賃金を下げれば失業率が下がる実例

1月 6th, 2009 Categories: 1.政治・経済

正社員の賃金を下げれば、有効需要が増えて失業が減る実例は東南アジアの組み立て加工業をみれば明らかです。日系メーカーの工員(一部の例外を除き、普通の工場ワーカーは正社員である)の雇用は、その国が強い雇用規制に走らないかぎり、需要が増えれば雇用を増し、需要が減れば解雇して調整する事で人件費を需要に合わせています。

ところで小倉秀夫氏はブログで、下記のように「賃金を下げても雇用は増えない」と主張されています。

商品需要自体が横ばい又は減少局面にある場合に、賃金水準が低下したからといって労働需要が増加するかといえば、そこは大いに疑問です。

景気が横ばいの状態の時に賃金が下がった場合について考えましょう。もし私が工場の経営者だったら、2つの事を考えます。1つは今後の景気について。半年から1年以内に不景気になるという予測が強ければ、新規雇用を差し控えるだけでなく、製造原価に占める人件費と材料原価の見直しを考えます。

もう一つは、製造現場の状況です。賃金が高くて、十分なワーカーを雇用できない状況は(高賃金国では)普遍的に存在します。ワーカーの賃金が下がる事で、安全と品質を十分に確保できるだけのワーカーを補充する事が考えられます。

景気が悪化している局面では、賃金が下がったら雇用が増えるとは、池田信夫blogでも言ってないと思います。というか、そういう事は素人でもわかる筈。

賃金水準の低下により所定の「人件費枠」の範囲内で可能となった新規雇用を行って商品の生産量を増加させ、商品1個あたりの価格を引き下げたからといって、生産量の増大に伴うコスト増を超える売上げ増が見込めなければ、新たに労働者を雇用するメリットが経営者側にないからです。

工場が生産量を増大する為に雇用を増すのは、需要予測(最終セットメーカー)あるいは注文(下請けメーカー)が増大したからです。人件費が安く雇用規制のゆるい国では、製造メーカーは需要の増減に応じて雇用数も柔軟に調整できるので、利益確保しやすいのです。

「賃金水準の低下」を、「想定人件費枠内における雇用労働者の増加」ではなく、「人件費枠の縮小」につなげれば、経営者および株主の取り分が増加することとなることを考えれば、なおさらです。

非常に近視眼的な見方です。組み立て加工メーカーが日本から東南アジアへ移転しているのは何故か。池田信夫blogによれば、市場価格は競争により低下して限界に達します。製造メーカーは、市場が決める(競合各社ともにほとんど差の無い)価格からより多くの利益を得る為に、製造原価(材料費、人件費、製造費)をより低くできる環境(中国やベトナムなど)を目指します。日本の工場ワーカーの人件費が(ベーシックインカムまたは負の所得税の実施を前提として*1)ベトナム並みに安くなれば、大きなリスクをおかしてまで異国へ工場移転する会社は激減し、外国からたくさんの工場が日本に戻ってくるでしょう。欧米メーカーも競って日本に工場を建てるかもしれません。そうなれば、工場ワーカーの需要は大いに増すでしょう。

さて、昨年1月に労働法を改正(改悪)して、工場ワーカーの雇用保護を強めた中国では、台湾や韓国の多数の工場が、数千人単位のワーカーを切り捨て、年末の給料とボーナスも未払いのままで母国へ逃げ帰りました。 中国に進出している海外メーカーは、ベトナムやインドへの工場移転を真剣に考えています。

数年前に工場ワーカーの雇用規制を強めたフィリピンでは、工場ワーカー全員を正社員から(いつでも首を切れる)契約社員に切り替える工場が増え、工場ワーカーの身分を更に不安定にしました。
工場ワーカーの雇用規制が、長期的には決してワーカー自身の為にならない事を如実に示す実例がお隣の国で起こっています。

*1を追記しました。(2009/1/6)

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13 Responses to “賃金を下げれば失業率が下がる実例”

  1. 質問ですが
    1月 6th, 2009 at 13:31
    1

    >日本の工場ワーカーの人件費がベトナム並みに安くなれば、大きなリスクをおかしてまで異国へ工場移転する会社は激減し、外国からたくさんの工場が日本に戻ってくるでしょう。
    そうした工場が日本に戻ってきたとしても、賃金水準の切り下げが前提である以上、「ワーキングプア」は存在し続けるわけですよね。それはどう解決すべきだとお考えですか? それとも「解決する必要は無い」とのお考えなのでしょうか。
    社会における貧困層の割合が増えること自体は、社会保障の拡充などとセットである限り、問題にはならないかもしれません。但し、社会全体の賃金水準が下がると購買力も落ちますから、長期的には企業が自分の首を絞める結果になりませんかね?

  2. bobby
    1月 6th, 2009 at 16:07
    2

    >質問ですがさん
    >「ワーキングプア」は存在し続けるわけですよね。
    ご指摘頂き有難うございました。大事な点を書き漏らしていましたので内容を一部(*1)追加しました。最低賃金を大幅に下げる前提として、ベーシックインカムまたは負の所得税を導入します。

  3. bobby
    1月 6th, 2009 at 21:51
    3

    >社会全体の賃金水準が下がると購買力も落ちます

    後半部分の質問にお答えします。社会全体の賃金水準が下がる訳ではありません。東大出の高給取りはそれなりに、最低賃金の工場ワーカーはそれなりの幸せな生活ができれば良いのだと思います。国民の何%が工場ワーカーになるのかわかりませんが、それを格差社会というならその通りです。しかしながら昔も今も、終生アパート住まいの貧乏人の方が、毎月の給料を衣食住と目先の娯楽に使い切る人が多いので、金持ちよりも実体経済に貢献している事は確かです。つまり貧乏人が増えても、購買力はそれほど落ち込まないだろうというのが私の結論です。

  4. もう一つ質問ですが
    1月 7th, 2009 at 11:28
    4

    >終生アパート住まいの貧乏人の方が、毎月の給料を衣食住と目先の娯楽に使い切る人が多いので、
    そうした「衣食住」のうち、衣・食に関しては既に、海外で生産された商品が日本市場に(無視できない割合で)入ってきていますよね。低価格商品であれば、その傾向はなおのこと強まります。つまり、そうした部門で「実体経済に貢献」しているからといって、日本の企業には利益がもたらされるにしても、国内での雇用創出には繋がらないのではありませんか? 
    そうした生産拠点を国内に移転させれば解決できる問題かもしれませんが、そのためには巨額の財政的な負担が必要になりそうです。貴兄の提示されたモデルは、どうも根本的な矛盾を抱えているように感じられてならないのですが。

  5. bobby
    1月 7th, 2009 at 13:58
    5

    >もう一つ質問ですがさん
    ご意見とご質問を頂き有難うございます。まずは雇用創出の根拠についてお答えします。

    日本を含めて世界の製造メーカーがベトナムやタイなどアジアの途上国へ工場を作るのは、低賃金だからです。それらの国が外資を一生懸命に誘致する大きな理由の一つは雇用創出と外貨獲得です。

    日本のようにカントリーリスクが低い国(法整備されている、治安が良い、発達した物流とITインフラを利用できる)の工場賃金が東南アジア並みになれば、わざわざカントリーリスクの高いアジアの途上国に設備投資をする企業があるでしょうか?外資の工場投資が増大すれば、雇用創出と外貨獲得の一石二鳥です。納得頂けましたでしょうか。

    さてベーシックインカムですが、1億4千万人に仮に5万円ずつ毎月支給すると、年間予算は72兆円です。ところで国の特別会計(各種年金などの収入)で重複を除いた数字(純計ベース)が169兆円くらいあるそうです。ベーシックインカム導入により、政府が支給する全ての年金や補助金を廃止しますから、この財源をベーシックインカム予算として利用できると思います。それでも足りなければ、たとえば年収の高い人の所得税の累進税率を上げる事で対応します。ホリエモン氏も言っているように、能力のある高所得者が、国民全体を食わせれば良いという考えです。ですから巨額の予算であっても「巨額の負担」では無いというのが私の意見です。納得頂けましたでしょうか。

    上記説明で納得がゆかない場合には、下記の記事もご参照ください。
    【ベーシックインカムの実現可能性】
    http://bobby.hkisl.net/mutteraway/?p=470

    【(ベーシック・インカム)を指示します(山崎元氏)】
    http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/e/df9729ff82024e97dd3447d08d9c5f27

    【ベーシックインカムに関する補足(山崎元氏)】
    http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/e/39789e023a0ba7d25be7d882d9fc84d8

  6. turusankamesan
    3月 22nd, 2010 at 09:59
    6

    そのお考えは、ベーシック・インカムをベースとした国際競争力強化=労働ダンピングになりませんか? 国家規模での。
    世界中から非難されると思いますよ。

  7. bobby
    3月 22nd, 2010 at 23:23
    7

    turusankamesanさん、結果としてそうなる事は承知しています。しかしベーシック・インカムは、特定の輸出品目の労働者だけでなく、全国民を対象としているので、輸出先政府が非難するのは難しいかもしれませんね。

  8. turusankamesan
    3月 25th, 2010 at 09:15
    8

    どうでしょうかねえ。
    特定の輸出品目に限定しての非難なら弁解の膏薬はいかようにも貼れるでしょうが、非難される物は、
    日本国民はBI支給額をブーツの底にして木の実を奪っている
    的な非難になりそうな気がします。

    国家戦略としての労働ダンピングで且つ、日本国民自身が、低賃金労働に甘んじられるならば、世界が真似する可能性も無くはないでしょうが、BI支給と低賃金労働の関係は、国内での新たな問題を引き起こす予感がします。

  9. turusankamesan
    4月 6th, 2010 at 09:08
    9

    今、アメリカでのトヨタ批判の大本は、アメリカが勝てない車 だからでは無く、こんな良い車を何故この価格で売れるのか? ダンピングじゃねえの?
    じゃないかと勘ぐってます。
    アメリカが勝てない高性能な日本車=アメリカが日本に劣ってる
    てなだけの図式だけじゃなく、
    アメリカが勝てない高性能でそこそこ価格な日本車=そんな車をアメリカが作ったら法外な価格になる高性能なアメ車。

    既に日本は労働ダンピングしてるんだが、性能が良くてアメリカの裕福層には人気がある(ネームバリューですね)から表立って言えない。
    貴殿の言い分をみてると、日本製品全てを非難の対象にする口実を与える気がします。

  10. bobby
    4月 6th, 2010 at 18:31
    10

    turusankamesanさん
    >どうでしょうかねえ
    たとえば中国の法人税は25%で香港は17%ですが、それで欧米の政府がダンピングと判断したという話しは聞いたことがありません。

  11. bobby
    4月 6th, 2010 at 19:21
    11

    turusankamesanさん

    >日本製品全てを非難の対象にする口実を与える気がします。

    過去にNECのスパコンがダンピング認定されたが、あとから米国側の研究でダンピングではなかったという調査結果が出ているようです。日本の省庁の裁量行政が外部から極めて見えにくい事が問題です。行政の透明性を高めれば、事あるごとにダンピングを理由に日本製品を排除しようとする者を防ぐ事ができるのではないでしょうか。

  12. turusankamesan
    4月 11th, 2010 at 21:54
    12

    中国・香港を持ち出しての話は不釣り合いじゃないですかね。
    円・元レート差を考えても、欧米が日本と対等な扱いで中国労働力ダンピングを言いますもんでしょうか。

    過去の1ドル=360円の頃の日本と同じとまでは言いませんけどね。

  13. bobby
    4月 11th, 2010 at 23:47
    13

    turusankamesanさん、「欧米が日本と対等な扱いで」というのは認識がだいぶ古いのではないでしょうか。欧米政府が貿易赤字を問題にしているのは、数年以上前から、日本ではなくて中国です。確認したければ「米商務省 ダンピング」でググってみて下さい。みんな中国ネタばかりです。為替の問題でも、米政府は中国に元の切り上げをずっと要求し続けています。中国は現在、世界最大の市場であると同時に、世界有数の輸出国です。

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