必殺兜割り

1月 1st, 2008 Categories: 1.政治・経済

暮れのスーパーで、背中にふと、熱い視線を感じました。振り返ると、そこには大きな美しい目を持つ魚たちの頭が。刺身を取られた後のカンパチや鯛のアラ達でした。透き通った大きな眼が、じっと私を見つめながら、「俺をかってくれー」と目で訴えていました。気持ちはわかるがお前は高いんだよ、視線を返すと、「いいえ今日は、両目にカマまでついて25元なんです」と、大きな目がキラキラッと蒼く光りました。ムムっ!その瞬間、見事な兜煮の姿が脳裏に浮かんでいました。

カンパチ頭君のパックを台所で広げて、まな板へのせました。こんなごつい頭を菜っきり包丁でさばけるか思案していたら、「出刃包丁があるわよ」とうちの奥様。錆びの浮いた出刃包丁と砥石の箱が台所の奥深くから現れました。新聞紙でくるまれた、分厚い腹をした出刃包丁は、「ちょっと錆びてて申し訳なかっ」と、口調とは裏腹の傲慢な態度で顔を出しました。「こちらこそ申し訳なかです」と頭を下げて、私は砥石で錆落とし。刃が光りだしたところで、出刃君の「エヘン」という咳払いが。そろそろOKそうなので、さっそくカンパチ君の美しいヘッドへアプローチ開始。

しようとしたのですが...手順がうーん...よくわからねぇや(一心助け風)。考えてみれば、こんなに大きな頭を二つに割ったことがありません。出刃包丁も初めて持ちました。両手にカンパチ君の頭を持って、注意深く細部を観察。なんとなく、エラをはずし、カマをはずし、カブトを2つに割って、塩でぬめりを取って終了、みないな感じでしょうか。とりあえずはその方針で行動開始です。

しかし、しょっぱなのエラ取りから大苦戦。片手をエラにつっこんで千切ろうとするも、魚のからだには、あちこちに棘がついていて、ギュッと握ると手が痛い。かたくてびくともしません。カンパチ君の「ヘッ、素人め」という冷たい視線を感じて、背中に冷たい汗が流れます。なるべく魚体が損壊しないようにしながら、出刃先をエラの付け根に突っ込み、ギコギコ引き切ってようやく終了。出てきた両アゴのエラをシンクの中でしばし観察。水中の酸素をこし取るヒダヒダが、鮮やかな赤茶色に光っています。これを見れば、息子がいればけっこう喜ぶのにと残念無念。

次はカマはずし。これもも強力なボディーにがっちりくっついていますが、出刃先がアクセスし易い場所の為に、それほどの困難はなし。やっぱり付け根をギコギコして、意外と簡単に終了。左右のカマがくっついた状態で、スポッとはずれました。

残るは最後にして最難関。カンパチの頭を両目の間から真っ二つにする作業を開始します。とりあえず魚の眉間を出刃でギコギコ引いて切れ目を入れながら様子見。出刃の刃が入るのは表面だけで、たちまち硬い骨に出会って刃が跳ね返されてしまいます。うーん、台所の天井に、にわかに真っ黒い雲が渦巻き始めました。

気を取り直して、作業継続。薄く切れ目の入ったカンパチ君をまな板の上に立て、眉間に出刃の先を切れ目に突きたてて、グイグイ突き込んで割れ目を拡大させます。魚体がヌルヌル滑るので、間違って自分の指を飛ばさないように、慎重の上にも慎重に出刃を握ります。最後に、突き立てた出刃の背に右手の平を打ち込んで真っ二つ!

っと思ったら、手の平が跳ね返されてメチャ痛っ!骨が硬くて、これ以上切れません。おまけに生臭い瘴気を放つ、赤黒い血飛沫が台所中に飛び散って、うちの奥様の目も三角に吊り上ってしまいました。ウワッ、超ヤバ。

手際の悪い私の作業に業を煮やしたうちの奥様は、出刃を振り上げて、バコッと刃を叩き込んで真っ二つにすれば良いじゃないのよ、と頬を引きつらせながら、威勢の良い事を言いますが、素人の私には、とてもそんな事ぁできません。奥さんにカンパチの頭を両側から押さえてもらい、左手で持った出刃の歯をカンパチの眉間の割れ目に当てて、包丁の背を右手の平でガンガン叩くのですが、ただただ激痛を覚えるばかり。カンパチ君の白い視線にたえかねて、私の右目から涙が一筋こぼれました。これ以上(心が)痛くて叩けましぇん!

さて、仕切りなおし。出刃包丁に研ぎを入れながら、我が乱れたる心も研ぎ澄まそうではないか。包丁を砥石の上にすべらせながら、アプローチの戦術を再検討。更にうちの奥様と作戦会議して攻撃再開。出刃の刃先の尖ったところを念入り砥いで切れ味鋭くした上で、唇の方から少しづつ断ち切る方針で作業開始。途中で奥様に一時交代して、なんとか硬い唇の先を切るのに成功。そこからどんどん切れ目を広げて、両目の分断が目に見えるくらいの速度で進み始めました。最難関と思われていた目玉の後ろの厚い骨の部分も、骨の中に空洞があって最後はあっけなく割れました。最後は残った周辺部をギコギコ引き切って終了。

こうして指一本も取られぬまま、五体満足でカンパチの兜割りを終了。カンパチ君の感謝の笑顔を鍋の煮汁に浸し、赤カブと人参をお供につけて、おいしい兜煮の世界へと送り出す事ができました。

メデタシメデタシ。

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