臥薪嘗胆

9月 21st, 2010 Categories: 1.政治・経済

私が深圳で雇用した弟子(業務コンサルタントの仕事を仕込んでいる)と、中国や日本の政治問題についてしばしば議論します。彼女は江西省の弩田舎の農村出身の高卒で、工場の事務系の職種についた後、苦労して日本語を習得しました。故に、頭が良くて柔軟な精神を持っているが、社会の知識がかなり偏っているのです。いわゆる政治教育による洗脳の影響がかなり強く残っているのです。そこで、中国人にとっては「常識」であるいろいろな事について、彼女と議論しながら教育しています。

ある日、食事をしているとき、彼女が私に言いました。日本も韓国も、もともとは中国です。そこで私は彼女に言いました。ある国が、歴史上もっとも広かった領土を「もともとわが国の領土」と言うならば、吉林省と遼寧省は韓国のものだという事になりますよ。このようにして国同士が「もともとわが国の領土」といって争うならば、国家間で戦争が絶える事はないでしょう。

ちょうどその時の話を彷彿とさせるのが、今回の尖閣諸島の問題です。中国は(こちらのブログによれば)尖閣諸島は日本の南西諸島の続きではなく、台湾島の離島であるので、故に中国の領土であるという理屈で、領有を主張しているようです。日本と国際世界に対して主張しているだけでなく、国内的にも魚釣台(尖閣諸島)は中国のものだと宣伝しています。よって尖閣諸島付近で中国の漁船が日本の海上保安庁に拿捕され、船員が逮捕される事は、中国の国内的な視点では「ありえない」状況になり、放置する事はできません。

私の弟子が「日本の警察の船が中国の漁船に体当りして壊しました」と教えてくれた時、私は弟子に言いました。合理的に考えて、その可能性は低いでしょう。日本の海上保安庁の人は公務員のはず。公務員は「愛国心」のようなもので不必要に自分が個人的に不利になるようなリスクを積極的しません。何故なら、尖閣諸島の近くで中国船にぶつければ外交問題になって、担当者の責任問題になります。逆に中国船の側からみれば、船をぶつけて外交問題になれば、メディアもネットも大騒ぎになり、日本国政府を困らせる事ができるので大きなメリットがあります。故にこれは、漁船の方が海上保安庁の船にぶつけた可能性が非常に大きいでしょう。

海上保安庁がビデオ撮影をしていたようで、事態は私が想像した通りの展開であったようですが、中国人の心情としては、たとえ映像を見せられても納得できない状況でしょう。

ところで早川忠孝氏はブロゴスで、今回の事態について「臥薪嘗胆、という言葉を用意した方がよさそうだ」と述べています。「中国政府に尖閣諸島の領有権を主張されて、日本政府として黙って引っ込むわけには行かない。と言って、中国政府と一切の外交関係を断ち切る、などという選択肢もない。この問題の棚上げを、上手にやるしかない。」要するに関係者を国外追放して妥協すという事のようです。

私は、尖閣諸島の領有を巡って中国と戦争をしても良いとは考えていません。というか、一定レベルに民主主義に到達している国家(中国も含む)との、日本国という仮想的組織の利益の為に、個々の国民が戦争に参加して損耗する事には、私は断固反対の立場です。しかしながら、漁場や地下資源として経済的価値が見込める尖閣諸島を中国へ渡すという事にも反対です。ではどうすれば良いでしょうか。

この場合、一番合理的だと考えられるのは、中国側が合理的に考えて見合わないと判断できる程度に、海上自衛隊と海上保安庁の装備および人員を増大させて、尖閣諸島を含む日本の経済水域をきちんと管理できるような「パワー」を持つ事ではないかと考えます。臥薪嘗胆とは、ただ我慢する事を指して使われる訳ではありません。そのようなパワーの準備が整うまでの間の我慢の事を、「臥薪嘗胆」と言うのではないでしょうか。

しかしながらもし、尖閣諸島周辺のトータルな経済的価値が、海上防衛パワーへの投資に見合わない(投資効率が非常に悪い)と考えられる場合には、最悪、ギブアップというのも検討するべきだと考えます。価値の無い領土であれば、防衛する経済メリットが低いからです。国益とは民益の事です。民の生活を守るための政治とは、そういうものではないでしょうか。

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10 Responses to “臥薪嘗胆”

  1. コマザワ
    9月 24th, 2010 at 01:44
    1

    >>日本も韓国も、もともとは中国です。

    私の知っている歴史とは違うようですが、西暦で言うといつごろのことでしょうか?

  2. bobby
    9月 24th, 2010 at 10:18
    2

    コマザワさん、コメント有難うございます。

    >私の知っている歴史とは違うようですが、西暦で言うといつごろのことでしょうか?

    紀元前108年に、漢王朝武帝が朝鮮を植民地化(漢四群)したそうです。
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BC%A2%E5%9B%9B%E9%83%A1

    3世紀頃、邪馬台国は金印紫綬(滋賀県では漢委奴国王印が発見)されています。琉球王国も銀印紫綬されています。たとえ印綬が象徴的行為であったとしても、中国側からみれば「属国」という見方ができます。
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%B0%E7%B6%AC

  3. コマザワ
    9月 27th, 2010 at 22:31
    3

    金印・銀印は当時の日本(邪馬台国や琉球王国)が朝貢外交を行っていたことを意味していると私も思います。中国から見て、「日本が属国に見えた」時代があったのは確かでしょう。

    また朝鮮半島のように植民地となったのであれば、「本国の一部である」という解釈は正しいと思います。
    しかし、日本が中国の植民地になったことは(まだ)ありません。

    「かつて日本は中国の属国だった」
    「かつて日本は中国だった」

    この2つは同義ではないと思うのですが、いかがでしょうか。「属国=本国の一部」という解釈は、社会学的に正しいものですか?

    「属国は、宗主国の強い影響を受けてはいるが、独自の長とと独自の法を持つ独立国」であると、私は思います。

  4. bobby
    9月 28th, 2010 at 22:42
    4

    コマザワさん、

    >この2つは同義ではないと思うのですが、いかがでしょうか

    この記事を根本的なところで「誤解」されているようです。日本がかつて中国の一部であったというのは私の意見ではありません。私の中国人スタッフが(そして大陸に住む中国人の多くが)このように考えていると指摘したまでです。

    そして、中国人の民衆の視点(価値観)に立てば、それもありえるという話をしています。もともとは中国という国など無く、秦とか漢とか清など個別の国があり、ある国が周辺国を征服して拡大したり、崩壊して無数の国に分裂したり、新しい国が興隆したりを繰り返していた訳ですが、現代中国人は、それら全てを包括して「もともとの中国の領土」として認識しているようです。その視点から見ると、日本も韓国も沖縄もベトナムも、チベットも、みんな「もとわが国」に見えるという話です。

  5. コマザワ
    10月 9th, 2010 at 16:01
    5

    >日本がかつて中国の一部であったというのは私の意見ではありません。私の中国人スタッフが(そして大陸に住む中国人の多くが)このように考えていると指摘したまでです。

    もちろんわかっていますよ。
    だからこそあなたがすべきことは、
    「ある国が、歴史上もっとも広かった領土を「もともとわが国の領土」と言うならば、吉林省と遼寧省は韓国のものだという事になりますよ。このようにして国同士が「もともとわが国の領土」といって争うならば、国家間で戦争が絶える事はないでしょう。」
    ではなく、
    「いいえ、過去に日本が中国の一部だったことはありませんよ。」
    だったと思うのですが、違いますか?

    正しい認識なくして物事は解決しません。

  6. bobby
    10月 9th, 2010 at 17:43
    6

    コマザワさん

    自国の価値観による歴史認識に固執しているという点では、うちの中国人スタッフとコマザワさんは同じレベルと言えます。

  7. コマザワ
    10月 10th, 2010 at 08:59
    7

    誤りを認めずに、私に対する人格攻撃ですか?
    あなたは理性的な方、合理的な方だと思っていたので失望しました。逆ギレとは残念です。

    過去、日本が中国の一部であった事実はありません。それは私の歴史認識とはまったく関係の無い話です。

    事実を事実として認めずに議論や提案はできません。
    ご自身の発言について、冷静になる必要があるのではないでしょうか。

  8. bobby
    10月 10th, 2010 at 10:27
    8

    コマザワさん

    >誤りを認めずに、私に対する人格攻撃ですか?

    さて、私はコマザワさんに対しても私のスタッフに対しても「人格攻撃」した覚えはありません。ただ、私が事実と感じた事を述べたまでです。

    >だからこそあなたがすべきことは、

    仰る通り、私はスタッフに対してもコマザワさんと同様に、固定された価値観を壊して、広い視野から合理的な思考ができるようになる為に、頻繁に議論しています。システムコンサルタントである彼女の業務にとっては、「道具」としてそれが必要だと考えるからです。

    >事実を事実として認めずに議論や提案はできません。

    中国と韓国の例で考えてみましょう。歴史上もっとも領土の広かった時点をもともとの領土と考えるならば、朝鮮半島はもともと中国の領土であり、一方で、遼寧省・吉林省・黒龍江省はもともと韓国の領土という事になります。

    【古朝鮮地図】
    http://www5b.biglobe.ne.jp/~moonover/2goukan/ohter/korea/map1.htm

    コマザワさんは「事実」と言います。しかし冷静に考えれば、数百年かそれ以上前の歴史は、タイムマシンでも発明しない限り、学問的には有力は仮説以上にはなり得ません。つまり、実際にどうであったかは歴史の闇の中にあり、現代における歴史的「事実」などはどこにもありません。

    ゆえに中国政府は自国民に対して都合の良い資料を「事実」と述べる事ができ、韓国政府も同様です。そしてこれは、原則として日本にもあてはまります。

    というような視点から見ると、コマザワさんの「私の歴史認識」というのは、自覚的であるか否かは別として、日本的愛国心に偏向している可能性が極めて高いと考えました。

    如何でしょうか。

  9. コマザワ
    10月 11th, 2010 at 09:34
    9

    人類の長い歴史の中に解明されていない部分があるのは事実ですが、すべてが闇というわけではありません。長い間積み重ねられた調査、研究、遺物から解き明かされた事実もたくさんあります。歴史とはそういう学問です。

    極稀に「かつて日本はスーパーテクノロジーによって全世界を支配していた」などと独特の歴史を主張する人がいますが、学問的には否定されています。「完全否定できる証拠は無い」と言い張ったところで、ファンタジーはファンタジーなのです。
    タイムマシンがなければ歴史はわからないなどという主張は、自説を肯定する言い訳としてはお粗末過ぎます。学問に対するあなたの認識の低さを露呈するだけです。

    先ほどあなたが書いたコメント後半部分は、私ではなく、あなたの中国人の友人にこそ伝えるべき内容でした。日本人の私には遠慮無い物言いである一方、中国人には慮って伝えないというのであれば、どうしてなかなかの偏向ぶりであると感じずにはいられません。

  10. bobby
    10月 11th, 2010 at 22:29
    10

    コマザワさん

    >歴史はわからないなどという主張は、

    歴史というのは、その時代の史家がリアルタイムに記述した資料もあれば、後世の史家が伝聞をもとに編纂したものもあります。編纂中に架空の人物を紛れ込ませる事もあります。(聖徳太子にはその疑いがかかっていますね)また史家の思想や偏見というフィルターがかかる事は避けられません。更に戦争や皇帝や領土に関する史実は、昔も今も、執筆の依頼主や戦争の勝者に有利に書かれます。そういう訳で、おおざっぱな流れとしての史実は事実に非常に近いかもしれないが、細部に行くほど、事実かどうかは曖昧にならざるを得ないと考えます。ゆえに、「事実」が知りたいならタイムマシンで過去を見に行くしかないと述べました。如何でしょうか。

    >私ではなく、あなたの中国人の友人にこそ伝えるべき内容でした。

    この記事の中でスタッフが「日本も韓国も、もともとは中国です」と言った時に、ランチタイムをフルに活用して伝えましたのでご安心下さい。

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