「官僚たちの夏」の教訓

10月 21st, 2009 Categories: 1.政治・経済

TBSドラマ、官僚たちの夏を見ました。戦後の荒廃した産業を育成し、日本を復興させた通産省の官僚達の熱いドラマに胸がジーンときました。風越・庭野・鮎川たちが自動車・繊維・コンピュータ産業などを育成し振興しようとする熱意は、典型的なパターナリズムといえますが、方向性の見えない戦後の中小企業経営者に発展の方向性を示し、将来に向けて国の力を蓄えてゆく考え方は、発展途上国であった戦後の日本にとっては大変重要だったと思いますし、十分に評価します。

ドラマ中で、国内保護派の風越とた度々対立する玉木や片山などの自由化推進派に、今風の「市場原理主義」的な発言をさせて「悪者」に仕立てているのはちょっと残念です。あの時代に、そこまで言う人がいたかは疑問といえます。

ところでドラマと言っても、ドラマ中の多くの出来事は実際の事件をフォローしているものが多いようなので、産業振興を行う行政にとって、何か教訓のようなものが得られるかと思い、思いつく事を下記に列挙してみました。

1)行政の過度な介入は、経営者の行政への依存心を高め、独立心を低める。
2)行政の過度な介入は、経営者の反発を招く。
3)産業の育成が起動に乗ってきたら、行政は介入を控え、自助努力を重視する。
4)産業が育ってきたら、国内産業振興と自由貿易とのバランスが大事。
5)過剰な輸出が他国に与える政治的影響を長期的視野で検討し、対策は先手で取るべき。
6)将来の無い古い産業は、労働者の産業移転を早めに行う。

過剰な輸出が明らかな繊維業界は、2度も米国から煮え湯を飲まされます。しかしこれは予測できた事ではないでしょうか。どんな国の政治家も、自国の労働者の職が脅かされる事には敏感である事は明白だからです。ある産業界の対米輸出が増え始めたら、大蔵省経由で銀行からその業界への設備投資の融資を抑える事で、(良い悪いは別にして)間接的に対米輸出の伸びをある程度制御する事はできたかもしれません。

ドラマを見終わって、もう一つ感じたのは、いまの中国はまさにこの時代なのだな、という事です。いまの中国の官僚たちは、まさにこのドラマの時代と同様の経験をされていると思います。外資導入によるノウハウの国内移転。石油輸入による各地の石炭炭鉱の閉鎖。製鉄会社の合併。国内市場の段階的開放。高まる対米経済摩擦。

つい先日は、中国製タイヤの過剰な輸入により、米国が緊急輸入制限を行いました。米国との通商問題でつねに摩擦を起こしているのは、いまや日本ではなくて中国です。

どこの国の政府も同じでしょうが、他国へ「自由貿易政策」を押し付ける目的は、強い輸出企業を持つ国の政府が、自国企業の利益を守る為の方便に過ぎません。他国からの過剰輸入によって国内産業が脅かされれば、どんな国でも「自由貿易」の建前をかなぐり捨てて、保護政策に走ろうとします。米国も例外ではありません。世界中から国境がなくならない限り、本当の自由貿易などは実現不可能でしょう。

とはいえ、グローバリゼーションの進む21世紀に、一国だけで生きてゆける国はありません。たとえ中国や米国のような大国でも、20世紀初頭の生活レベルに戻らない限り不可能です。ゆえにグローバリゼーションの進む世界では、もし行政の産業政策が有効であるのならば、「自由貿易」を前提とすべき事は明白です。

経済大国となった現代の日本では、基本的に行政が産業界へ介入すべきではありません。しかしながら衰退する事が明らかな産業がある時、そこで働く労働者の行き場(雇用需要が旺盛な新しい産業界)を用意するのは行政の責任といえます。

発展途上国だった頃の日本では、このドラマのような方法は有効でした。しかし今の日本は、そういうやり方ではうまく行かない事は過去の事例が証明しています。多くの産業が成熟しているいまの日本では、これまで規制によって進出が阻まれていた産業を、規制緩和(撤廃)により自由競争を促す事こそ、行政がやるべき産業育成の方法であると考えます。たとえば放送や通信、たとえば医療や介護、たとえば郵政事業などがその代表例といえます。

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2 Responses to “「官僚たちの夏」の教訓”

  1. 10月 30th, 2009 at 14:29
    1

    ごくごくプリミティブな疑問ですが,どのくらい産業新興に寄与したら,官僚の「行政指導(?)」は有効であると判断できるのでしょうか?

    単純な話,メリット・デメリットが50:50だったら「無駄」ってことになりますよね?(いや,官僚機構のコスト分だけマイナスか)

    評価基準として,1)などのメンタル面は数値化しにくいので,「指導」のある/無しの新規産業の業績の伸び率を比較するくらいしか,とりあえず思い至りませんが,,,。

    それと2)に関係する項目だと思われますが,「選択と集中」の美名の元,対象以外の会社への「妨害」という形で将来有望な会社を潰しているというマイナスは見えにくいように思われます。
    本田宗一朗氏が邪魔をされたというのは有名な話だし,井深さんや盛田さんが官僚のお世話になったという話は耳にしたことがなく,自動車&電機業界の人間にとって「役所が干渉しなかったから成功した数少ないケース」(http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/d774cf9863b372007dff05d58397215b)というのが,共通認識だと思っていましたが,そろそろ世代的に変わってきているのかもしれませんね。
     最近では坂村さんの(ちょっと違うかもしれませんが)「あの時、せめて邪魔しないで欲しかった」という言葉が印象にのこっていますが,,,,。

    こないだまで「やらせ」てまで役人批判をしていたTBSが,180度違う役人礼賛ドラマを作った点に少し興味があり,ひさしぶりにコメントしました。(もしかすると,民主党政権移行に合わせた「首尾一貫」かも,,,とも考え始めています。(^_^;))

  2. bobby
    10月 30th, 2009 at 22:12
    2

    河田さん、お久しぶりです。

    私は規制緩和と小さな政府の考え方を支持しています。しかし、中国やシンガポールなど国家資本主義政策で成功している例があります。役人の力は、必ずしも効果が無いとは言えません。

    いまの日本では、政府より民間の方がいろんな意味で優秀な事は確かです。しかし個々の企業は「国民の為」に存在している訳ではありません。民間企業は、必要なら全ての工場を、いや本社だって中国やタックスヘブンへ移すでしょう。それでも役人は、「国民の為」に何かを考える義務がある事は確かです。

    >本田宗一朗氏が邪魔をされたというのは有名な話だし

    ドラマでも業界の反発が何度も取り上げられていました。しかし、片方で政府の「輸入規制」による保護に頼り、もう片方で「自由にやらせろ」というのは、民間企業も自分勝手な言い分だと感じました。

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