珠江デルタの光と影

11月 12th, 2007 Categories: 1.政治・経済

珠江デルタが熱いという記事が週間!木村剛に取り上げられた。委託加工生産による海外メーカーの誘致成功を取り上げ、躍進する東莞の奇跡を褒め称えている。しかし、この記事の賞味期限は残念ながら3年前に切れている。

珠江デルタにおける委託加工生産のメリットは多かった。

  • 材料や、場合によっては高額な生産設備の輸入税を支払う必要がない。
  • 転廠と言って、免税材料で加工した製品を、香港を経由する事なく直接に客先へ免税扱いで納品できる。
  • 香港で請求と支払いを行うので、日本への利益還元が容易になる。
  • 税金の安い香港に利益を蓄積する利益移転が容易になる。

    この場合のデメリットもいくつかあった。

    • 生産合同書(完成品出荷数量とそれに必要な材料数量の関係を示した免税手帳)には生産時の損耗率の数値まで決まっているので、不良品が出た場合に数字がたちまち合わなくなる。この問題は日常的に発生するので、数年放置しただけで、収集がつかなくなる程の誤差が生まれて、税関の抜き打ち検査で発覚すると巨額の罰金対象となり、それが理由の工場倒産も有り得る。
    • 通関でPacking Listの内容に問題(生産合同書との不一致など)が発生した場合は何週間も貨物が通関に留め置かれ、即、納期遅れにつながる。この問題は、シッピング管理のいい加減な中小近業では日常的に発生しており、税関職員への賄賂につながっている。
    • 生産合同書に記載された材料の(通関時に認識する数量単位)は重量で示されているが、工場倉庫で認識する月末棚卸数量は個数が基本となる。そこで両者には自然に差異が生じる。この差をきちんと管理しないで放置していると、たちまち会計帳簿と倉庫の在庫数量に大きな差異が出て、税務署へ罰金を支払う事になる。
    • 転廠により出荷したの不良品の(買戻しでない)回収を転廠の逆で行う事は手続き上困難。香港経由では可能だが、コストがかかりすぎるのでよほど高額ユニットの修理でもないかぎりやはり困難。
    • 海外から輸入した材料の不良品交換も、生産合同書の(輸出入数量の)辻褄が合わなくなるので、一度は香港へ出す必要がある。実際にはそこまでしない工場が多いが、いづれは生産合同書の辻褄が合わなくなって、罰金か賄賂の選択を決断せざるを得なくなる。

    上記の問題は当初から有り、その気になれば個別に解決可能であったが、最近はもっと深刻な問題が生まれている。

    利益移転を防止する為に、通関時単価に実際の客先請求単価を明示するように、法律が変更された。会計への購買・販売計上も通関ベースと決められているので、実際の出荷月との間で1ヶ月から2ヶ月の期ズレが発生し、在庫数量と金額の運用を複雑にしている。

    良い人材が得がたく、並以下の人材も給与が高騰している。珠江デルタには、もともと工学、管理、言語(日本語)で優秀な大学が少なく、更に優秀な大卒も少ない。珠江デルタへやってくる大卒技術者や管理職経験者は、北京や上海などへ行けなかった並以下の人材が多く、しかも華南という怒田舎へ「わざわざ来てやっている」という事で、要求する給料が大都市よりもずっと高い。

    慢性的な工員不足。10年前は、辞めても工員はいくらでも補充がきくと言われていたが、いまでは(使える新人は)慢性的に不足しいる。新たにやってくる新人は、やる気が無く、我慢弱く、怒るとすぐ辞めるなど、新人工員の質的低下が著しい。

    そして最後の極めつけは、膨大な貿易黒字を緩和する為に、北京政府が組織的に、委託加工生産を辞めさせようとしているという事。 珠江デルタでは、委託加工生産工場のライセンスは、もう新規では下りないと言われている。組み立て加工だけの外資は、もう要りませんという事らしい。

    珠江デルタへ集まった外資は、安い人件費を利用した組み立て加工生産が目的であった。しかし、人件費が高騰して旨みがなくなり、北京政府も(貿易黒字だけを増やして国内へのメリットが少ない)委託加工生産は、もう終わりに従っている。

    ベトナムへの外資エクソダスは、もう始まっている。

    Facebook Comments
    Tags:
    Comments are closed.