俺達の戦争

12月 23rd, 2008 Categories: 1.政治・経済

俺は搾取されている。金持ちや雇用主の話しではない。俺は年金というねずみ講に、毎月毎年給料から積み立て金を支払う。払った積み立ては現在支払っている年金に充当されて消えて行く。だから俺が年金をもらう頃には、年金というねずみ講はパンクしていて年金は廃止されているかもしれない。

俺はどす黒い怒りを胸に抱いて、こんな世界をつくった親達の世代を静かに憎む。重たい絶望を背中にしょって、毎朝の通勤電車に乗りこむ。出世もなく、昇給もなく、たのしい未来も安泰な老後も見えない。俺はただ毎日生きているだけで、今日が終わり、明日が来て、何も無い人生がただ過ぎて行くだけ。誰かに怒りの拳を振り上げる気力もなく、いわれるままに税金と年金を払い続ける、生ける屍のような存在。

しか俺はある日目覚めて、手の中にひとつの希望を見出す。人がつくったものは、人が壊すことができるのだ。親達がつくった、親達を養うしくみを壊そう。だれかの犠牲になるのはもうまっぴらだ。親の為に我慢するよりも、自分の子供のために戦おう。俺たちはある日集まって、しずかに宣戦布告する。今日から世代間戦争がはじまる。

俺たちはまず、ネットに集まって仲間を増やそう。掲示板やブログで仲間を増やそう。我々はリアルに拳を振り回す事はできないが、ネットを炎上させる事ができる。我々は駅前で演説する事はできないが、ブログのコメント欄で議論の嵐を呼ぶことができる。パソコンに携帯電話にiPhone。リアルな世界では子羊のように大人しい我々が、ネットに入ると別人格になる事をやつらは知らない。みえない世界の中で、我々の革命同志は増え続ける。

戦いが臨界点に達したとき、みえざる戦いが、リアルな世界に姿を現す時が来る。厚労省を解体し、年金保険を接収する法律が国会で成立する。政府が管理するすべての年金が集められて、すべての国民へ平に支給されるベーシックインカム制度が開始される。無血革命がここに成就した。

日本に定住して住民登録をしている市民はすべて身分証カードを作成する。カードにはお財布機能がついていて、毎月5万円が地方自治体から自動的に振り込まれる。赤ん坊も健常者も植物人間も、だれでも身分証カードをつくれば毎月5万円が振り込まれる。用途は自由。就労の義務も納税の義務もない。自由なお金。

遊んでいてももらえるお金。子供でももらえるお金。しかし5万円で生活するのは苦しい。年金世代は悲鳴をあげるが、働いて月給をもらっている俺達は小遣いが増えて気分が良い。俺達から税金と年金をさんざん搾取したおまえらはもっと苦しめ。死ぬまで苦しめ。俺達はいまから、自分で老後の資金をためる時間がある。あと20年も30年もある。いまから毎月5万円を貯金すれば、おまえらの年になった頃には、余裕の老後を送る事ができるだろう。

しかし先月、消費税が急に20%に跳ね上がったのには驚いた。親達の為の年金はあっという間に食い尽くしたので、ベーシックインカムを支えるにはもっと金がいる。所得税も毎月のように上がっていて、いまではテレビのニュースネタにもならない。テレビといえば地上波デジタルは先月で終了した。日テレもテレ朝も倒産してとっくになくなってしまった。最後まで残っていたNHKが先月解散したので、いまは液晶テレビをパソコンにつないで、ネットのテレビを見る。ヤフーTV、楽天TV、ライブドアTV、ほかにも数十のテレビ局ができたが、しょっちゅう潰れてなくなるので覚えている暇がない。

医療保険予算もベーシックインカムに食われたので、老人医療はまっさきに切り捨てられた。診療費は完全無料になったが、毎年の政府予算分しか診療予約を受け付けないので、救急以外の診療は3ヶ月先まで予約でいっぱいだ。おまけに予約は人件費節減のためにネットでしか受け付けない。病院へ行けない老人は、しずかにミイラになってこの世を去っているようだ。

老人はさっさとこの世を去って人口減らしてくれ。人口が減ればベーシックインカム予算も減る。そしたら消費税も所得税も少しは下がるだろう。はやく下がってほしい。今月ふと計算したら、ベーシックインカムで夫婦で10万円増えたが、消費税と所得税の増税でそれ以上をもっていかれているようだ。老後の貯金をする余裕がない。これは予想外の展開だ。老人ははやく逝って、人口が半分になってくれ。そしたら税金も昔のレベルに下がるだろう。

まだ55歳だが、先月から会社を辞めて引退した。若いやつらに就職の機会を与えろと政府のお達しで、50歳以上の社員は強制的に早期退職されられた。こんなに良い世界を我々が作ってやったのに、若い奴らはその恩を忘れて、我々を社会から追い出しやがった。恩知らずなやつらめ。

昔のように年金がないので、老後という実感がわかない。妻は病気で昨年死んだ。政府の病院は予約がいるので間に合わず、私立の病院で自由診療で治療した。おかげで老後の蓄えは吹き飛んで、かわりに借金が残った。銀行から借金できなくて闇金から借りたので、返済のために家も売った。アパートに住んだら5万円では生活できないので、田舎の実家へ帰る事にした。

一昨年から田舎の家で近所の老人達と共同生活をしている。田舎は生活費が安いし、庭に家庭菜園をつくっているので野菜もあまり買わなくてすむが、電気代やガス代は毎月値上がりするので一人で住むと現金が足りない。それでネットの掲示板から都市に住んでいた老人を数人集めてきた。ベーシックインカムがはじまってから、核家族という言葉は死語になってしまった。5万円欲しさに、みんな田舎の爺婆を呼び寄せるもので、一時は田舎に老人がだれもいなくなったほどだ。しかしいま、都市から田舎へ、老人が帰ってきている。俺のように。俺の集めた、身寄りの無い老人のように。

先月からついに寝たきり老人になった。足をすべらせて足の骨を折ったあと、2週間ほど動かなかったら、気がついたときには起きる体力がなくなっていた。こうなっても切り捨てられないところが、ベーシックインカムの有り難いところだ。俺がいなくなれば5万円の生活費が減ることはみなも承知だ。それに寝たきりだと食費も少なくてすむ。しかしほかの奴らも老人なので、介護というほどの事はできない。おむつを替えて、からだをぬれタオルで拭いてくれるくらいだ。

気がつけば日に日に俺はやせ衰えている。そろそろ俺の人生も終局か。病院はいまでは、人々の最後を過ごす場所ではない。何ヶ月もの予約期間を我慢できる元気な奴らのためのものだ。俺は病院へも行かず、自宅で仲間達と静かな最後の時を過ごす。若いときはうだつの上がらぬ会社員だった。ネットで仲間を集めて時代を変えたが、俺立ち自身があっという間に時代遅れになった。そして、俺達がつくった新しいしくみが、いま俺をあの世へ送ろうとしている。おれは若いときには親の世代を憎んだ。いまは俺をこんな田舎の煎餅布団に追いやった若い奴らを憎む。どす黒く憎む。しかしこの憎しみは何処へも届かずに、ただ老人とともに消え去るのみ。

(上記は世代間戦争とベーシックインカムをネタにしたフィクションであり、筆者の思想や信条を現したものではありません。)

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