風竜胆さんの意見に対する見解

10月 31st, 2009 Categories: 1.政治・経済

文理両道の風竜胆さんの雇用の流動性に関するいくつかの記事にコメントを入れさせて頂いたところ、記事として反論を頂きましたので、私もここでリプライさせて頂こうと思います。

bobbyさんのコメントに対する見解について
1)私は、「労働者の流動性を高めるには、解雇規制緩和で労働者を「押す」よりも、企業自ら転職市場を作って「引っ張る」方が、労働者へ与える心理的な安心感が高いので、流動性を高めやすい」という意見を述べました。
風竜胆さんは、「需要超過の場合はうまくいくでしょうが、需要のないところに市場だけあっても、それは、既卒者と新卒者が同じパイを奪いあうだけなので、需要と供給の関係により、より悪い条件での再就職となることでしょう」と反論されました。

労働市場とは、労働者に転職のオプションをもたらし、企業に人材をもたらす為のシステム(もっと良い言葉あれば誰かご指摘下さい)と考えます。柔軟な労働市場の構築は、その社会(企業と労働者とその家庭)に選択の幅と柔軟性を与える事ができます。ご指摘のように、不況時には労働市場の利用度は低下しますが、好況になれば増します。企業も社会も、いろいろな問題が表面化する不況の時こそ、システムの構造的な問題点を改善する機会であり、その改善が、次の好況時に、より良い結果をもたらしてくれると考えます。

2)風竜胆さんは、「仮に雇用規制を撤廃するとすると、経営者は一種のモラルハザードにより、経営努力をするより、安易なリストラで短期的な利益の確保に走る可能性があります」という意見を述べられました。

それに対して私は、「これを経営者のモラルハザードと言うのは、資本主義の理念からいってどうかと思います。株主が企業の短期的な利益向上を求め、経営者が株主の期待に沿って、即効性の高い利益改善策として不採算部門でのレイオフを行う事は、経営者として合理的行動だと理解します」と答えました。

それに対して風竜胆さんは、「私がここで述べているのは、自分の在任中に財務諸表の数字を良くするために、将来の企業の活力を奪うような行為です。色々な思惑を持つ株主がいるのは事実ですが、株主の多くは、会社が安定的に発展して株価が上昇することを望んでいるのではないでしょうか。しかし、株主と経営者の情報の非対称性のために、経営者は必ずしも株主の意に染まないことを行う。これは、経済学で言うモラルハザードの典型的な例です」と答えられました。

まずはじめに、上場企業において株主が経営者(代表取締役社長とか役員とか)を選任する目的は、四半期毎に公開が義務付けられている決算発表で企業の業績を向上させ、株価を上げて、株式市場における企業価値を高める事です。これは誤解の無いようにしておく必要があります。(オーナー企業の場合は、株式会社といっても名ばかりで、オーナーが自分の好き無いように経営できるので、この限りではありません。)

ゆえに、サラリーマン社長が在任中に行う最優先課題は、一般論としては、財務諸表の数字を良くする事と、株価を上げる事です。不況時に、現在不要な労働力を整理解雇する事は、財務諸表の改善という意味で企業会計的視点から健全な活動であり、金額的にも大きいと思われる不要経費の支出抑制で、次の好景気に労働者を雇用し、設備投資を行う為の原資を確保するという意味できわめて有効かつ重要と思われます。

ところで、「株主と経営者の情報の非対称性のために、経営者は必ずしも株主の意に染まないことを行う。これは、経済学で言うモラルハザードの典型的な例です」とありますが、どのような情報の非対称性により、株主の意に染まないどのような事を行うのでしょうか。意味が良くわかりませんので、具体例をお願いします。

3)風竜胆さんは、「日本の製造業では、現場レベルまで巻き込んでTQCやTPM活動の行えることが強みの一つだろうと考えます。「3年から5年」で転職しては、このような強みは構築できないのではないでしょうか」と述べられました。

それに対して私は、「おそらく21世紀中ずっとグローバリゼーションが進行するであろう世界的環境の中で、TQCやTPM活動といっても意味があるとは思えません。企業は生き残る為に、可能で合法で合理的な事は何でもするでしょう。20年後の国内工場の作業が、ほとんどはロボットが行われていたとしても私は驚きません。...行政に何かできるとすれば、いま工場労働者を守る事よりも、工場労働者をどのように将来性のある業種へ転換させるかを、問題が深刻化する前に手を打つべきです」と述べました。

それに大して風竜胆さんは、「工場でロボットが使われているのは、今に始まったことではありません。しかし、ロボットでもほっておけばすべてやってくれる訳ではなく、それが、十分な性能を発揮し続けていくようにメンテナンスをしながら動かしていくというのが現場技術者の腕の見せ所です。
グローバル化する世界こそ、他の国と同じことをやっていては、存在価値がありません。我が国の強みはものづくりにあります。この強みを活かすことが、他の国と差別化を進めていくことに繋がります。必ずしもすべての工業がそういうわけではありませんが、ものづくりを支えているところをいかに守っていくかということも重要なことだと考えます」と反論されました。

私が「20年後の国内工場の作業が、ほとんどはロボットが行われていたとしても」と言ったのは、国内の製造作業にかかわる労働者需要は、ほとんどなくなるかもしれないという意味です。そのロボットも、ロボット工場で製造されるようになるでしょう。たとえばひとつの大工場に数千台の製造作業ロボットがあるとして、数十人のメンテ用現場技術者のニーズは残るでしょうが、ロボットに追い出された数千人のラインワーカーの行き先はどうするつもりですか。行政が先手を打ち、その人達の労働需要を吸収する別の産業(介護その他)を用意する必要があると思われませんか?

また、「我が国の強みはものづくりにあります」というところには賛同しますが、それは「日本人のラインワーカーが必要」という事ではありません。私はシステム屋で、華南の日系工場の現場にもよく出入りするので聞き知っていますが、中国人の良質なラインワーカーは、平均年齢の高い日本のラインワーカーより目や耳や鼻や触感などの五感がより鋭く、素直で日本人技術者の指導を良く聞き、日本人より忍耐強く、残業を好んで行い、日本の工場より高質のものをより多く製造する事ができます。また、TQCやTMPは、日系工場でも日本人技術者によって導入されています。

「グローバル化する世界こそ、他の国と同じことをやっていては、存在価値がありません。」私も同意します。組み立て加工はロボットでも東南アジアの工場でも、誰にでもできる工程です。新しい技術を開発し、新しい製品を開発する工程は日本に残して良いと思いますが、その製品の製造工程を日本にずっと残し続ける事には無理があるし、得策と言えません。

4)○ついでにbobbyさんのブログの記事に関する見解もについて。
風竜胆さんの意見は、「まず、私が「エモーショナル」であると書かれていることは心外です。解雇規制をなくすことが、論理的におかしいと言っているつもりなのですが。自分と違う意見を「エモーショナル」と決めつけるのは単なるレッテル貼りではないでしょうか。
また、私は転職しやすい環境をつくることに対して異論を述べているわけではありません。パイの少なくなっているときに、解雇が容易にできれば、ダメな経営者は努力するより先に、安易な道を選びかねず、それが益々経済の悪化を招くだろうという極めて論理的な理屈を言っているだけなのですが、理解していただけないのは残念です。」です。

さて、雇用の流動化に反対されている方は、これまで、こちらの方のように、企業と労働者を平行に並べて対等に評価するのではなく、労働者は企業から搾取される弱者であるという価値観から、一見理論を展開しているように見えて、その根本では合理的に考える事を拒否して、結果ありきで議論しているエモーショナルな方が多いと感じてきました。また、既存のブログコメント欄などの受け答えを見ても、どうも合理的な考えられているという感じがしなかったので、つい、風竜胆さんも同じカテゴリーの方かと勘違いしていたようです。失礼致しました。

しかしながら、解雇自由に関する私の意見(まとめ)を繰り返し、繰り返し、読んでみて感じるのは、「解雇自由は失業率改善のための処方箋にはならず、かえって労働者を疲弊させる」というように労働者の側から見た理論展開をしており、企業と労働者を並べて検討しているように見えないので、労働者の利益により近い価値観で議論を進めていると感じる事。その背後にあるのは、労働環境や労働市場に対する知識や経験が(国内のものに)限られていて見識が狭く、「日本企業の古き良き伝統」みたいなものを過大評価しているのではないかという事です。

このような議論では合理性が極めて重要と考えています。私も風竜胆さんも理工系の方のようですので、お互いに、合理性に基づいた理性的な議論を進める事ができれば幸いです。

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2 Responses to “風竜胆さんの意見に対する見解”

  1. 前田
    11月 1st, 2009 at 22:06
    1

    こんばんは。

    毎度、興味深く読ませていただいております。
    今回も、大変勉強になります。

    ただ、1つ誤解を与えかねない表現があるのでは?と感じましたので指摘させていただきます。

    「経営者が株主の期待に沿って、即効性の高い利益改善策として不採算部門でのレイオフを行う事は、経営者として合理的行動だと理解します」

    との記述がありますが、
    私が思いますに、重要なのは経営者に裁量の自由を与えることが大切なのではないか?ということです。
    限られた経営資源を、労働者に配分しようが、設備投資に使おうが、M&Aで企業を買収しようが、それは経営者の自由なのではないでしょうか。
    現在の日本は、解雇4用件によって、事実上限られた資源を労働者維持に使うことが義務となっています。
    それは、片手を縛って世界と戦えというようなものです。
    それは問題なので、労働者を保護しTQCをしたければすればいいし、不況のうちにロボットを導入するために労働者を解雇してもよいし、企業価値向上の自由な裁量を与えることが肝要なのだと思います。

    TQCをするな、とも言わないし、しろ、とも言わず、そのつどの判断で経営を許すための、雇用流動化というのが正しい理解なのかなと思います。
    おそらく、bobbyさんも同様な考えなのかなと思いますが、小倉氏などにつっこまれそうな書き方かなと思ったので。

  2. bobby
    11月 2nd, 2009 at 00:09
    2

    前田さん、丁寧なコメント有難うございます。ご指摘の点ですが、非上場の企業はそれで問題無いと思います。上場企業の場合、整理解雇が可能な時にそれを行わず、不必要に経費をたれ流す事は、株主代表訴訟を起こされる可能性があると考えています。上場企業では、「そんな金があれば配当しろ」と文句を言う株主がいてもおかしくありません。

    経営者の裁量は、利益を出す手段や経費を削減する手段の選択において、ある程度は認められるべきですが、それは合理的な選択である事を株主総会(それと役員会)で説明できる範囲内であるべきだと考えました。

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