SIMロック排除で端末が標準化される理由
heridesbeemerさんから、「SIMロック排除などをやれば、寡占オペレータの術策に陥り、政治的負債をかかえこむことにより、日本のガラパゴス化は、よりすさまじいことになることでしょう」との意見を頂きました。
私は、SIMロック排除は効率的なビジネスモデルの再構築を促進するとの意見を述べ続けていますが、なかなか理解して頂けません。松本氏も、SIMロック解除論について再論されていますが、SIMロック解除により、キャリアのエコシステムが修正される事を理解できないようです。
そこで、SIMロック排除から、端末とキャリアのサービスがオープン化するプロセスを図に表してみましたのでご参照ください。
政府がSIMロック排除指導を行って、キャリアがSIMロック無しの端末にします。しかし、端末は他所のキャリアでは使えません。そこではじめて、ユーザーは専用端末+専用サービスの問題を認識します。ユーザーからキャリア間で端末の移動ニーズが出ます。キャリアが端末の移動を可能にするには、2つの方法があります。
1)2社の専用サービスに対応したソフトを端末へ入れる。この方法は、端末がより高額になります。しかし、キャリアは販売時に、どの端末があとから移動の対象になるか判別できないので、すべての端末を移動可能にします。そうすると、すべての端末がいまより高額になり、キャリアは利益減となります。
2)W-CDMAの標準端末で対応できるようにサービスのしくみを変更する。この方法は、W-CDMA端末が本来持っている機能だけを使うので、端末はソニエリやサムソン等のメーカーのアジア仕様の標準端末を日本語化するだけで利用できます。つまり端末価格は2万から4万円となり、現在の端末の半分程度になります。国内メーカーの端末も、同程度の価格帯にしないと競争できないので、価格が海外端末に片寄せされます。キャリアの販売奨励金も半分になるので、通信費が同じなら利益は増加します。
どちらの方法を選択するかはキャリア次第ですが、キャリアが利益の増大を前提に行動すれば、(2)を選択するのが合理的です。
よって、政府によりSIMロック排除規制が行われると、結果として、端末は標準化され、キャリアのサービスも端末の互換性の範囲内に収束されるようになります。
携帯販売業で働いてる者です。
知識が少なく、誤った指摘があればご容赦ください。
>そこではじめて、ユーザーは専用端末+専用サービスの問題を認識します。
私は、こちらの部分が気になりました。ユーザーが不利益を受けることが事前にわかっていながら、SIM解除を強制する理由は何なのでしょう?
また、図の2項目目の「キャリア間の端末互換性の要望が生まれる」というのは、前項の行政指導を行わずとも既に生まれているのではないのでしょうか?だからこそこのような議論が行われているのだと思うのですが。
この要望を吸い上げたメーカーが端末を開発する、それを望んだユーザーが買う、それが健全な形ではないでしょうか?
このような議論を見ていると「自分はキャリアが個別に提供しているサービスは必要なく、その費用を自分が負担したくない」という我侭な面が見えるのですが、どうでしょうか?少なくともそれらのサービスに利便性を感じ、利用しているユーザーも存在していると思います。
互換性のある端末を選択できる環境が必要なだけであって、キャリアのサービス自体を互換性の範囲内に収める必要はないと思うのが私の意見です。
M.Mさん、コメントありがとうございます。私も勉強しながら記事を書いています。不明な点は何でも質問して下さい。
>ユーザーが不利益を受けることが事前にわかっていながら、SIM解除を強制する理由は何なのでしょう?
消費者から見た一番大きなメリットは、月額の通信費がいまよりずっと下がる事です。
ドコモやソフトバンクは、世界的に見ても高収益で、非常に成功している会社です。その理由は、松本氏が言う「三位一体」による消費者の囲い込みが大きいと考えられます。消費者のキャリア間移動が今よりもずっと容易になると、移動する人が増大し、顧客獲得競争が激化します。専用端末による「わが社だけのサービス」ができないので、ドコモとソフトバンクはお客を取り合う競争において、「通信費」と「つながりやすさ」の2つでしか勝負できなくなります。必然的に通信費は下がります。
>前項の行政指導を行わずとも既に生まれている
松本氏も記事中で指摘していますが、国内での端末互換性の要望はガラケーではなくiPhoneをドコモで使いたいという事のようです。ガラケーのユーザーはまだ、自分たちがいかに「高い月額費用」を支払っているか気づいていないと思われます。
2010年6月、原口総務大臣とその一派は、結局、2011年2月1日より、SIMロックは禁止する、というガイドラインを出しました。
それで、どういう事が起こったかというと、販売奨励金は、2月1日より、SIMロックなしの端末にはつけれないので、電話を買うなら1月末までに、というキャンペーンとディスカウントが、行われました。
つまり、需要の先食いが起きました。
そして、オペレータ(といっても、実際、関係するのは、SBMとdocomo)は、自社のサービス・ネットワーク仕様は一切、変える気がないので、どういうことが起きたか、というと、メーカーは、SBMとdocomoの両方の端末承認を受ける必要があるハメになりました。つまり、開発期間もコストも大幅増です。もちろん、開発費があがっているのに、オペレータは端末奨励金は、ビタ一文出さなくなったので、実売価格は、バカバカしく高いものとなりました。
SBM/docomo両方サポートの端末が出てきたのは、2011年も春も過ぎ去ろうという時期です。しかも、ガラケーの初代はバグだらけ、の伝統に従って、値段は高い、もっさり感あふれまくりで、バグだらけの端末がオンパレードです。
まず、悲鳴をあげたのは、端末需要の極端な落ち込みに根を上げた、ガラケーベンダーです。メーカーと電機労連は、つるんで、政権に泣きをいれて、なんとかしてくれ、と。
次に、消費者も、端末の値段がまた高くなって、しかも今度はいいことはなにも起きなかったので、不満たらたらでした。
一番、喜んだのは、目の上のたん瘤のレギュレータが明白な政策ミスをおかしたので、発言力のましたオペレータで、天下・国民の為に、SIMロック禁止というのは、暴論であった、と声高にキャンペーンを展開しました。
そして、2011年の端末販売は、なんと、2000万台に結局、とどかないことになりました。結局、世論の圧力に負ける形で、1年たった、2012年の2月に、SIMロック禁止は撤廃されて、元の木阿弥となりましたとさ。そして、総務省には、SIMロックには、触れるべからず、という雰囲気だけが残ったのでした。
だいたい、この元々の図は、間違いだらけだと思う。
基本的に、オペレータの収益構造は、
ARPU * 加入者数
を時間積分したものである。
ARPUとは、一月に加入者からカモれる金額(請求書にかいてる額)
だから、端末のコストアップで利益減、なんてのは、デタラメである。
同じように、右の分岐も端末のコストが、どーのこーの、とかいてる時点で落第。
オペレータにとって、端末とは
1)よそから客をとってこれる(加入者数が増える)
2)あたらしいサービスを可能にする(かもれる額を増やせる)
という事が大きい。
ということで、もちっと、勉強してから,ものを書いてもらいたいと思う。
heridesbeemerさん、
もし図の左側をキャリアが選択した場合についてです。S社とN社の両方で使える端末がより高額になる事はheridesbeemerさんも自身のコメントで述べているので異存ないと思います。端末の互換性により、顧客の流動性が増すので、顧客の奪い合いは必然的により激しくなります。この場合、キャリアは顧客欲しさに、より高額の端末にも販売奨励金を付けざるを得ません。
ところで販売奨励金は、本来は端末への投資を契約期間中にちょっとずつ回収するというコンセプトだと思いますが、会計上は営業費用になり、支払った月の月次損益計算書へ計上するようです、つまり計上月の利益を減らす事は間違いないようです。
【総務省、販売奨励金の会計処理を諮問 】
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/37724.html
ところで両方のキャリアの専用サービスに対応できる端末は開発がそれほど大変なのか、という疑問があります。
同じ端末を両社へ提供しているメーカーは、専用ソフトを切り替えられるしくみを追加する(搭載メモリは多少増加させる必要があるかもしれない)程度の変更で足りるかもしれません。その場合、いまよりバカ高くはならないでしょう。
どちらか片方のキャリアだけに端末供給しているメーカーは、非互換端末である事を明示して販売するしかないですね。その場合はコストアップにならないでしょう。力の無いメーカーは最終的に統廃合の過程で淘汰される可能性が大きいかと思います。
このような状況は、メーカー側の経営リスクを増やすだけで何のメリットもありません。キャリア側の要請であっても、メーカー側は、端末側で2社専用ソフトを「呑む」事は拒否する可能性が高いと考えられます。
やはり互換端末の路線の先にあるのは、端末の標準化が(キャリアとメーカーの双方にとって)合理的な選択かと考えます。
docomoとSBMの両方の承認を1台の端末で、とるのが、大変か大変でないか。そんなことは、実際の有り様を知っている人は、”大変だ”、と答えます。私も、そう答えます。
あなたは、門外漢なので、わからないだけです。
ひとつ、質問しますけど、MOAP対応のソースコードを、SBMなりKCP+にもっていくことを考えてみたら。固有名詞は、門外漢でも、 Googleひけば、浅いことはわかるでしょう。
メーカーとオペレータの我慢大会で、どっちが長く持ちこたえられるかは、近年の決算をみればわかるでしょう。
オペレータは、ビルさえ、払ってもらえればいい。そこが時間積分で食っている所の強み。
メーカーは、端末売れなければ、それまでだ。
なんで、端末販売奨励金をつけなければならないのでしょう。端末は、docomo/SBMコンパチで、SIMロックついていないのに。
しいて、いうなら、もう一つの寡占オペレータ、KDDI対策の為には、販売奨励金つけざるを得ないかもしれませんね。なにしろ、KDDIは、エアインタフェース自体が非互換なので、SIMロックはずしても、その端末は、KDDIでしかつかえないから、販売奨励金はつけれるし。
その場合、docomoとSBMで、unholy allianceで、割り勘で補助金つけますかね。難しいはなしだが。
だいたい、標準スペックの端末をいれたいなら、そう総務省令で定めて、TELECに認定させて、日本通信、ヤマダ電機、レッドバロンなどがNokiaなどと話をつけて、端末のインポーターをやればいい話。
そして、そういった端末を、UAヘッダーや、パケット定額などで、オペレータが不公正差別することを禁じればいい。
国民共有財産の周波数をただで、金儲けにつかわせているのだから、総務省は、それくらいのことはやっていいと思う。
ところが、そういうことをやらずに、SIMロック排除などという、間接手法(しかも失敗確実)に固執するのは、なぜ?
>なんで、端末販売奨励金をつけなければならないのでしょう。
端末がいくら安くなろうとも、SIMロックの有無にかかわらず、キャリアが顧客獲得の手段として販売奨励金をつけるのは常套手段です。香港のキャリアもSIMロック無し(契約縛り)の端末で良くやっていますよ。
>もう一つの寡占オペレータ、KDDI対策の為には、
W-CDMAのキャリアが優勢の日本で端末の標準化とSIMロック外しが進むと、CDMA2000のKDDIは逆にシェアが急激に下がるのではないかと思います。私は香港で、SIMの無いcdmaOneの端末を使っていましたが、SIM有りの端末と比較するとすごく不便なので、すぐに止めました。アジア仕様の端末で見ると、W-CDMAの端末は沢山ありますが、CDMA2000の端末は非常に少ないようです。
【香港、CDMA 2000のライセンス供与を決定のよう】
http://yamane.hkisl.net/blog/?p=1005
>実際の有り様を知っている人は、”大変だ”、と答えます。
私は携帯屋ではありませんが、システム屋のはしくれとして、上記コメントは理屈としては間違っていないと思います。もちろん、2つのソフトの実装はそれなりに”大変”でしょう。しかしながら、キャリアが端末コストのバカバカしいほどのアップを認めるには、それに見合うハードのコストアップが必要です。2つのソフトを実装するのに必要な、非常にコストアップする部品があればご指摘下さい。
>メーカーは、端末売れなければ、それまでだ。
もっともです。だからこそSIMロック排除して「端末互換にせよ」となったとき、メーカー側は2社分のソフトを入れる事を拒むだろうと記事中で指摘しました。
それで、
> ところが、そういうことをやらずに、SIMロック排除などという、間接手法(しかも失敗確実)に固執するのは、なぜ?
に対する回答は?
SIMロック強制排除などという即効のない、かつ政治的ストレスのかかる方法をやってから、サービス、端末のオープン化をめざすというような、手間のかかる方法は、いい方法とはおもわない。
政治的に弱体化しつつある民主党では、少しの政策ミスでも、大騒動になって、結局、あなたのいうようなSIMロック強制排除を5年もやれば、なんてことは、まったく無理だと思う。1年がいいところだろう。で、1年たって、電機労連(連合)、メーカーに叩かれて、だめになる。というのがありそうなところ。
だから、やるなら、外からの壁に穴をあけて、そういう端末を接続拒否させない、あるいは新規の周波数でのオペレータの新規参入を促進などさせるほうが、よっぽど、現実的だ。
heridesbeemersさんと私は、日本の携帯業界が現在のままでは良くないという事、標準端末でコンテンツのオープン化するべき、という事については意見が似ていると感じています。
ただ、その実現方法について、私はSIMロック排除は有効であると考え、heridesbeemerさんはむしろ悪影響を与えると考えておられるのだと思いますが如何でしょうか。
ちなみに、iPhoneやXperiaのような非ガラケー系スマートフォンの普及は、三位一体の壁に風穴を開ける最も現実的な方法かもしれませんね。
いまは、iPhone,Xperiaも、三位一体の推進体制にとりこまれている。
すなわち、寡占オペレータが、承認して、24ヶ月縛りで、SIMロックつきで、販売されている。
基本的には、オペレータの承認なしで端末を売って、いけるようにならないといけない。なにしろ、日本のオペレータは、やかましくて、独自仕様が多すぎて、その結果、香港仕様の電話をつくるのにくらべて、非常なコスト高なんだから。
だから、
1)FCCとTELECは相互認証Okにする
2)コンピュータに詳しい人は、自分で、Googleから、DevPhoneを買う。OS1.6なら、日本語使えて、SIMフリー。
3)英語できる人は、海外から、Androidフォーン入れる。追加アプリケーションで、日本語使える。
4)日本通信、ヤマダ電機、レッドバロンは、NOKIAとMotorolaと話をして、フォントとWnnをいれて、対応言語を日本語追加してもらう。それで、ウェブサイトで、ダイレクト販売する。
これらが、実現すれば、あとは、ガラケーがいいのか、国際端末が、いいのか、消費者が決めればいいことだ。
寡占オペレータが、消費者になりかわり選択を決めてあげますよ、ということであってはならない。
heridesbeemerさんのガラケーに対するオープン化戦略(1-4)有難うございました。ただ、iPhone/iPadにしろAndroid端末にしろ、W-CDMA標準仕様の端末であり、通信費以外のコンテンツダウンロード料金はキャリア以外の収益になりますので、これらは三位一体の外にある端末だと、私は認識しています。
それゆえ、iPhone/iPadやAndroid端末の普及は、国内キャリアの収益構造である三位一体を壊し、キャリアを本来の土管屋へ押し戻す「役割」になるかと考えています。