光の道を征する者が通信業界を征する

既存の出版業界で最も成功しているのは、出版社と書店の物流を結ぶ、本の取次ぎ業者です。NTTが依然として強力なのは、データを結ぶ物理的な広域ネットワークを所有しているからです。デジタル情報における物流といえば、バックのインフラとなる「光の道」かと思われます。つまり、光の道を征する者が、この先数十年の通信業界を征すると考える人がいて当然です。

池田信夫氏は、独立したアクセス会社が税金を1円も使わず10%の光ファイバ未達エリアをカバーし、月額1400円で全国各戸へインフラを提供する事は経済的に困難ではないかと述べ、そもそもユニバーサルサービスの必要性に疑問を提起しています。リスクの高そうなアクセス会社ですが、ソフトバンクの孫さんは、総務省の「光の道」構想を強力に支持しているようです。いったい何故でしょうか。

我々は、ソフトバンクが通信業界に参入して以来、NTTによる「不公平な競争」を強いられてきた事を忘れるべきではありません。孫さんは、アクセス会社の社長をやっても良いと述べたそうですが、「やっても良い」ではなく、「ぜひ私がやりたい」が、光の道構想を支持する目的ではないでしょうか。

原口総務大臣は政府側の価値観を持つ人間ですから、通信はユニバーサルサービスだと言われれば納得するしかありません。しかし光ファイバはNTTの経済合理性の問題により全土の10%に未達であり、ユニバーサルになっていません。孫さんはそこをコミットする事で原口総務大臣の心を動かし、全国の光ファイバをNTTからまるごと「釣り上げよう」としているのではないでしょうか。

孫さんはこれまで、リスクの高い投資を繰り返して成長を続け、現在のソフトバンクを築きました。彼が過去に会社を成長させた方法を思い出せば、今回のアクセス会社は、リスクよりリターンが何倍も大きな事業だと考える事は当然かと思います。たとえば、10%に光ファイバを引く費用を捻出する方法は、税金だけではありません。孫さんなら、投資ファンドからお金を引き出す説得力はあるでしょう。光の道を使って、ソフトバンクがNTTを追い越し、世界市場へ進出する成長戦略も、とっくに考えているかもしれません。我々がまだ見えていない、隠し玉もいくつもあるかもしれません。

上記はすべて私の想像です。しかし、もし大筋で正しいとすれば、ソフトバンクは全力でアクセス会社を支援し、日本の通信バックボーンを合法的に独占するアクセス会社が大きな成功を収め、孫さんがNTTを制して、日本の通信業界のドンになる可能性は決して低くないと考えられます。

日本の通信業界を征したあとは、その力をもってグローバル市場へ参入しようとする事を想像するのは容易です。NTTのふがいない内弁慶ぶりを見れば、そういう未来が来るのも決して悪くないかもしれません。

Facebook Comments
Tags:

10 Responses to “光の道を征する者が通信業界を征する”

  1. ステゴザウルス
    5月 21st, 2010 at 06:18
    1

    光の道でも電波の道でもどちらでもかまいませんが、
    問題はそれを「国の政策として投資しろ」と私企業が言っていることです。それは箱物公共事業でしょう。
    ましてや都市部ではすでに設備があるのですから、
    IT投資効果が低い山村部(地方とは言いません、地方都市中核都市はすでに完了しているはずです)に補助金を国が出すことを私企業が要望するのはちょっとおかしくないですか。
    企業が投資することを邪魔しないように規制解除する、(例えば電柱の権利とか、地中配管の権利?とか?)あるいはユーザーの利便性を上げるためにコンテンツ利用促進を妨げる種々の規制を解除するのが国の仕事ではないですかね。それで市場が爆発すればおのずと私企業の投資なりハードは付いてくると思います。ものづくりではなく、「事」を作るべきだと思います。

  2. bobby
    5月 21st, 2010 at 09:41
    2

    ステゴザウルスさん、

    国の仕事は原則として、市場競争により経済が発展する方向へ規制緩和する事だと思います。私もその考えてに原則合意します。

    ところで道路は税金で作られ、国や地方自治体に所有さる公共財です。故に、どんな企業でも自由にその上を走る事ができます。その道を使ってどう商売するかは企業の自由であり、自由な競争により経済は発展します。(経済ニーズのある道では、という意味です。)

    ところが携帯キャリアやADSL回線のプロバイダー業界では、もともと独占的国有企業であったNTTが、当時の圧倒的な力を利用して、現在も「光の道」の多くを独占的に所有しており、その他のキャリアが公平に競争する事ができませんので、「光の道」を所有する会社と、その上でのコンテンツ競争する会社は分離せよ、というのが孫さんの意見だと理解します。要するにNTT分割論の別のかたちと言えます。

    この文脈の中では、光の道が未達の10%をどうこうするという内容は、孫さんが総務省を説得する方便と私は考えているので、ここに突っ込んでも、有意義な議論にはならないと思います。

    大事なのは、このアクセス会社という非常に大きな潜在的ポテンシャルを持つ会社を、孫さんが経営した時に、どのような発展をするのだろうか、という事だと思います。

  3. veryvery
    5月 22nd, 2010 at 15:21
    3

    そもそも、孫社長が言ったのはアクセス会社の社長ではなくて「社外取締役」ですね。
    SBの社長としての立場をとりながら(儲かる事業はそちらで)アクセス会社にも物申す権利を持っておく、というSBの経営を主に置いた発想だと考えます。
    つまり、アクセス会社は全事業者に公平であるべきだ(ご本人はガバナンスという言い方をしていますね)ということで。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100517/348105/

    もし孫社長の本意がbobbyさんの論旨のとおりとすれば、孫社長が採るべきはSBの職を全て辞し、公平中立なアクセス会社の社長のみを生業とする、という立場が必要でしょう。
    さらに、そのときにできたアクセス会社をSBが全力で支援してアクセス会社が孫&SBの独占企業に??
    今のNTTと分けた意味が全くなく、むしろ悪い方向に向かっていますね。公共性を持ちかつ独占的事業を行う企業が、非常に影響力の強い経営者の下に関連企業と連携する。これが日本の未来を拓くとは思いたくありません。

    ちなみに個人的には、通信事業のアクセス部分がグローバルで競争する理由は全くないと思います。GoogleにせよAppleにせよAmazonにせよ、海外企業で今日本の皆さんが脅威と仰っているのは、みなアクセス系以外の企業ですね。
    国内の通信事業は外資を入れないこと、これに尽きるかと。

  4. bobby
    5月 22nd, 2010 at 15:52
    4

    veryveryさん、
    記事の紹介有難うございます。

    「アクセス回線会社に取締役の一員として参加するくらいの気持ちはある」と意気込みを示し、「KDDIの小野寺社長やNTTの三浦社長、イー・アクセスの千本会長などにも社外役員として参加してもらい、ガバナンスを効かせるくらいでないと中立性は保てないのではないか」

    上記記事の引用部によれば、孫社長は取締役の一人であって、社外取締役ではないでしょう。しかし代表取締役ではないので、社長ではないようですね。私としては残念な感じです。

    >アクセス会社は全事業者に公平であるべきだ

    アクセス会社は公平であるべきです。しかし、企業の交渉力や決断力は、平等ではありません。たとえばiPhoneやiPadのオファーは、ソフトバンクとドコモの双方にあったと考えられます。しかし勝ったのはいづれも孫さんの交渉力と決断力でした。稟議書を作り山ほどハンコの要る会社と、社長の一声で決断できる会社の違いといえます。通信業界が政府の意向でなく市場原理の働く世界になれば、ソフトバンクが「チャンス」を活かせる機会は更に増えると考えています。

    本記事において、孫さんがアクセス会社の社長をやれば、ソフトバンクに利がある、と書いたのはそういう意味においてです。

  5. veryvery
    5月 22nd, 2010 at 17:08
    5

    bobbyさま

    >孫社長は取締役の一人であって、社外取締役ではないでしょう

    これはおっしゃるとおり(汗 失礼しました。

    >企業の交渉力や決断力は、平等ではありません。・・・稟議書を作り山ほどハンコの要る会社と、社長の一声で決断できる会社の違いといえます。

    Appleのオファーがあったかは知りませんが、ソフトバンクと言う会社が、社長がすばやく決断しさらにそれをすぐに実行できる稀有な大企業であるのは全くそのとおり。
    まさにソフトバンクの強みはそこにある。

    だからこそ私が言いたいことは、国策(国費を使わないとかそんな非現実的な主張はさておき)として、「ユニバーサルな事業であること」を理由に民間企業であるNTTから分離分割した特別目的会社が、1個人の素早い決断で施策を打つことは、本末転倒ではないか?ということです。

    孫社長の言動には批判も賛同もしませんが、稀有な才能の持ち主なのは間違いないと思います。bobbyさんの期待は感覚的には理解できるのですが、民間会社でこそ活きる方なのではないかと思います。

    #ちなみに、iPadの販売権をSBが勝ち獲ったのは交渉力よりもコミットの内容ではありませんかね?SBはiPadを獲らないと企業としての進退に関わりますが、ドコモはiPadのみに決め打ちしているとは思えないですし。

  6. bobby
    5月 22nd, 2010 at 18:05
    6

    veryveryさん、

    >民間会社でこそ活きる方なのではないかと思います。

    アクセス会社が生まれるとすれば、そのきっかけは国策ですが、出来上がった会社は民間会社と理解しています。故に孫さんの手腕が活きてくるのではないでしょうか。

    >交渉力よりもコミットの内容ではありませんかね?

    私が一つ前にコメントで述べたのは「交渉力と決断力」でした。ジョブズの我侭な要求を短期で検討し「呑んだ」決断力、その変わり世界で日本だけ(ドコモを排除する)SIMロックを付けさせた交渉力は、相当の辣腕といえるのではないでしょうか。

  7. ステゴザウルス
    5月 22nd, 2010 at 18:37
    7

    私もVeryveryさんの孫さんの立場に関するご意見に同意します。
     孫さんがNTTがアクセス会社とアプリの両方を持つのがけしからんと言うことであれば、彼がアクセス会社に加担することはラスボスがNTTからSBになるだけです。
     彼の論点はアプリとプラットフォームの分離なのですから孫さんの発言は自己矛盾しています。
    彼が自由で素早いサービスを企画するのは大きなポテンシャルがあるのでしょうが、それを他人の褌(NTTなり国策会社なり)で行うのはご自身がNTTについて指摘するようにアンフェアです。(NTTが実際にアンフェアな活動をしているか否かは私は情報を持たないので議論しません)

     また、公平で低価格なアクセス会社(道路)の上で種々のサービス会社が活躍する(車が走る)のであれば、アクセス会社自体は過剰なポテンシャル(無駄な高速道路)を持ってはいけないのです。なぜなら、価値はその上の階層のサービス(車の移動)にあるからです。道路には経済的に公平なアクセス手段(経済的に最適な国道で、地域、距離による価格差があることも当然です。補助金で格差を多少補正してもいいでしょう)を提供することが求められます。そしてそれは国策会社(形式が民間であっても)ではできません。なぜならば、bobbyさんが的確にコメントしていただいたように、国策会社は「経済ニーズ」を無視するからです。
     我々は国策会社が地方に口当たりの良いスローガンの元に自己生存のために手段を目的化し、経済性のない残り10%のために無駄な資源を浪費する例を高速道路や地方空港の建設で見てきました。ですので、これを「国策」として行うのは明らかに愚かな過ちの繰り返しです。だからこそ、池田信夫さんのような経済学者が反対しているのです。
     この状況を知っておきながら孫さんが残り10%の経済性の無さを口にせずに「100%を国策で」とおっしゃるからこそ、私は彼の発言を「二枚舌」と感じますし、bobbyさんが「10%は方便」とおっしゃるのは、非常に重要なポイントを見逃していると思います。

    孫さんが「コンテンツ、サービス立国の為に規制緩和を」と役所と戦うなら拍手喝采ですが、NTTに挑む時点で「相手が違うぞ、怪しいな」と私は思います。

     現状でもNTTの光回線の利用率の低さは「経済ニーズ」を無視した過剰設備と株主から批判されても仕方ないでしょう。ですので、私がNTTの立場なら、国策会社が設立されたら、過剰な設備と人員を喜んで切り離しアプリ部門(ドコモ)の強化に驀進するでしょう。それは国民に取り返しのつかない無駄会社を押し付けることになります。ドコモユーザーとNTTの株主にとっては干天の慈雨ですが。
     一方でNTTにとっての最悪ケースは、国策の名の下に無駄な設備投資を民間会社として国に強制されることです。しかもSBやauのみならず政治家が口出しをする。だからこそ、現在彼らは口をつぐんで「国営過剰設備会社」というババ札を孫さんが持っていってくれることを期待していると思います。孫さんもそれがわかっているから「私がやる」と大見得はきらずに「取締役ならやってもいい」と中途半端なことを言うのでしょう。

    最後に、NTTが自身のISDNを守るために自身のADSL、他社への局内開放に抵抗した、と言うことは事実ですし、私もフラストレーションをすごく感じたので「圧倒的地位を利用した」と言っていいでしょう。しかし、私自身がADSL/光回線の自宅への導入を各社と交渉した経験からすると、当時最もアンフェアなダンピングを行っていたのは他ならぬYahooBBでした。NTTにとっては、やりたくもない価格競争でYahooに対抗するためやむなく光回線を導入させられたというのが本当のところではないでしょうか。その競争によって利益を得たのは低価格で高速回線を手に入れたユーザーの私でした。よって、光回線の各家庭への配線の独占は経済的ニーズと競争によってもたらされた結果であり、それを非難するのは時系列が間違っていると思います。

  8. veryvery
    5月 22nd, 2010 at 18:49
    8

    >アクセス会社が生まれるとすれば、そのきっかけは国策ですが、出来上がった会社は民間会社と理解しています。

    ああ、おっしゃっていること自体は理解しているつもりなんです。しかもその点については大臣含め誰も明言していませんからね。
    違和感があるのは、民間会社(NTT)から国が法改正までして一部を切り出して、新しく作るのが公的企業でなく民間会社??それはどんな法的根拠で?ということと、さらに国が作った民間企業の社長に、それまで競合他社だった通信事業者の経営者が着く、という点。

    もしあなたの会社が、ある日突然政府から「御社のやっている事業のうち、●●を明日から分離します。新しい会社の社長は、競合会社のAさんにやってもらいますから。では。」って言われたら・・・

    >「交渉力と決断力」

    ええもう孫さんの経営者としての手腕といったら、本当に群を抜いていますね。SIMロックは外して欲しかった。。。

  9. bobby
    5月 22nd, 2010 at 20:42
    9

    >違和感があるのは、民間会社(NTT)から国が法改正までして一部を切り出して、新しく作るのが公的企業でなく民間会社??

    確かにNTTがもともと民間企業であったのなら、このような議論自体が極めて非資本主義的と言わざるを得ませんね。しかしながらNTTはもともと国有独占企業であるところの電電公社であった事はveryveryさんもご存知の通りです。

    また、分割民営化がきちんと行われていれば、独立して市場で互いに競争する(もとNTTの)私企業群に対して、そもそもアクセス会社が「光の道」を一括で引き取るというような議論は起こらなかったでしょう。

    現在のNTTの分割が名ばかりである事はNTTウェブサイトにある下記の組織図を見れば一目瞭然でしょう。
    http://www.ntt.co.jp/csr_e/2007report/03.html

    分割とは名ばかりのNTTは、公社時代の設備資産と営業資産をもとに、圧倒的な力で光ファイバもたちまちに市場で独占状態を保持するようになりました。このような状況に対して
    、他の民間企業(ソフトバンク等)が競争し易い状況を作り出す事も、政府の重要な仕事のひとつであると考えています。

    ちなみに、国有通信企業が民営化した場合、米国や韓国では、日本よりもより強い非対称(民営化した企業に厳しく、新規参入企業に緩い)規制を課しているようです。詳しくは下記記事を参照下さい。

    http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070913/281877/?ST=keitai

  10. bobby
    5月 24th, 2010 at 01:15
    10

    池田氏の下記記事は大変興味深いですね。これなら確かに、アクセス会社なんて変則的な方法は不要と言えます。

    【もしソフトバンクがNTTを買収したら – 池田信夫】
    http://agora-web.jp/archives/1019119.html

Comments are closed.