リスク管理から見た口蹄疫対策

井上晃宏医師がアゴラで

口蹄疫に関する現在の対策を批判して以来、同記事のコメント欄では様々な意見が議論されています。ところで、動物衛生研究所の資料によれば、2009年から2010年にかけて、中国ではこれだけの広い範囲で頻繁に発生しており、この状況は素人目にも、中国政府はウイルスの封じ込めに失敗していると言う事ができます。韓国では8年ぶり、日本では10年ぶりの口蹄疫発生ですが、日本をとりまく東アジアの状況から見ると、悪化する口蹄疫禍の「はじまり」と見るべきです。


日本や韓国が国内でいくらウイルス封じ込めをして、清浄国化を行っても、中国で口蹄疫が拡大している以上、ウイルスが日本や韓国へ持ち込まれるのを水際で阻止する事は、現実的に不可能と言えます。不可能な前提を無視して、一国だけで清浄国を維持する政策は、まったく合理的でも現実的でもありません。少なくとも、東アジア全域で、口蹄疫が数年以上沈静化するまでは、いつでも発生する事を前提とした「リスク管理体制」を敷くべきです。

日本の政府と地方自治体が行うべき対策は、具体的には、再発する事を前提として、発生時の経済的被害を最小限に抑える為の、ダメージコントロールとしてのワクチンの予防的使用です。私は疫学の専門家でも獣医でもありませんが、ネットで入手した情報を総合的に判断して、下記のような対策を提案します。

1)ワクチンを全国の家畜へ機械的に4ヶ月から半年毎に摂取するのは、ウイルスが国内の野生動物へ拡散してしまった場合の対策です。

2)野生動物への拡散が確認されるまでは、日本に比較的近い東アジアの国口蹄疫が大規模に発生したタイミングで、国内の摂取対象地区を絞ってワクチン接種を行う。

2)国内でワクチン接種を行う対象地区は、発生場所と地理的に近いか、発生箇所との人や物の交流が大きい、畜産エリアを検討する。

3)ワクチン接種した地区では、ワクチンを接種しない識別用の家畜を配置し、定期的に抗体チェックを行い、ウイルス到来の有無を確認する。

4)国内でウイルス感染が確認された場合、ワクチン接種を周辺全てに広げ、かつ、自衛隊による汚染地区の物理的な封鎖を即時行う。自衛隊の医療資格者もワクチン接種できるようにする。

5)摂取ワクチンで感染が抑制されている場合は、発病した対象動物だけをと殺する。

6)ワクチンによって感染を抑制できないと判断された場合にのみ、封鎖地区の対象動物を全部と殺して自衛隊により焼却する。

ワクチンを使用する事で、隣国から非難される事を恐れる人がいるようですが、口蹄疫研究の先進国であるオランダは、ワクチン使用により口蹄疫の沈静化に成功しています。そのオランダ人を、ワクチン使用により入国拒否している先進国があるでしょうか。合理性のある対策を恐れる事は愚かな事です。

ワクチン摂取する事自体で、不活性化されなかったウイルスによる発病を恐れる人がいますが、技術的に未熟であった過去の例であり、現在の高い技術では、不活性化ワクチンでそのような事は起こらないと、人獣共通感染症で有名な山内一也氏は述べています。

同じく山内一也氏によれば、口蹄疫ワクチンの下記問題は、OIEが1957年に殺処分の国際条約を作った為に、企業が積極的に投資せず、その為に旧世代に取り残されていると述べています。ワクチン接種と発病の抗体を見分けられるマーカーワクチンの技術は既に存在しています。予防的ワクチン接種を行う国が増えれば、ワクチンの問題は改善されると考えます。
1)ワクチン接種と感染とで、抗体を見分けられない。
2)効果が半年しか持続しない。
3)ワクチン接種後に感染した動物がウイルスを撒き散らすキャリアとなる。

口蹄疫が家畜の恐ろしい伝染病であるのなら、政府は過去の法律にしがみつくのではなく、最新の知見に基づいた科学的かつ合理的なリスク管理の手法について、もっと研究を行うべきです。

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6 Responses to “リスク管理から見た口蹄疫対策”

  1. 6月 8th, 2010 at 10:52
    1

    感染流行予防のためのワクチン接種のご意見は近未来に起こるであろうと思いますが、まだ実用段階ではないということなのではないでしょうか。

    ご紹介の山之内一也氏の記述に寄れば、「期待できる」ですから、実用化してはいないようです。この記事は2001年ですので現在さらに進歩しているようですが、まだマーカーワクチンの技術は口蹄疫に関しては完成はしていないようですよ。

    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20021307
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20199761

  2. bobby
    6月 8th, 2010 at 11:03
    2

    ap_09さん

    仰るとおり、口蹄疫のマーカーワクチン技術は開発されましたが、有効な製品として実用化されるには「市場」が必要です。いまはOIEの国際条約のおかげで、その市場規模が小さく、製薬会社が投資するメリットがなく、故に実用化の為の大規模な開発と改善が行われていません。

    では、マーカーワクチンが完成するまで、ワクチンは予防や沈静化に無力なのでしょうか?現在でもオランダや南米諸国では、ワクチンの予防的使用による発生阻止や発生後の沈静化で実績を上げています。日本でも、これらの国を参考にして、リスク管理、ダメージ管理を行う事は可能と考えます。

    私のもう一つの記事をご参照頂き、

  3. 6月 9th, 2010 at 09:39
    3

    市場は世界中ということで、巨大なのではないでしょうか。
    技術的に信頼度があまり高くないので出回っていないのだと思いますよ。信頼度の高いワクチンができれば、撲滅キャンペーンとして大々的に出回るのではないでしょうか?

  4. bobby
    6月 9th, 2010 at 10:54
    4

    ap_09さん

    OIEの殺処分の国際条約があるので、世界の市場が成長できなかったという事だと思います。予防的にワクチンを常用しているのは、私が知っているのは南米の一部の国だけです。

    機能や信頼性の問題の多くは、口蹄疫の不活性ワクチンが1970年代の技術で止まっており、山之内氏の言葉を借りると「、企業によるワクチン開発はこの30年間ほとんど試みられていません。その間にほかのワクチンでは第2世代、第3世代ともいえる新しい技術が試みられていますが、口蹄疫は取り残された」のが原因との事です。

    山之内氏は人獣共通感染症では日本を代表する人のようですし、彼の人獣共通感染症の講義録(下記参照)をほぼ読んでいますが、プリオンやSARSに関する記事などを見ても非常に慎重だが合理的な考え方をする人であり、下記の内容を読む限り、信頼できる人だと思います。

    http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/05_byouki/ProfYamauchi.html

  5. 6月 9th, 2010 at 12:12
    5

    山之内先生のいうことが間違っていると言っているつもりはありません。山之内先生は「可能性」の話をしているのであって、実用できるワクチンがあると言っているのではないと指摘しているつもりなのですが。そして日本も企業まかせでなく、そのための研究を推進すべきと主張しておられるように思います。
    アメリカでは、たとえば子宮頸がんの原因になるヒトパピローマウイルスのワクチンが良い例かもしれませんが、子宮がんワクチンはもとはNIHという、日本ではいわば厚労省にあたる米国国家機関による研究を、企業に持ち出して製品化したものです。
    NIHで長年研究してきた学者が、これはいよいよ製品化可能かという段階になると、製薬会社やベンチャー企業にひょいと鞍替えして、お金持ちになるというのが、日本と違って、最エリート医学研究者のひとつのキャリア・パターンのようです。子宮頸がんワクチンの研究班の主要人物の一人は、たとえば、米国国家機関の研究者であっても、イギリス人か何かで、アメリカ人ではありませんし、また、ご存知のように製薬会社の大きなところは国際会社で、アメリカの会社とは限りません。日本は巨大製薬会社そのものがないので、口蹄疫のようなものに研究費を出せる会社はないのはもっともですが、最終的に製品開発を企業がするからと言って、おおもとの研究が民間とは限りません。

    現にイギリスは近年口蹄疫の流行がかなり頻回でしたし、クローン羊を世界で初めて作ったことに代表されるように、バイオでは世界の先端で、科学雑誌のネーチャーもあります。口蹄疫のワクチンについても熱心に研究していると思いますよ。マーカー・ワクチンは疾病によってはすでに実用段階のようですが口蹄疫ではまだその段階ではないということだと思います。

  6. bobby
    6月 10th, 2010 at 00:57
    6

    ap_09さん

    山之内氏はグローバルな視点の持ち主と感じていますので、国内の製薬会社うんぬんではなく、マーカーワクチンを開発できる力を持つ欧米の大手製薬会社の事を言っているのだと(私なりに)理解しています。

    ちなにみ、別の方のコメントへ反論するために英文記事を調べていたところ、口蹄疫のマーカーワクチンはすでに調達可能なようです。下記のコメント欄の英文記事をご参照ください。
    http://bobby.hkisl.net/mutteraway/?p=2418&cpage=1#comment-22463

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