ベーシックインカムの実現可能性

ベーシックインカム負の所得税)は大変興味深いアイデアです。負の所得税は、最低限の生活を維持できる所得レベル(たとえば年収250万円)に達しない低所得者に政府が所得を補填して年収250万円になるまで底上げする制度です。ベーシックインカムの場合には、所得保障は収入によらず無条件に固定額(たとえば毎月5万円)を支給します。負の所得税は就労年限者を対象にしていると思われますが、ベーシックインカムは大人でも子供でも「すべての個人」へ支給するという考え方のようです。若干の違いがありますが、どちらも政府が人民に対して最低限所得保障を行う制度です。年金問題に医療費問題と、ただでさえ政府に金が無いといわれる状況で、そんな事が出来るわけがないと思う人が多いでしょう。しかしよく考えてみると、あながち不可能とは言い切れないようです。

ベーシックインカムという言葉は経済評論家の山崎元氏のブログで、その考え方をはじめて知りました。そのあとで、経済学者でネット論客の池田信夫Blogでも負の所得税という内容で読んだことがあるのを思いだしました。(最初はベーシックインカムと負の所得税が最低限所得保障のなかまである事がわからなかった。)最近になって、山崎氏のブログでベーシックインカムが堀江貴文氏のブログで取り上げられて、再び話題になっているのを知り、コメント欄を毎日興味深く眺めていたところ、「予算は何処から工面するのか」というコメントを見て、経済は素人ながら、自分に可能な範囲で、実現の可能性について調べてみようと思い立ちました。以下のような試算の内容をコメントしました。

Re:ベーシック・インカムは実現可能ですか? (bobby)
2008-12-22 23:21:38
>どのようにベーシック・インカムの財源を確保するのか、ご教示ください。

日本の人口127百万人へ毎月5万円のBIを支給するのに必要な金額は年間で76,200,000百万円(76兆円)。一方、平成20年度の一般会計予算(下記URL参照)をご覧下さい

http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h20/h190911.htm

一般会計の総額は85,691,769百万円(85兆円)です。BIの年間総額と同じくらいです。常識的に考えれば、予算のほとんどを食いつぶすBIの導入は難しい。

しかし、国力を維持したまま、日本の人口がいまの半分くらいになれば、BIに必要な額は一般会計に計上されている年金・医療等に係る義務的経費33,210,943百万円(33兆円)に近い金額となり、可能性が増すと考えられます。

消費税を増税してBI予算に補填する方法、北欧のノルウェーが石油産業の80%を国有化して利益を国庫へ入れているように、日本も収益性の高いなんらかの事業を国有化して行い、そこからの収益をBIへ補填する事も考えられます。

現在の税収に消費税の増税分などを上乗せした場合、人口がどれくらい減れば毎月一律5万円支給が可能になるか、山崎さんにお聞きしたいところです。

多少期待しながら待っていたら、山崎氏より下記のようなコメントを頂く事ができました。(誤解が生じないようにコメントは全文を引用しました)

財源など (山崎元)
2008-12-25 12:44:51
一人月5万円×12ヶ月×1億2千万人=72兆円、は一般会計と比べると確かに巨額ですが、特別会計はもっと巨額です。

閣議決定された2009年度の予算案では、21ある特別会計の歳出総額は355兆円で、重複を除いた数字(「純計ベース」と呼ぶようです)で169兆円です(時事通信の記事を参照しました。http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2008122400702)。

ベーシックインカムに置き換えるターゲットは主に特別会計でしょう。

発想を変えて、72兆円を今の財政構造に追加すると考えてみましょう。

ちょっと数字が古いのですが、2005年ベースで国際比較すると、財政学でいう一般政府支出の対GDP比は日本が38.2%、フランスが54%です。差が15%強ありますが、日本のGDP500兆円の15%というとこれだけで75兆円あります。フランス人並みの負担をすれば、現状に上乗せする形でベーシックインカム月5万円が調達できます。

なお、可哀相なことにフランス人は軍事費をGDPの2.5%も負担しています。日本は1%なので、その差1.5%に相当する7.5兆円はベーシックインカムに余計に回せます(個人的には公的な医療費負担に回すのがいいと思うが)。

実際には、税率を変えたり、制度を変えたりすると、経済状況が変わるので、こんなに単純ではありませんが、官僚や政治家に動いて貰うことは簡単でないとしても、計算上ベーシックインカムが不可能だということは無いと思います。

いかにも評論家的な言いぐさで気が引けますが(もともと「評論家の気分で」という遊び感覚でやっているブログですから、怒らないでください!)、やる気になればやれるが、やる気になること自体が難しい、という類の話でしょう。実際問題として、ベーシックインカムの実現が自分自身にとって強いインセンティブになる主体がどこにいるかというと、なかなか難しいものがあります。強力な利益集団が見つかりません。

尚、インフレは長期的に心配な問題ですが、当面の心配はデフレです。デフレは、意味的に、通貨=政府の債務に対する過剰な信認ですから、当面、財政赤字を増やしたり「埋蔵金」(将来の赤字補填財源)を支出したりすることに問題はありません。

私は、グリーンスパンのように、資産価格を無視してまで通貨を拡大することがいいとは思っていませんが、物価(特に生産者にとっての物価)がデフレ的で、資産価格(特に株価)がバブルでは無いわけですから、通貨価値を薄める政策は当面、現実主義的な立場から容認できると思います。通貨も財政赤字もツールなので、状況に合わせて、なるべく便利なように使えばいい。

ただ、私は個人的に、財政赤字を作ることを、公共事業などの官僚や政治家が長期的に関わる財政支出の拡大を通じてではなく、減税あるいは単純なお金のばらまきによって(つまり、政府の大きさは大きくせずに)実現する方が気持ちがいいと考えています。

一時的な景気対策としての効果(たとえば財政赤字額に対するGDP拡大効果で測る)は財政支出拡大の方が減税よりも大きいので、今後を「予想」すると、残念ながら、減税(ベーシックインカム的な方向)よりも、利益誘導を伴う財政支出拡大が加速しそうな感じがします。

最終的には心ある政治家に頑張って貰うしかありません。

なるほど、やはり特別会計の予算の方がターゲットになるのですね。私が試算をしたときに特別予算の内容を除外したのは、特別予算の財源こそがさまざまな社会保険収入なので、ベーシックインカムに移行後は、財源は税収などで確保して、既存の社会保険の徴収は無くなるものと仮定していました。しかし考えてみれば、給料から天引きされる社会保険関係分の費用を、そのままベーシックインカム費用として給料天引きで徴収するか、相当分を所得税の一部に組み込むという考え方もできます。そうすれば、一般会計になるか特別会計になるかは別にして、相当分の予算は確保できます。

また、ベーシックインカムが広範囲な社会弱者のセーフティーネットになるだけでなく、日本の産業全体への補助金にもなり得ます。まずセーフティーネット機能により不要になるのは年金、失業保険、生活保護です。補助金機能で不要になるのは、農業、漁業など国内の零細事業者をグローバリゼーションから保護する補助金です。つまり、特別会計を維持する為の諸官庁役人と、補助金政策の為の役人のほとんどが不要になりますので、役人の世界にも早期退職制度を導入して、大規模な人減らしをします。すると、大量の役人さんの給料や組織を維持するための予算が不要になります。その経費全部をベーシックインカムの予算に繰り入れる事ができるはずです。その金額はいくらぐらいになるのでしょうか。専門家の方にぜひ金額を試算して頂きたいものです。

更に以下の財源もベーシックインカムへ繰り入れる事を検討すべきです。今や日本には、どうしても必要なあたらしい高速道路は皆無です。道路がなくて生活が不便で嫌ならば、都市部へ移住すればよい。島や僻地は、病院もコンビニもいらない、スローライフを楽しめる人たちが「好き」ですむ程度で十分だと思います。ゆえに道路財源は、既存の道路の維持整備だけを行い、あとの高速道路は適当なところまでで建設終了すべきでしょう。
1)高速道路の料金収入
2)自動車の重量税やガソリンの税金
3)タバコとお酒の税金

それでも足りない場合には、消費税の増税と、所得税の増税を行う事になりますが、これは最後の最後に検討すべきでしょう。消費税が上がるとベーシックインカムの価値が減ります。

ところで肝心の支給現金の配布方法ですが、以下のようなスキームを作成できたら少ないコスト(役人のオーバーへっと)で毎月の運用が可能になると思います。

1)国民背番号のついたIC式身分証カードを、乳幼児を含むすべての住民(外国人を含む、住民登録を行うすべての日本国国民および居住者)を発行する。国民背番号をベーシックインカムの口座管理に用いるのは、月次運用をローコストで行うる為に必要である。本人確認の為に、パスワード、写真、指紋影、署名影を電子的に登録する。もちろん身分証制度の開始以降は、印鑑、、運転免許証、医療保険証などの機能を代用するものとして民間の金融機関などでも利用を可とする。

2)郵貯銀行の下にベーシックインカム支給専用のネットバンクをひとつ作り、支給対象者ひとりひとりに身分証カードの国民背番号口座と同じ番号の支給口座を作成して、身分証カードと一緒に支給する。専用のネットバンクをつくる理由は、国が自分(親)口座から対象者(子)口座へ固定支給額を電子的に転送処理するという、シンプルで機能的なシステムの構築、高速な転送処理、低コスト運用が可能になり、毎月の送金手数料を不要にする事が可能。また支店というコンセプトの無いネットバンクは、数十人程度の事務所を都市部にひとつつくるだけで運用が可能。この口座は引き出し専用で預金は出来ず、金利もつかない。逆に月末に残高があれば1%程度を手数料として自動的に徴収する。その結果、残高が負になった場合には、翌月の支給額が口座へ入金された時点で自動的に清算されるようにする。徴収する手数料は、ネットバンク運営の費用に補填される。徴収費用で運営可能な場合にはネットバンク運営の為に政府から補填される費用は減額される。徴収する手数料が毎月の経費を上回る場合には、手数料の額を減額して調整する。

3)現金の引き出し方。支給対象者が郵貯銀行で「普通」の預金口座をつくれば、ネットバンクの口座からの送金は無料にする。ネットバンクを郵貯銀行の下につくる理由は、国が郵貯銀行の大株主である事と、郵貯銀行のATMは都市部にも田舎部にもどこにでもあるので、1社で全国をカバーするにはもっとも合理的。ただし身分証カードにはPLUSの機能をつけ、これに対応したATMであれば、(対象者がPLUSの手数料を支払って)国内でも海外でも、どこででも引き出し可能にする。ネット口座から他行への送金は、相手方銀行が認めれば無料送金を可能にする。ネット口座側では、特定の他行口座へ支給額を全額自動振込みを行う機能をつける事で、使用者の便宜を図る。このようにして、ベーシックインカム支給のメリットを郵貯銀行以外の銀行も受けらる余地を残す。

4)身分証を発行された個人は、無条件にベーシックインカムを受給する資格を得る。身分証カードの申請受付と発行は、住民登録を受け付ける地方自治体が行う。成人するまでの未成年は、5年毎に登録する写真と署名の更新を行う。もちろん、国民背番号と身分証カードの内容は全国の地方自治体のコンピュータネットワークをつないで、どこででも本人確認できるようにする。住基ネットのような中途半端でぬるい制度にはしない。全国の自治体を結ぶコンピュータネットワークは、郵貯銀行と同様に国が株式を保有するNTTコミュニケーションズのIP VPN回線を利用して、地方自治体専用の仮想専用回線を構築する。インターネットとの相互乗り入れはしない。

5)身分証発行とネットバンクとの接続。地方自治体のコンピュータネットワークと、ネットバンクのネットワークは接続しない。地方自治体で集めた新規の身分証取得者情報はオフラインでネットバンク側へ移して、1日に1回、バッチ処理で更新する。身元確認に必要な、更新された身分証情報も同様にしてネットバンク側のコンピュータへ移す。

6)ネットバンク側職員の業務は、地方自治体からの情報更新、政府から今月支給額の入金処理、対象者への一括送金処理だけを行う。支給対象者からの問い合わせは受け付けない。入金情報や未入金などのクレームは郵貯銀行の窓口を受け付ける。それ以外の個人情報に関するクレームは地方自治体の窓口で受け付ける。ゆえにネットバンク一般職員は、対象者の個人情報を閲覧する必要はなく、運用システムにも対象者の支給履歴や閲覧情報など報閲覧機能は儲けない。数人程度の高級管理職員だけを国家公務員で構成し、残りの業務はすべて郵貯銀行からの派遣職員で事務処理を行う。

7)ベーシックインカムの支給対象は家庭でなく個人である。個人のネットバンク口座へ入金されたお金は、あとから対象者(または親や親族などにより)口座振替によって生活へ集められ、世帯の生活費となる。夫婦が離婚した場合は、ネットバンクの口座振替を変更する事で、生活費を分離できる。子供が成人して家を出るときも同様である。対象者が死んだ場合、地方自治体によって死亡情報が更新され、支給は例外なく終了する。

本職がシステム屋なので、ベーシックインカムの支給方法については、ついつい細かな内容になってしまいました。要点は、ネットバングと郵貯銀行とPLUSを組み合わせる事で、毎月の支給処理を最低限の経費(数十人程度の事務職員と専用のマシンルーム1つ)で維持管理しようという事です。

さて、ベーシックインカムの実現可能性について考えて見ます。財政的には不可能ではないという見通しをたてました。山崎氏はブログのコメント欄の最後で、

最終的には心ある政治家に頑張って貰うしかありません。

と述べていますが、池田氏は逆に、

しかし、まさにその効率性が原因で、負の所得税はどこの国でも実施されていない。大量の官僚が職を失うからで ある。現在の非効率な「福祉国家」では、移転支出のかなりの部分が官僚の賃金に食われている。それを一掃して負の所得税に一本化すれば、現在の生活保護よ りはるかに高い最低所得保障が可能になろう。フリードマンは、やはりまだ新しい。

これはフリードマンが50年前に予告したけど、どこの国でも実現していない。「福祉官僚」が拒否するからです。それしかないところに政府を追い込むには、あと10年以上かかるでしょう。

と述べて、役人の強い反発と抵抗を示唆しています。役人のクビを大量に切るような政策を行う事は、いまの政治家には不可能かもしれません。第二の小泉潤一郎が現れるか、あるいは既得権益にしばられていない若い政治家が政権を取るようになれば、可能性はあるかもしれませんね。現状ではそちらの方が困難かもしれませんが...