の人生いい加減ですが
    知識は人を賢い馬鹿にする。経験は人を愚かな賢人にする。
    などと思っています(笑)

  12. bobby
    2月 3rd, 2009 at 16:58
    12

    あのね申すさん

    >知識は人を賢い馬鹿にする。経験は人を愚かな賢人にする

    なかなか含蓄のある言葉ですね、有難うございます。知識を広げる事は認識の地平線を広げるが、それに囚われる事は逆に認識の地平線を自ら狭めるという事ですね。

  13. yajikita
    2月 3rd, 2009 at 22:01
    13
  14. yajikita
    2月 3rd, 2009 at 22:03
    14

    うまくXHTMLが書けなくてすみません。

  15. bobby
    2月 3rd, 2009 at 22:18
    15

    Yajikitaさん

    リンクされた新聞記事、読ませていただきました。あのね申すさんが言われた、「知識は人を賢い馬鹿にする」を地で行く方のようですね。大学は学問を勉強するところですが、こういう方はもっと、マージャンやバイトなどの社会勉強をされた方が、学問知識と社会経験のバランスが取れたんだろうなぁ、などと思いました。

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