中村氏の敗訴を考察する

1月 18th, 2005 Categories: コンピュータ及び科学全般ネタ

青色LEDの訴訟を起していた中村氏が敗訴した。和解を選択せざるを得なかった事は、事実上の敗訴であると中村氏はインタビューで語っている。後知恵をもとに、敗訴の原因を(素人なりに)考察してみる。

別記事をつくるために、日経BPの中村裁判特集を読み漁った。そこで、余力を利用して敗訴の原因を(素人なりに)考察してみたい。

【上(トップダウン)からの評価と、下(ボトムアップ)による評価】
成功を収めた組織の構成員について、功労度の評価するときに、上(トップダウン)からの視点で行う評価と、下(ボトムアップ)からの視点で行う評価があると思う。

中村氏が取ったのは上からの視点であると思われる。ニチアが青色(と高輝度白色)LED(と青色レーザー)を開発して、現在に至るも高利益を上げているのは、中村氏が社内に居たおかげだと言うことは、周知の事実である。中村氏の裁判へのアプローチには、「私の組織→私の研究→私の実験データ→私の発見→私の画期的商品」という考え方が基底にあるのではないか。中村氏は実際にニチアの中で研究・開発組織の責任者であったのだろう。このような上から見下ろす視点で説明すると、彼の組織の中から生まれた価値ある特許、発明、発見のすべてを、中村氏へと結び付ける事を第三者へ納得させる事は容易だと思う。

地裁の裁判官がトップダウン評価を受け入れたが故に、中村氏が全面的に勝利しただけでなく、600億円という対価を地裁がはじき出したのであろう。

一方のニチアは、高裁での戦いで中村氏を不利にする為に、下からの視点(ボトムアップ)による戦法を選択した。トップダウンは概念的には理解しやすいが、計算に弱い面を持つ。ボトムアップ(下からの積み上げ)手法は、最初の前提条件である分解(成功を構成要件に分解する考え方)が受け入れられれば、あとは中学校までの算数の世界でかたがつくので、だれでも理解しやすいという面がある。

ニチアはそのようなボトムアップ手法の性格を利用し、利益を裁判官が識別可能な発明・発見などの案件に分解し、中村氏の各案件への関与度を個別に示したのではないだろうか。

より具体的に説明してみよう。

1)ニチアが得ている利益額を商品(高輝度青色LED、高輝度白色LED,青色レーザー)別に分解する。

2)ニチアが得ている利益は、優越性をもたらす主要な発明・発見が主因であるとし、各商品の優越性に直接関与する案件をリストアップする。

3)各商品の利益において、リストアップした案件が占める重要度をパーセントで評価した。(ある商品の利益を100%とした時に、リストされた各発明・発見案件、全体の何%かを示す。)

4)各発明・発見の案件が、社内のどの研究者が具体的に示したかを、実験記録や実験データの署名などを使って示し、直接的な功労者の切り分けを行った。

5)ここまで来た段階で、中村氏が関与したと記録により実証可能な発明・発見案件をリストアップし、その案件が示す商品別利益分配額を示す。

ニチアがこのような下から積み上げるアプローチを行った場合に、指導者であり管理者であった中村氏の立場は非常に不利となるのではないか。日常的な打ち合わせで、いろいろな指導を行う事により発明・発見の案件に関与したとしても、社内の会議に議事録を残す会社は稀だ。記録がなければ、私もこれだけ関与しましたと、関与した量を第三者へ示す事は困難と言わざるを得ない。たとえ社内メールやメモを残したとしても、退職時に外部へ持ち出して中村氏の手元に保存していなければ、裁判所へ示す事もできないと思われる。

ボトムアップ戦略で望む場合、企業には膨大な資料が手元にあるが、訴える個人側にはわずかな資料しかない場合が多い。また、いまの日本の裁判では、企業側は自分に都合の良い資料だけを証拠として提出して良いというルールらしい。自分に都合の良い資料を使い、都合の良いシナリオを作成できてしまう。これでは常に、企業側に大きなアドバンテージがある事になる。

だれしも、中村氏の功績を認めずにはいないだろう。しかし、量の判定を行ったときには、このような手法で来る相手と戦うのは至難の業であろう。誰かが中村氏の後に続こうとする場合、退職前に十分な資料を確保して、ボトムアップでの対戦に耐えられるだけの用意をしておく必要があるのではないかと思われる。(守秘義務違反や窃盗で訴えられなかったとしてであるが...)

俺がいなければあの商品は生まれなかったのに...という中村氏の心情は技術者の端くれとして理解できるように思う。しかし、自分の成果を裁判官に立証できる十分な証拠文書なくして、個人が企業と裁判で争うのは困難であるというのが私の感想である。

個人が企業を(民事で)訴えた時、企業側にある証拠情報をすべて、裁判所の命令で強制的に集めて来ることができ、それを原告・被告両者が共に証拠として使用できるようになれば、個人が企業を相手に勝負して勝つ事も可能になるのではないかと思った。

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