インタゲは製造業空洞化に有効か

2月 20th, 2010 Categories: 1.政治・経済, 3.中国ネタ

日本の経済を成長させる手段として、インフレターゲット(インタゲ)政策を掲げる方がいます。wikiを見ると、「通貨量を意図的に増加させて緩やかなインフレーションを起こして、経済の安定的成長を図る政策である」とあり、更に「予想インフレ率を上昇させれば実質利子が低下したり、通貨が下落して輸出が増えたりするので、投資や消費が増え需要不足が解消される」とあります。

これに対する批判は「インフレーションを実現する具体的な政策手段がない」や「物価を目標とした金融緩和がむしろ資産価格のインフレーション(バブル景気)を伴う可能性があること」があります。また、実際にインフレが発生した場合に、それが制御不能になる事を危惧する人もいるようです。

ところで上記の議論を見ると、大事な視点が欠けているのではないかと感じます。仮に人為的インフレに成功した場合に、製造業における成長は、生産能力の限界までです。ところが日本は長期に渡り、国内工場を縮小させる一方で、アジアを主とする海外工場へ設備投資を行い、生産力増強を図ってきました。インタゲで円安になり、世界中で日本製品が売れると、実際に経済成長するのは工場のあるアジアの国々です。

サブプライムローン問題が起きる以前、輸出メーカーは大きな輸出利益をあげていましたが、それで日本は経済成長したでしょうか?否です。中国やベトナムは経済成長しました。国内大手メーカーと商社の給料は上がりました。でも、大半の国内中小零細企業は置き去りにされました。インタゲで成長するのは、国内ではなくアジア諸国だという事です。

さて、国内メーカーの空洞化は本当に起きているのでしょうか。深圳・東莞へ工場進出している日系工場のお客様の状況を見ると、国内の空洞化は明らかです。今や日本国内で消費される製品の多くが中国製です。日本の工場を閉鎖するという話しも聞こえてきます。そのような空洞化を定量的に示す事ができないかと考え、下記の2つの図と表をネットの海から探してきました。

最初は日本からの対中投資の件数と金額の図です。表中から投資額をざっと読み取ってみると、1996年から2007年までに500億ドル以上のお金が投資された事がわかりました。この500億ドルが国内で設備投資に廻されていれば、国内の製造能力を継続的に増大させ、輸出が大幅減少する2008年までに、日本は大きく経済成長したと思われます。そのお金で、日本のかわりに中国で、雇用拡大と経済成長が実現しました。(「日本・世界の対中投資の推移」から参照させて頂きました)


次に、対中投資した企業の内訳について見てみましょう。下記の表は2003年のものですが、製造業が2093社と非常に多く、そのうち電気・電子機器と化学・薬品と機械と自動車で製造業の70%弱を占めています。これらは相互に関連のある可能性が非常に高いと思われる業界です。非製造業では、上位8項目(情報サービス業を除く)は、中国現地の日系製造業をサポート(材料調達・輸出入運輸・保税倉庫などのサービス提供)している業界と思われます。(この図は「日本の対中投資」から参照させて頂きました)

上記表は対中投資だけですが、タイやインドネシアへも古くから工場投資を行っていますし、最近はベトナムへの工場投資も盛んです。これらアジア工場の生産能力増強は、日本国内の実体経済の成長余白が長期に渡り拡張されなかった事を示していると考えます。

このような状況で、政府がインタゲを行ったとした場合に、仮に人為的インフレが成功したとして、実体経済において、「どの業界」の「どんな企業」が国内で成長余白を伸ばせるのか、はなはだ疑問と言わざるを得ません。

最後に、統計資料を作成している財務省にお願いがあります。製造業の空洞化の状況を調べるにあたり、設備投資金額を国内投資と海外投資に分けた表と、輸出金額に占める国内製造分と海外製造分を分けた表を探したのですが、残念ながら見つかりませんでした。これがあれば、空洞化の状況分析が容易になると考えます。

また海外工場で製造した製品を日本へ輸入せずに消費国へ直送し、本社から消費国側へ売上請求を行って入るケースが、現在の海外生産では非常に増大していると考えられます。このような実体を補足できる統計資料があると、空洞化の全貌をより明確に分析できるものと考えます。

本記事を読まれている財務省の方がおられれば、統計資料の作成部門へ、ぜひともそういう資料作成をお願い頂ければ幸いです。

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