P2Pとグリッド・コンピューティングに共通する法律的問題

12月 5th, 2004 Categories: コンピュータ及び科学全般ネタ

WinnyやWinMXのようなP2Pアプリケーションは著作権侵害や名誉毀損などの法律的な問題を抱えています。そして、これから普及してゆくであろうグリッド・コンピューティング技術で構築されたシステムにおいて、同様の法律的な問題が生じる可能性について検討します。

【グリッド・コンピューティング技術について】
特定の目的を行う為に、ネットワーク(LANからインターネットまでをも含む)上に接続されている(多数の)コンピュータを接続し、接続された相手側のコンピュータが持つ(CPU時間、メモリ、HDD容量、プログラム、データなどの)リソースを(一時的に)借りて分散処理を行う事をグリッド・コンピューティングと言うようです。

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グリッド・コンピューティングには、アプリケーションレベルのものから、OSレベルのものまで、広い範囲にわたって利用可能なテクノロジーです。グリッド・コンピューティングを用いたプロジェクトは既に多数存在(ここをクリック)しています。

【ハード資源を追求する為の応用例】
宇宙から飛来する電波を広帯域で受信して、それらの膨大な電波情報の中から人工的に作られたと思われる信号を検索するSETI@homeプロジェクト(ここをクリック)があります。ここでは、多数の(ボランティアの)個人PCの空き時間を使って、その人工的な信号を見つけ出す計算を行う専用プログラムを用いています。

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暗号解読コンテストなどの分野でも、グリッド・コンピューティングは活躍しています。distributed.netのプロジェクトRC5(ここをクリック)では、多数の個人PCに暗号を「力技」で解読するための専用ソフトをインストールして、多数のPCが組織的にかつ平行して暗号解読作業を行う事で実際に成果を挙げています。

また、何百台ものPC(CPU)を並列に接続してスーパーコンピュータを構築するケース(ここをクリック)があります。OSレベルでの並列化という高い技術と、その目的の為だけに使用するPCが多数必要ですが、非常に強力な処理能力を短期間に得る事が出来るようです。

【ソフト資源を追求する為の応用例】
これまでの3つのグリッド・コンピュータの例は、ハード的に高いCPU処理能力を得る(沢山計算をする)という目的が主でした。しかし、より多くのソフト資源(プログラムやデータ)を得るための処理も、グリッド・コンピューティングの範疇に入ると考えられます。

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マイクロソフト社が考えているドットネット構想(ここをクリック)のように、異なる場所、所有者、目的に分散しているアプリケーションやデータ(というリソース)を柔軟に接続して、統合された一つの処理を行う事も、ある意味でグリッド・コンピューティングの一例と言えるのではないでしょうか。

【インターネットBBSやP2Pファイル共有アプリにおける法律的な問題の類似性】
ソフト資源の分野におけるグリッド・コンピューティング技術では、現在のデータ処理とは異なり、接続先のマシンがダイナミックに選定される事が予想されるので、現在のP2Pにおける下記のような法律的問題をそのまま引き継いでしまう可能性があります。

●著作権の問題
 著作権的に違法なプログラムやデータのあるマシンへ接続してしまう可能性。
●名誉毀損の問題
 だれかの名誉を傷つける内容の文書データのあるマシンへ接続してしまう可能性。
●猥褻物陳列罪の可能性
 チャイルドポルノなど、違法画像のあるマシンへ接続してしまう可能性。

ソフト資源を獲得するためのグリッド・コンピューティングシステムでは、上位システムやデータの一部は自前で保持しますが、外部にある下位システム資源(データ、プログラム等)へ接続する事により、より広い範囲での処理を可能とします。

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このような手法が一般的となり、自分のシステムが提供するサービスが、多数の(第三者が所有する)プログラムやデータをもとに構築されるような時代になると、サービスのカテゴリーが増大する毎に、上位のシステムが、関連する下位のプログラムやデータのリンク先を自動的に検索して、エンドユーザーのサービス・リクエスト内容に応じて、自動的に接続を開始する事が予測されます。

このような条件下では、システムの提供者は、エンドユーザーからの個々のリクエストとそのリンク先、提供データの質を吟味したり、処理結果をリアルタイムでモニタ(運用管理者が検閲)する事は次第に困難になります。

【ここまでのまとめ】
話しがややこしいので、この辺でちょっとまとめてみます。

これまでのコンピュータ・システムは、資源となるプログラムやデータは全て、運用者の管理責任の下で構築・蓄積する事が前提となっていました。運用管理者は、自分のシステムが提供する処理結果への責任を持つ事は容易でした。

グリッド・コンピューティング技術が普及する(であろう近い将来の)時代では、システムの開発コストや運用コスト、データ蓄積コストを下げる為に、多くのコンピュータ・システムは外部のプログラムやデータに接続(共有ではなくて依存を前提と)するグリッド・コンピューティング技術を導入する事が考えられます。

大企業のシステムは別にしても、零細企業や個人が公開するシステムでは、リソースを得る為に接続する先の選定基準は(なにも無いか)極めて低いレベルとなり得ます。不特定多数とも言える外部システムや外部データとのダイナミックな接続です。

このような状況では、個別のエンドユーザーからのリクエストに基づいて発生する一つ一つのデータ処理(下位システムやデータの接続相手を検索し、接続し、処理を行い、結果を得て、エンドユーザーの画面に表示する処理)をトレースして、処理された結果の内容確認について、著作権侵害、名誉毀損、猥褻物陳列罪などの法律を犯していないかの確認を個別に行う事は不可能です。

【結論】
エンドユーザー・アプリケーションの世界にグリッド・コンピューティング技術が導入される日は遠くないでしょう。

そのときの為に、広範囲なネットワーク・システムに分散したシステム資源をダイナミックに活用する環境における著作権侵害、名誉毀損、猥褻物陳列罪などの概念や適用範囲を一日も早く、明確にしておくべきだと思います。

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