企業が先か、労働者が先か。

10月 25th, 2007 Categories: 1.政治・経済

日本国民の生活を向上させて繁栄する為には、企業の収益改善を優先させるべきか、労働者の収入改善を優先させるべきか。

「鶏が先か、卵が先か」という話しに似ている。企業と労働者は表裏一体の関係だから、単純に「どちらが先とは言い難い」と言ってしまっては、議論が進まない。政府による景気対策は、企業優先と思えるものが多い。労働組合も、会社と闘争するのではなく、忍耐し協調する道を選んできた。企業が元気になる事で、そこで働く労働者の収入が増え、生活が保障されると考えられてきた。しかし、別の見方というものは無いのだろうか?ちょっと長くなるが、池田信夫blogの記事を引用してみたい。

トヨタやキヤノンは「終身雇用」や「日本的経営」を売り物にしているが、それは派遣労働者や請負労働者を「外部から来た人」として計算に入れてないことによる偽装終身雇用にすぎない。一時は世界から賞賛された日本的経営とは、このような二重構造の中で、派遣労働者や下請けを人間扱いしないで維持されてきたのだ。

このように終身雇用なんて実際には存在しないのだから、それが「日本の文化や伝統に根ざしたもの」だという御手洗氏の話も嘘である。「文化と伝統」を持ち出すのは、現状維持したい人々のありふれたレトリックだが、戦前の日本には終身雇用なんかなく、職人が腕一本で多くの会社を渡り歩くのが当たり前だった。現在のような雇用慣行ができたのは、1960年代以降である。

だから問題は、このような偽装終身雇用を守ることでもなければ、朝日新聞の取材班が主張するように「請負労働者を正社員化」することでもない。アメリカ経験の長い御手洗氏も理解しているように、「何千、何万という職能分析と給料が地域別に出ており、自分がどこに行けばいくらで雇われるかがわかるから、安心して職を変えられる」仕組みをつくるとともに、社員の雇用形態を契約ベースにして多様化し、労働の流動性を高めることだ。

「企業と労働者が表裏一体の関係だ」という考え方は、大企業による系列化と終身雇用を前提としてはいないか。終身雇用は労働者を企業へ(精神的に)閉じ込めてしまうので、企業の浮沈を労働者の運命と一体化させる方向へ誘導させやすい。儲かった時には、利益を労働者へ十分に分配せず体内に温存してしまう。損した時には、負債を労働者から(雇用待遇を悪化させて)補填して「痛み」を共有させようとする。

また、政府の役人が経済政策を練る時に、系列化はたいへん都合が良いと思われる。政策の対象企業を絞り込み易いので、政策自体をシンプルにしておける効果が期待できる。どの業界でも頂点にいる大企業の多くは上場しているので、財務帳票は公開されており現状認識や政策が行われた後の効果測定を行い易い。その結果、大企業の景気が上向けば、その下の中小企業の取引額は必然的に増えて景気が良くなると思われ、政策の中に中小企業を直接組み込まなくても良くなる。中小企業の下にいる零細企業まで、富の分配が行われるかどうかは不明だが、零細企業は従業員数が少ないので政府統計の枠外にある。当然、政策の枠外にあるので、役人は零細企業の動向に気を使う必要もない。

そこでもし、世の中のしくみが変わって労働者の流動性が増すと、大企業は会社の運命と労働者の運命を一体化させる事が難しくなり、労働者へ正等な対価を支払わざるを得なくなり、労働者の賃金は今より高くなると思われる。そうなると経営者はこれまでのように安易かつ保守的な経営(儲かった時に内部留保を増やして不景気や経営的な失敗に備える)を改めざるを得なくなる。

では、どのようにしたら労働者の流動性が増すのだろうか。その条件を考えてみた。

  1. 企業年金をすべて確定拠出型年金制度(401K)へ移行して、転職しても積み立てた年金を次の会社へもって行けるようにする。
  2. 現在普及している退職金制度を止め、その分を毎月の給料へ上乗せする。 
  3. 企業が正社員を解雇しやすくする。企業側の都合(人員整理等)で解雇する場合には、解雇通告を3ヶ月前に行い、解雇時には解雇補償金(給料3か月分以上で、雇用年数に比例して増額)を支払うとなど、転職活動の準備期間を設けたり金銭的な補償を行うようにする。
  4. 正社員を雇用する場合、3ヶ月程度の試用期間を設け、その間は企業側の都合で解雇できるようにする。
  5. 労働仲裁機関を設け、企業と労働者が解雇理由や補償内容で争う場合の仲裁を行い、不当解雇された労働者を救済できるようにする。
  6. 企業内組織(営業、受注、発注、生産、会計、人事、総務)における部署間の書類・仕事・モノの流れと、各部署内での仕事の仕方を行政指導で標準化して、ホワイトカラー技能の客観的価値を高める。
  7. 企業雇用(営業、受注、発注、生産、会計、人事、総務)の専門職化を行政指導で行い、ホワイトカラー技能の客観的価値を高める。
  8. 女性が結婚・出産後も仕事を継続して行える環境を用意する。具体的には東南アジアの家政婦(ドメスティックヘルパー)を低賃金(住み込みで6万円程度)で雇用できるように法律を改正し、家事や子育ての支援が容易に得られるようにする。
  9. 労働者は、数十年に及ぶ長期的かつ毎月高額の支払いを要する住宅ローンを控える。

他に、グローバル経済に対応できる国際的な超大企業を選別して国策として振興・優遇する場合を除き、大企業に偏った優遇政策を止め、起業を奨励し、労働者の受け皿を大きく拡大して、大企業だけがまともな就職先という現状を改める事も、労働者の流動性を増大させる為に重要ではないかと思う。

このようにして終身雇用を大幅に減らし、労働者を一つの起業から開放して流動性を高めると、起業の運命と労働者の運命を切り離して考える事ができるようなる。政府の役人は起業に対して、上記3,4,5が適正に運用されるようにルール作りと監視体制に気をつけるべきである。結果、企業は新しい条件(欧米の企業は昔からこの様な条件で競争してきた)で経営する方法を学ぶだろうし、政府はそのような企業に対して、「労働者」を守るための政策を行ってゆく事ができるだろう。

起業には起業への政策を、労働者には労働者への政策を行えるようになる。

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