尖閣諸島で1ミリも妥協できない理由

昨日の昼間、ブロゴス総合ランキングの1位(内田樹氏の中国離れについて)と2位(橘玲氏の尖閣問題で、海外メディアは日本に対して予想以上に厳しい)が、尖閣問題について冷静を説く記事である事は興味深い状況です。

アメリカの後ろ盾があり、強い自衛隊がいるという事で、日本のネット世論は戦後かつてないほど舞い上がり、「戦争の危機」に鈍感になっているのではないでしょうか。そういう方には、橘玲氏の記事のコメ欄に私が書いた内容を改めてご覧頂きたいと思います。

1)マスコミは日本に好意的な記事だけを国内で紹介し、あたかも中国人を除く世界中が日本の見方であるかのように印象操作している。(各社とも海外特派員がいる筈ですが、否定的な記事は日本側が握りつぶしているのでしょう)

2)多くの領土問題には正解も正義も無く、戦争以外で解決する為には互いが歩み寄る(互いが納得できる何処かで妥協する)しかない。(外交とはそういうものである)

3)印象操作された国民は、自国の主張(自国の正当性)を世界が認めていると思い込み、中国の意見の(客観的に見た)正当性の有無を考慮しなくなり、戦後最も好戦的な世論が形成されている。(と欧米のメディアも考えている)

4)仮に現在の状況がエスカレートして、尖閣を巡り日中で戦争が起きれば、先に撃ったのが中国だったとしても、国有化という「引き金」で中国を刺激し、外交交渉で妥協の余地を与えなかった日本は、欧米社会から見ると戦争に対する相応の責任を免れない。(と欧米のメディアは考えるだろう)(本件で太平洋戦争におけるアメリカの責任を持ってくるのは無意味である。)

5)マスコミ(特に本社で報道内容の選別に責任を持つ者)は以上の内容を理解して、売る為に煽るのはやめて、国民に対して正しく情報を提供し、国民が冷静に考える事ができるようにするべきである。

これはマスコミだけではなく、我々ブロガーにも同じ事が言えます。中国の軍艦が尖閣諸島の近辺まで出張っている時に、脳天気かつ無責任に戦争を叫び、反中を煽る事は戦前の東京朝日と同罪で、ネットメディアのひとつとしての我々の信頼性を損なう行為ではないでしょうか。

 

 

もう1点、内田樹氏の記事(こちらこちら)から下記の2つの文章を引用したいと思います。

外交とは両国の「利害の一致点」を探すことにあるのではない。「利害がずれるところ」を探すのである。

「尖閣なんかどうだっていいじゃないか」というのは中国を生産拠点、巨大な市場として依存している日本企業にとっては「口に出せない本音」である。

私は「尖閣なんかどうだっていいじゃないか」とは思いませんが、「外交とは両国関係の利害のずれるところ」はあるのではないかと考えます。その件について、以下に少し意見を述べたいと思います。

1)固有の領土って何?
固有の領土ってなんでしょうか。自民党や民主党だけでなく共産党までが、尖閣諸島は日本の固有の領土だと言っていますが、固有の領土って何でしょうか。国際法では固有の領土を説明できないらしいので、「固有」という言葉の意味を調べてみました。これは「本来もっている事」、「そのものだけにある事」という意味です。

では、日本政府の言う固有の領土の説明を見てみましょう。以下は外務省ホームページから引用しました。

尖閣諸島は,1885年から日本政府が沖縄県当局を通ずる等の方法により再三にわたり現地調査を行い,単に尖閣諸島が無人島であるだけでなく,清国の支配が及んでいる痕跡がないことを慎重に確認した上で,1895年1月14日に現地に標杭を建設する旨の閣議決定を行って,正式に日本の領土に編入しました。この行為は,国際法上,正当に領有権を取得するためのやり方に合致しています(先占の法理)。

上記の説明によれば、国際法的な手続き論として尖閣諸島は日本の正当な領土である事には疑いがありません。しかし、正当な領土の事を固有の領土というのはなんだかおかしい気がします。本州や四国が固有の領土であるという文章があるとすれば、それはそうだろうと思いますが。

2)尖閣諸島は歴史的に琉球の領土か?
いまは沖縄県という日本国の地方自治体ですが、明治政府による武力的威圧(琉球処分)で強制的に日本国に編入された琉球王国が、日本固有の領土でなかった事は事実です。

でも、それでは話しが終わってしまうので、100歩譲って、いまは沖縄県も日本固有の領土だと仮定して、尖閣の問題について考えてみましょう。

私の知る限り、釣魚島(中国人がつけた尖閣諸島の魚釣島の名前)は16世紀頃に明と琉球の双方の文献にはじめて出現し、「航路の途中の目印」というニュアンスで記述されているそうです。その後も釣魚島という名は時々文献に出てくるようですが、日本政府が述べているように、どんな国の支配も定住者も所有者もいなかったという理由で明治政府が沖縄県に編入した島を、実は琉球政府の領土でしたとは言えないような気がしていますが実際にはどうなんでしょう。

いや、法的支配ではないが昔から漁師や船乗りが利用していたというのであれば、それは日本だけでなく、中国と台湾でも同様という事になり、日本だけが強く主張できる正当な理由とは言い難い気がします。

3)領土としての尖閣諸島の価値とは何か?
領土って何でしょう?私は思うのですが、日本人が定住している訳でもなく、経済的なメリットも生まない領土というのは、領有しているメリットがあるのかと思います。ましてその島が隣国との火種になっているとすれば尚更に、領有し続ける経済的メリットは、失った場合の経済的メリットを上回らなければ意味がありません。政治(軍事)的なメリットの重要性を説く人もいると思いますが、それらも最終的には経済的なメリットに行き着くので、政治(軍事)と経済を分けて考える事に意味があるとは思えません。では、尖閣諸島を失った場合にどんなデメリットがあるのかについて考えてみます。

5)漁場の価値
わざわざ中国からも沢山の漁船が来ている訳ですから、この周辺の漁場には一定の価値があると思います。しかし漁業権というのは外交的な交渉の中でも、それほど難易度が高いものであるとは言えません。したがって尖閣諸島の領有が絶対に必要であるとは言えないような気がします。

6)海底油田の価値
尖閣諸島周辺の大陸棚には「非常に厚い堆積物がある」ので中東なみの油田・ガス田が眠っている可能性があるというのは1968年に国連のECAFEという下部組織の調査報告ですが、現在までに1本の試掘も行なっていませんので、巨大な油田・ガス田の有無というのは、実際のところはまったく不明です。仮に油田が見つかったとしても、自衛隊の護衛艦に守られながら石油を掘る会社は、日本には1社もありません。仮に中国からの武力威圧もなく、油田の開発に成功したとして、尖閣諸島から九州までの間には深い海溝があって海底パイプラインは無理なので、低コストで効率良く本土へ運んでくる事はできません。

そういう問題をすべて除外したとしても、もっとも大きな問題が残っています。国連海洋法では大陸棚条項と排他的経済水域のどちらが優先するか明示されていません。中国は沿岸から最大350海里までを権利主張できますが、沿岸から尖閣諸島までは195から220海里の範囲です。もし国連で中国の主張が認められれば、日本が尖閣を領有しつづけても、島周辺の領海(12カイリ)から外側の油田は、いまは日本の排他的経済水域として日本に権利が認められていますが、あとから中国に(国連海洋法に従い合法的に)取られるかもしれないという大きなリスクがあります。(これは春暁ガス田にも共通する問題です)

話しが長くなったのでまとめると、尖閣諸島周辺の大陸棚に中東なみの石油やガスがあるかもしれないというのは、「非常に厚い堆積物がある」というだけで、誰も実際に確認していません。もしあったとしても、中国の威圧や、あとから中国に取られるかもしれないというリスクがあるうちには、日本の会社は手を出す事はできません。あっても無いのと同じなら、何の意味があるのでしょう。

7)シーレーン防衛のリスク
尖閣諸島を取られるとシーレーン防衛に重大な問題が発生するという意見を目にしますが、実際問題としてどうなのでしょうか。中国が仮に尖閣諸島を領有して軍事基地をつくったとして、先島諸島と沖縄諸島の隙間が物理的に広がるという訳でもありません。この付近の海は内側から太平洋へ抜ける通路も限られており、潜水艦の出口には米軍の探知装置が見張っているそうなので、中国が尖閣諸島に潜水艦基地をつくったとして、何の意味があるのかわかりません。

6)台湾を中国の武力侵攻から守る為の戦略的重要性
中国の武力侵攻から台湾を守るのは自衛隊じゃなくて米軍の責任(仕事)だと思います。米軍から見て尖閣諸島を中国に奪われる事がそんなに大きな問題であるならば、10年も20年も前に、日本が安定して領有できるように、米政府による工作があってしかるべきではないでしょうか。米政府が「命がけで領土を守る覚悟が日本人になければ日米安保は発動しない」と言うのなら、そもそも尖閣諸島には、客観的に見て戦略的な重要性など無いという事かもしれませんね。

7)尖閣諸島の次は沖縄?
こういう事を言う人もいますが、意味不明です。日本国の一部である沖縄に武力侵攻すれば、日米同盟が100%発動する事は彼らも分かるでしょう。故に、そのような状況が起こる事はあり得ないでしょう。沖縄県が日本国から合法的に独立すれば話しは別ですが、どんな理由で独立するのであれ、独立した後でどうするかは沖縄人次第じゃないでしょうか。

8)尖閣で1ミリも譲歩できない本当の理由は何か?
上記で検討してきた内容に大きな間違いや見落としがない限り、実は日本が尖閣諸島を手放しても、経済的にも軍事的にもおおきなデメリットは無いのかもしれません。その一方で、尖閣問題で今後ともに中国と対立を続け、中国進出した日系企業の不利益や、日本企業が中国市場へアクセスを失う不利益を考えれば、日本側が尖閣で妥協するメリットは十分あり、日本の国益にかなうと感じられます。

現在のように反日騒動が大きくなってしまうと、中国政府は経済面よりも政治面のウェートが大きくなります。尖閣問題での(元の棚上げ状態へ戻るより大きな)妥協は共産党の敗北となり、一党独裁政権にとっては極めてまずい状況で、現時点では彼らの方が選択オプションの幅が狭いように思います。こういう時こそ、日本が尖閣の札を切って、別の利益を得るチャンスではないでしょうか。

しかし日本政府が妥協案を出すのを難しくしているのは、国益うんぬんという経済的な問題ではなく、ナショナリズムという感情問題ではないでしょうか。1ミリも譲れないというのは、実はここから来ているのだと思います。ところで、中国は最近、ロシアに実行支配されていた(もともと中国領土だった)島を、互いに譲歩する事で半分取り戻すという大きな成果をあげ、ロシアと中国は互いの国境線をすべて合意の上で確定しました。

反日騒動で盛り上がっている今のような時こそ、中国から見た尖閣カードの価値は、逆に高まっています。日本政府はそのカードをどのように切り、かわりに何を要求するのか。そういう事が、日本にとって本当の国益と言えるのではないかと思います。

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