大学が有能な人材を輩出する方法

2月 17th, 2013 Categories: ブログ評論, 4.教育

大学教員の10人に6人が、学生の学力低下を問題視しているそうです。(*1)アゴラの辻元氏は、今の大学生に足りないのは主体的に考える能力であり、マニュアルの無い事が苦手なのだと指摘しています。(*2)この問題を教育論的な視点ではなく、統計的な視点から考えてみたいと思います。

私は最初、この問題は単純に小中高校の教育方法の問題であろうと考えました。しかし、調べてみるとそうではない事がわかります。詰込教育の弊害、ゆとり教育の弊害などの教育論を持ち出す人がいますが、実はトップ学力の生徒達の能力が「それほど」変化していない事は、OECDのPISA調査(*3)および国際数学・理科教育調査(*4)をみれば明白です。日本の順位は上下していますが、10位以下の圏外へ落ちるというような明白な落差はありません。人間の能力というものは、たとえばサッカーのトップ選手をみれば明白で、香川真司や柿谷曜一朗のような選手が毎年平均的に出てくる訳ではありません。

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また、ゆとり教育の一環として導入された「総合的な学習の時間」というカリキュラムは、生徒が自発的に考える能力を開発する事を目的としているようです。(*5)であるにも関わらず、大学生の「主体的に考える能力」が低下という現象が本当に見られるするならば、それは教育方法の改善では対応できない問題と言えるのかもしれません。

トップ学力の生徒達の能力に大きな変化はないが、全体としての学力が低下している理由として、他にどのような事が考えられるのでしょうか。実はネット上を調べていて、興味深い資料を見つけました。

まず、世界の国での大学進学率のグラフ(*6)をご覧ください。日本の大学進学率は先進国あるいはOECD平均と比べてもそれほど高くありません。

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日本の大学進学率は、国際的にみればそれほど高い訳ではありません。大学生の学力低下の議論の一つに、大学が多すぎるというものがあります。(*7)これが「正解」となる為には、世界的に見て、進学率の増大と大学生の学力の低下に明白な因果関係が必要であると思われます。しかし、進学率が日本より高い韓国は、国際数学・理科教育調査(*4)の直近2回のランキングで1位となっており、必ずしも因果関係があるとは言えないようです。(この件は興味深い話題であるので、いつか別の機会に掘り下げたいと思います。)

次に、日本の大学進学率と18歳以下の人口推移を並べたグラフをご覧ください。(*8)大学進学率は1990年(平成2年)前後で少し凹みますが、そこから増大し続けています。一方で18歳以下の人口は同じ時期を境に減り続けている事がわかります。つまり、大学進学者は増大する一方で、受験生の年齢層の人口は減り続けています。
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最後に大学進学者数の比較イメージの図をご覧ください。(*9)1993年の19歳から22歳人口は816万人、その中で大学生数は240万人。大学生と同年代の人口に占める大学生数は約25%。ところが2009年になると、19歳から22歳人口は513万人に減少し、大学生と同年代の人口に占める大学生数は約50%になっています。人口減少と進学率増大は継続していますので、2013年現在、大学生と同年代の人口に占める大学生数は約50%を超えているでしょう。
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私はこのグラフを見て、下記の正規分布図を思い出しました。(*10)いつの時代にも優秀な生徒・学生は一定のパーセント数いるが、その絶対数は母数の大きさに比例して増減します。そして、生徒・学生の能力は、分布図の左側へ行くほど減少します。

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1993年には、トップから25%までの能力の人達が大学進学していたのに対して、2009年ではトップから50%までの能力の人が大学進学しています。ならば大学生の平均学力が低下すると考えるのは、統計的に見て合理的です。

また、大学生の進学率が大学の収容人員の増大ではなく、大学数の増大で吸収されており、すべての優秀な大学生が東大を目指す訳ではない事を考えれば、優秀な学生は一つの大学に集まるより多くの大学へ分散する傾向があると考える事もできます。(下図は*9より)

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これまでの話しをまとめると、大学生の学力が(主体的に考える能力も含めて)過去との比較で相対的に低下している事が正しい場合、その理由として考えられる事は、小中高校の教育方法の悪化、大学の質低下は(あったとしても)大きな要因ではなく、主な原因は単純に、受験生世代の人口減少と進学率増大が同時に進んだ結果、正規分布図における「より能力の低い受験生」が大量に大学生になっているからだと考える事が合理的であると考えます。

ここまで話しが進めば、大学が有能な人材(大学の本質は勉強と研究であるので、ここでは成績が優秀な人材=有能な人材と定義します)を以前のレベルで排出できるようにする為の方法は単純で、

1)大学数を減らして、1つの大学に、より多くの数の優秀な学生が集まるようにする。

2)大学進学率を25%(あるいはもっと少ない%)にする。

この2つの教育政策を同時に行う事で、少数の優秀な大学により多くの優秀な学生が集まるようになり、それ以外の大学の学生もそれなりにレベルアップする事ができるようになるでしょう。

受験生世代の人口減少が続き、進学率は50%より増大、という条件をキープしながら大学生の学力アップを行うというのは、政治家のお題目としては聞こえ良いし、理論的には可能かもしれないが、現実に日本で行う事は困難であろうと考えます。大学生全体の学力を改善する為には、全国津々浦々の学校の受験生達全員がレベルアップしなければなりません。大都市に居住する高校生のレベルアップというのは、ある意味でそれほど難しくないと思われますが、地方の高校生の平均学力レベルを都市部と同等に引き上げるのは、そんなに簡単ではないと思います。高校生の学力アップのモチベーションは大学受験ですが、都市部と地方部では進学率に差があります。(*11)地方部の高校生全体の平均学力をアップするには、進学率もアップする必要があります。しかし地方部の高校生の進学率が都市部より低いのには、学力の問題の他に地理的な問題、経済的な問題などいろいろと絡んでおり、進学率を引き上げるのはなかなか難しいと思います。

そんな事が日本で可能なのかといえば、現実には無理ではないかと思いますが、さて、みなさんはどう考えられますか。

 

引用資料:

1)[調査]深刻な大学生の学力低下 教員の6割問題視 (ベネッセ)
2)大学が有能な人材を輩出するには (アゴラ)
3)図録学力の国際比較  (OECDのPISA調査)
4)国際数学・理科教育調査 (wiki)
5)総合的な学習の時間 (wiki)
6)世界の高等教育機関の学生数と大学進学率の増加 (文部科学省)
7)日本の大学は多すぎるのか? (独立行政法人労働政策研究・研修機構法)
8)大学・短期大学への進学率の推移 (文部科学省)
9)「なぜ大学進学率が50%を超えたのか? (小樽商科大学教育開発センター)
10)正規分布 (wiki)
11)学校基本調査 進学率に都市部と地方で明確な差 (全国私塾情報センター)

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