製造現場の「見える化」とトレーサビティーの向上

きのう、あるお客さんの工場で生産原価管理システムのプレゼンをしてきました。精度の高い生産原価を製品別に「みえる」ようにするのは、簡単なようでいて意外と難しいのです。工場の業務はいくつもの部門に縦割りされており、それぞれが自分の仕事に責任を持って運営されているわけですが、縦割り組織の会社では、情報の横のつながりを持たせにくい。工場でも管理系業務(受発注や在庫管理)はERPソフトの導入によって情報の横のつながりを持たせる事が比較的容易です。しかしERPソフトを生産現場へ導入するのは難しい。だいぶ前に読んだ新聞記事なので、現在は違うかもしれませんが、トヨタがSAPを導入すると決めたとき、生産管理モジュールは除外したと聞きました。以前に客先で見たMFG Proという生産管理を「売り」にするERPソフトも、製造現場に対応する機能は単純で限られていました。業務系に比して製造系の現場は、工場ごとに生産品目に運用が特化されていて標準パッケージに馴染まないという面が大きいと思います。そういう製造現場で使うERPのサブシステムとしての製造管理システムを導入しましょう、そうすれば現場の情報の「見える化」が促進します。また、誰がいつ、どのロットの製品を製造したかもわかりますよ、という説明をしてきました。

製造現場は強い縦割り組織であるので、工場長や製造部長などの管理職が、現場の細かい運用を把握する事がなかなか難しく、実際の現場が良く見えていません。ですから管理職が知らない間に、伝票の記帳作業がおざなりになっていたり、作業手順を現場側で勝手に変更していたりという事が絶えません。不良の発生や在庫の間違いは、そういうところから発生しています。記帳時の誤記があっても、情報を前後の工程や他部門と関連させて確認する事が(システム無しでは)困難です。何より個々の現場の伝票情報を相互に関連付けさせられないので、情報の有効活用ができません。製造現場において生産原価の精度を低下させている最も大きな理由がこれです。

そして、そのような製造現場の作業の「みえる化」を行い、作業手順を安定させ、現場で作られる情報の信頼性を向上させるのが、製造現場へ管理システムを導入する目的です。もし現場が定められた運用を勝手に変えた場合には、それは基幹システムであるERPが情報の乱れをレポートから早期に検出できます。また、ERPで発見された異常情報を、サブシステムである製造管理システムを通して、作業現場の担当者や日時まで追跡が容易になるので、原因の究明と対策が立てやすくなるのです。

ところで製造現場で使用するシステムを設計するのは、なかなか難しい。お客さん側の技術者や管理者は、効率の良いシステムを設計する為に必要なトップダウン思考、システム思考に基づいた要求を出せないケースがほとんどです。これまで行っていた手作業での効率向上を前提とした要求を出してきますので、その通りにシステムを設計すると、設計が難しくなるだけでなく、システム化した後の効率を上げられません。山登りにたとえれば、徒歩(手作業)で山を登るのと、車(システム)で山を登るのでは、同じ道を通る事が必ずしも良い選択とはいえないのです。

ではシステム設計者はどうしたら良いでしょうか。製造現場では管理系の知識やノウハウがあまり役立ちませんので、現場に「棲み込む」ようにして個々の工場で使う材料や製造方法や製品の特性をよく理解しなければ、実際に役立つしくみを作るのが難しいようです。きのう提案を行った工場では、製品の発泡工程の生産原価管理システムをつくるのに、昨年から1年間にわたって、毎週のように工場へ通いましたが、自分で言うのも何ですが、(お客さんにとって)かなり良いものが出来たと考えています。

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One Response to “製造現場の「見える化」とトレーサビティーの向上”

  1. 8月 8th, 2009 at 12:29
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    >現場に「棲み込む」ようにして個々の工場で使う材料や製造方法や製品の特性をよく理解しなければ、実際に役立つしくみを作るのが難しいようです。

    私が、以前、カナダのメディア会社で基幹システムを作ったときもこんなふうにやりました。その会社のビジネスモデルがとても風変わりで、既存のパッケージとかは使えなかったので、毎日通って、自分がその会社の社員になったつもりで、業務を徹底的に分析して、システムを作りました。最後はお客さんにとても喜んでもらえたのをよく覚えています。

    どこまでお客さんの視点に立てるかが、本当に役立つシステムを作れるかどうかの分かれ道なのかもしれませんね。

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