東莞は求人が難しい

以前から聞いていた事ではあるが、東莞(中国華南)は求人が難しい。求人をはじめて1ヶ月になるが、未だに1人も面接まで到っていない。東莞特有の状況という事もあるだろうがあまりに酷い。そういうわけで、今日はひとつ愚痴を聞いてもらいたい。

東莞に求職者がいないかというと、これは沢山いる。転職する人も沢山いる。しかしながら、「これは」という人材がなかなか居ないのである。私の要求は、日本語検定2級程度の読み書き、あるいはそれに相当する英語力のどちらかを習得していて、会計か購買か通関の業務経験と知識を持っていて、明るい性格の30歳未満の男性または女性である。新卒の場合は、業務経験は無いので、大学(本科)卒業以上の学歴と十分な学習意欲があれば良いと思っている。そんなに高望みをしているつもりは無い。(記事末の*1参照されたし)

弊社のわが部門は、東莞の日系メーカーへ業務ソフトを販売し、同時に会計、購買、生産や通関に関するコンサルテーションを行って、東莞へ進出している日系メーカーが嵌りそうな落とし穴(おもに通関と税務署にかんする高額ペナルティー)をリスク管理しましょう、という業務を行っている。昨年4月に私自らが部門新設して、ようやく1年半が経った。いままでは香港事務所の人材(香港人)をつれてきていたが、その香港人が転職した事を良い機会ととらえて、地元の東莞で私の部門の将来を担う人材を探そうと考えたのである。

仕事の内容は、技術色よりも業務色が強くて、外国独資工場の来料加工生産で、通関と税務署にからんだ会計、購買、通関、生産、在庫などの管理において、「このようにやった方が安全ですよ」とアドバイスしなければいけない。語学力が必要なのは私(またはお客の会社の日本人担当者)とコミュニケーションする時に必要なのだが、実際の仕事で必要なのは業務知識の方である。だから、どんなに優秀な人材でも、一人前になるには最低数年を要する。だから、最初は2千から3千元の範囲で雇って、一人前になったら4千元以上の給料にしたいと考えていた。私の(現場での)仕事をぜんぶ任せられるくらいになれば、1万元払っても安いくらいだと思っている。

地元東莞の求人ウェブサイトで募集して書類選考した結果、「これは」と思う新卒学生が1人居たが、面接をドタキャンして来なかった。もうひとり、通訳から叩上げである日系工場の生産技術課で働いているという、けっこう優秀そうな人が履歴書を送ってきたが、希望給料が高すぎて条件が合わなかった。ある程度覚悟をしていたが、これはちょっと酷すぎると思った。おもわず頭をかかえた。

東莞は良い大学が無い。それだけでなく、東莞は大学そのものが非常に少ない。中国は恐ろしいほどの学歴社会になっていて、有名校には中国全土から優秀な学生が集まるのだが、そういう大学が無いので、東莞には良い人材が少ないと言われている。良い大学がなければ、良い人材は排出されず、それを期待して研究開発型企業なども誘致されない。いきおい、組み立て加工企業ばかりが多いので、そもそも「良い人材」を吸収できる企業が極めて少ないのである。

そればかりではない。東莞は、ホワイトカラーの働く大企業群が集まる商業都市部が無く、発展している場所はすべて工業地帯だ。工業地帯は、荒涼とした荒地を整地してつくった工業区に、組み立て加工企業ばかりが誘致されてくるので、ほとんどの工員と事務真は狭くて汚い工場の寮でくらしている。工場の周辺には、工員相手の安いだけの食堂ばかりだ。そういう場所に住んで、上海、北京、大連のような文化的な暮らしができる筈もない。だから華東から北の大学を卒業した学生は、まず華南には来ない。来るとしても、「仕事が見つからないか、あるいはお金の為にしかたなく出稼ぎに行く」人なのだ。(記事末の*2参照されたし)

東莞に出稼ぎに来る大卒者は、湖南省(長江の南)と河北省(黄河の北)の人が多い。このあたりは、歴史の古い町もあり、大学がけっこうあるが、 内陸部なので沿岸部のように経済が発展していない。そこで、多くの卒業生が華南の「中国の辺境地」へ出稼ぎに行くのである。弊社の東莞事務所のプログラマも湖南出身者が多い。(記事末の*3参照されたし)

もう一つ、東莞で良い人材が得られない理由がある。政府が管理している年金や保険などがネックになっているのである。 中国にも社会保障制度(健康保険・年金・労働保険・住宅基金)とよばれる保険や年金積み立てがあるのだが、これが何と、全国の地方自治体でネットワーク化されていないのだ。東莞で積み立てた年金は東莞でしかもらえず、上海で積み立てた年金は上海でしかもらえない。現在の状況では、遠くの地で積み立てた年金は、事実上捨てるしかないのである。これも、若いときから年金の事を考えている最近の賢い学生や社会人にとって、東莞の企業へ就職・転職する事を阻む大きな壁だ。深圳や広州ならまだしも、先に述べたように東莞は骨を埋めようと考えるには、まだまだ田舎すぎるのである。せめて政府系の積立金などが1日も早く全国レベルで一元管理され、どこで払っても、どこでも年金がもらえるようになれば、ホワイトカラー労働者の東莞への流動性が高まるのではないかと思うのである。

湖南や河北の大卒者にとって、東莞はいまだに、他にどうしようもなくて出稼ぎで行くような「偏狭の地」なのである。ゆえにこの地では、管理能力が無くても、業務遂行能力が低くても、常識が足 りなくても、とりあえず大卒というだけで、容易に4千元とか5千元の給料相場が出来てしまっている。日本語検定2級程度(試験には合格していない)の語学力と、3年くらいの工場内で通訳経験があれば、既に3千元から4千元の給料相場ができてしまっている。上海や北京なら、日本語専科で数年の経験なら、高く てもせいぜい2千元が良いところである。まったく困った事である。

*1 大学には本科と専科があり、本科は4年制で入試選考で入り、専科は1年または2年の単科の職業訓練専門科でお金があれば入学できる。東莞で通訳をしている人のほとんどは日本語専科で3ヶ月から2年の日本語訓練をした人であり、日本語検定2級程度の実力がある人が多い。上海・北京で通訳をしている人は、語学や経済学などの本科を卒業して、在学中に日本語検定1級を取得した人が多く、日本語の他に英語の読み書きもかなり出来る。

*2 東莞にはいちおう市街地があり、きれいなマンション群もあるが、それらのほとんどは地元の土地成金と、東莞の周辺工場地帯で働く外国人駐在者のベッドタウンと化している。地元企業のほとんどは零細企業であり、東莞で生まれた全国区レベルの企業など一つも無いので、大卒ホワイトカラーの受け皿が無い

*3 もしあなたが神奈川で生まれて、東京都内の大学へ進学したとする。在学中に都市生活を謳歌したあなたは、東北や九州の田舎にある製造業へ好んで就職するだろうか?もしあなたが福島で生まれて仙台の大学を卒業したとして、津軽にある製造業へ好んで就職するだろうか?夢も希望もある大学生は、普通はより大きく発展した都市部へと行きたがるものであろう

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