賃金を下げれば失業率が下がる実例

正社員の賃金を下げれば、有効需要が増えて失業が減る実例は東南アジアの組み立て加工業をみれば明らかです。日系メーカーの工員(一部の例外を除き、普通の工場ワーカーは正社員である)の雇用は、その国が強い雇用規制に走らないかぎり、需要が増えれば雇用を増し、需要が減れば解雇して調整する事で人件費を需要に合わせています。

ところで小倉秀夫氏はブログで、下記のように「賃金を下げても雇用は増えない」と主張されています。

商品需要自体が横ばい又は減少局面にある場合に、賃金水準が低下したからといって労働需要が増加するかといえば、そこは大いに疑問です。

景気が横ばいの状態の時に賃金が下がった場合について考えましょう。もし私が工場の経営者だったら、2つの事を考えます。1つは今後の景気について。半年から1年以内に不景気になるという予測が強ければ、新規雇用を差し控えるだけでなく、製造原価に占める人件費と材料原価の見直しを考えます。

もう一つは、製造現場の状況です。賃金が高くて、十分なワーカーを雇用できない状況は(高賃金国では)普遍的に存在します。ワーカーの賃金が下がる事で、安全と品質を十分に確保できるだけのワーカーを補充する事が考えられます。

景気が悪化している局面では、賃金が下がったら雇用が増えるとは、池田信夫blogでも言ってないと思います。というか、そういう事は素人でもわかる筈。

賃金水準の低下により所定の「人件費枠」の範囲内で可能となった新規雇用を行って商品の生産量を増加させ、商品1個あたりの価格を引き下げたからといって、生産量の増大に伴うコスト増を超える売上げ増が見込めなければ、新たに労働者を雇用するメリットが経営者側にないからです。

工場が生産量を増大する為に雇用を増すのは、需要予測(最終セットメーカー)あるいは注文(下請けメーカー)が増大したからです。人件費が安く雇用規制のゆるい国では、製造メーカーは需要の増減に応じて雇用数も柔軟に調整できるので、利益確保しやすいのです。

「賃金水準の低下」を、「想定人件費枠内における雇用労働者の増加」ではなく、「人件費枠の縮小」につなげれば、経営者および株主の取り分が増加することとなることを考えれば、なおさらです。

非常に近視眼的な見方です。組み立て加工メーカーが日本から東南アジアへ移転しているのは何故か。池田信夫blogによれば、市場価格は競争により低下して限界に達します。製造メーカーは、市場が決める(競合各社ともにほとんど差の無い)価格からより多くの利益を得る為に、製造原価(材料費、人件費、製造費)をより低くできる環境(中国やベトナムなど)を目指します。日本の工場ワーカーの人件費が(ベーシックインカムまたは負の所得税の実施を前提として*1)ベトナム並みに安くなれば、大きなリスクをおかしてまで異国へ工場移転する会社は激減し、外国からたくさんの工場が日本に戻ってくるでしょう。欧米メーカーも競って日本に工場を建てるかもしれません。そうなれば、工場ワーカーの需要は大いに増すでしょう。

さて、昨年1月に労働法を改正(改悪)して、工場ワーカーの雇用保護を強めた中国では、台湾や韓国の多数の工場が、数千人単位のワーカーを切り捨て、年末の給料とボーナスも未払いのままで母国へ逃げ帰りました。 中国に進出している海外メーカーは、ベトナムやインドへの工場移転を真剣に考えています。

数年前に工場ワーカーの雇用規制を強めたフィリピンでは、工場ワーカー全員を正社員から(いつでも首を切れる)契約社員に切り替える工場が増え、工場ワーカーの身分を更に不安定にしました。
工場ワーカーの雇用規制が、長期的には決してワーカー自身の為にならない事を如実に示す実例がお隣の国で起こっています。

*1を追記しました。(2009/1/6)