経営における「ものつくり敗戦」

中国の華南で、業務システムの開発や業務コンサルをやっていて思うのは、池尾さんがアゴラの記事で仰るように、「ものづくり敗戦」はいまも続いているという実感です。

日系企業の組織構成や業務フローは、最小限の社員数、最小限の書類数で最大効率を発揮するように、歪んだ目的で最適化されています。故に業務フローが複雑化して、そのままでは標準的な業務システムにのり難いのです。たとえ末端担当者や管理部門の雇用数・人件費が増大しても、製造・倉庫・受発注の末端から会計システムまで、帳票情報が直線的につながる業務フローが実現できるようにすれば、高価なERPソフトを購入しなくても、精度の高い財務情報を迅速に集計する事ができます。しかし日系企業の経営者には、そういう改善を行う為のシステム思考が不足しているので、在庫が見えないとか、製造原価がみえないといって首をひねるばかりで、本当の問題点に到達できません。

このような経営者が、改善の必要にせまられると、、世に名のある業務システム(ERPソフト・パッケージ)を導入しようとします。藁をもつかむつもりで、SAPのようなソフトに頼ろうとします。

しかしながら社内の業務フローが合理的に再構築(リエンジニアリング)されていない状況のままでERPパッケージを導入すると、理想と現実のギャップが「ソフトの改造」というかたちで出現します。せっかく合理的に出来ているシステムを自社に合わせて捻じ曲げてしまうので、莫大な改造費を要するだけでなく、導入が長期化し、導入担当者全員が地獄の苦しみを味わう事になります。日本で、このような事態に悶え苦しんだ方々は少なくないでしょう。

さてここで、SAPなど欧米の有名なERPソフトをこれから導入しようと検討されている経営者に提案があります。導入に際しては、ソフトの改造を一切行わず、逆にあなたの会社組織と業務・書類フローと商習慣を、ERPソフトに合わせて「改善」するようにしましょう。その為には、ソフトに合わせて必要なだけ組織を増やし、担当者(雇用)を増やしましょう。書類も増やしましょう。人も書類も増えるかもしれませんが、出来上がった組織は、欧米最先端の全体最適化された会社に生まれ変わっている事でしょう。利益を増やす事は、人と紙を減らす以外にも、いろいろな方法があるという事を、そろそろ学ぶべき時に来ているように思えます。

Facebook Comments
Tags:

13 Responses to “経営における「ものつくり敗戦」”

  1. ひろ”ゆ”き
    6月 16th, 2009 at 19:32
    1

    今、うち(30人ほどの中小企業)で業務システムの新規の導入を図っています。

    >社内の業務フローが合理的に再構築(リエンジニアリング)されていない状況のままでERPパッケージを導入すると、理想と現実のギャップが「ソフトの改造」というかたちで出現します。
    >せっかく合理的に出来ているシステムを自社に合わせて捻じ曲げてしまうので、莫大な改造費を要するだけでなく、導入が長期化し、導入担当者全員が地獄の苦しみを味わう事になります。

    これが社内で今、起きていることです。
    生産現場、個々の営業マン、バックオフィスの事務員。おのおのの要望を反映させようとして、システム担当者・役員は大変な思い、をしています…

    昨日、株主総会だったのですが、システム担当役員はそれをそっちのけでシステムのほうにかかり切りでした。

    私は品質管理部門で、今度のシステム導入とは関係がなく、第三者的に見ていましたが、bobbyさんのこの記事で胸にすとんと落ちる思いがしました。

    >導入に際しては、ソフトの改造を一切行わず、逆にあなたの会社組織と業務・書類フローと商習慣を、ERPソフトに合わせて「改善」するようにしましょう。
    >…出来上がった組織は、欧米最先端の全体最適化された会社に生まれ変わっている事でしょう。

    私の会社は、他の多くの中小企業に違わず創業者やその2世たちが、システムとしての経営を学んで実行しているわけではなく、経験や思い付きでそれを行っており、全体最適化されたソフトを導入しようとしても齟齬を来たします。

    それが今の社内の混乱を招いています。

    他社にいた時も業務システムの新規の導入の際には莫大な改造費を要し、導入が長期化し、そのための無駄な会議が何度も行われ「快適なスーツを、と思ってオーダーメイドにしたのに体に合わない吊るしを無理やり着せられている」ような気がしました。

    “会社組織と業務・書類フローと商習慣を、ERPソフトに合わせて「改善」する”-この発想はこれまで、ナカナカなく”目からウロコ”です。

    私の部署のシステム改造もこの数年内にあるはずですから、その時に備えるためにこの記事は大いに益となりました。

  2. bobby
    6月 16th, 2009 at 20:24
    2

    >これが社内で今、起きていることです。

    数年前まで上海で一緒に仕事をしていた友人も、帰任後に本社でSAP導入が始まり、先月導入プロジェクトから開放されました。プロジェクト期間中は死ぬほど大変だったと言っていました。

    莫大な開発費をかけ、世界中の一流企業が導入しているのですから、SAP(とその他の欧米の有名ERPソフト)が悪いとは思いません。それが日本で導入が困難なのは、ソフトの背景にある文化の違いが理由であろうと思われます。

    欧米の合理主義的な業務フローへ社内組織を改善するのは、技術的には、それほど難しくない筈ですが、日本式に思考する現経営陣にそれを納得されるのは大変かもしれません。改善項目を簡単にまとめてみました。

    1)ERPソフトが前提としている組織構成を、あなたの会社で(仮想的にではなく物理的に)再現する。どのような組織がERPソフトにとって理想かは、ベンダーのコンサルタントに聞けば良いでしょう。但し理想の組織は、今より部署数や人員数が増加する可能性が大きくなると思われます。
    2)各組織の責任者は、ERPソフトが要求している判断権限を持たせる。一人の責任者が複数の部署を長期的に兼任してはいけない。
    3)会計に関連する業務ルール(契約、受注、発注、出荷、計上、支払い、小数点以下の丸め条件など)は、ERPソフトが標準対応している範囲内に必ず収める。その為には、お客や業者を説得する必要があるでしょう。
    4)会計に関連する伝票類(受発注、入出庫、入出金等)は、ERPで標準対応しているものに合わせる。標準で対応していない伝票類は、システム外にせずに、お客や業者を説得して、標準書類に合わせてもらう。
    5)システム外のエクセル表で処理する業務を無し、標準対応内の帳票で、どうしたら「出来るか」を考える。今と同じ帳票でなくても、業務の質を下げずに行う方法はある筈。
    6)経営者にERPソフトを自分で使用させて、役員会議もERPソフトの経営用帳票をもとに行う。絶対に、役員会議用にエクセル表を作らせない。経営者が自分でリアルタイムに経営情報を取得する事が、ERPソフトの最大の存在理由であり、導入する最大の目的です。

  3. ひろ”ゆ”き
    6月 17th, 2009 at 19:24
    3

    >日系企業の経営者には(精度の高い財務情報を迅速に集計する) ための…改善を行う為のシステム思考が不足しているので、在庫が見えないとか、製造原価がみえないといって首をひねるばかりで、本当の問題点に到達できません。

    この弱点が、「ゼロ戦」化する日本の情報技術 http://ascii.jp/elem/000/000/428/428143/の中で紹介されているのでしょうか。

    >>これが社内で今、起きていることです。

    私たちの社会では欧米諸国と違い、「トップダウンではなくボトムアップ」と言う考え方で戦後60年間を戦ってきました。そしてそれが我が国の美風とされてきました。

    しかし、全体を見渡すのには、下から上を見るよりは、山の上から見れば、遠くまで見渡せるように上から見るほうが優れています。

    それでシステムを考える上では、トップダウンが優れています。

    >>生産現場、個々の営業マン、バックオフィスの事務員。おのおのの要望を反映させようと…

    >6)経営者にERPソフトを自分で使用させて、役員会議もERPソフトの経営用帳票をもとに行う。…経営者が自分でリアルタイムに経営情報を取得する事が、ERPソフトの最大の存在理由であり、導入する最大の目的です。

    考えてみれば「経営者が自分でリアルタイムに経営情報を取得する事が、ERPソフトの最大の存在理由であり」それに基づいて経営戦略を立てる、ためにシステムがあるのです。
    INPUTを行う社員はそのための補助作業を行う存在でしかなく、そのための業務を行えさえすればよいのです。

    それで欧米諸国ではトップダウンで経営戦略を立てている一方で、民度が高い日本では本来の意味を失って”システム”が考えられているので、太平洋戦争の時のようにある時を境に、”戦術の戦いから、戦略の戦いに”代ると雪崩を打って敗走してしまう…と言うことを、今も私達は繰り返しているのではないでしょうか?

    bobbyさんはこの点、如何お感じでしょうか?
     
     

  4. bobby
    6月 17th, 2009 at 20:15
    4

    システム化をトップダウンで行うという事を、前のコメントで書こうと考えたのですが、あえて止めました。ひろ”ゆ”きさんが言われる、「ボトムアップ」とか「すり合わせ」の思考方法は、現代の日本人が意識して行っているのではなく、現代日本の文化的背景から必然的にたどり着いた方法だと考えているからです。文化的背景を変える事は、すなわち価値観を変えましょうという事です。これは難しい。

    日本にもひろ”ゆ”きさんや池田氏のブログ記事に共鳴できる合理的な思考方法を持っている人がいますし、私のようにデータベース設計という業務を通して訓練される事で、ある程度合理的に思考する事を学べる者もいますが、日本の企業組織では少数派ではないでしょうか。

    本記事中で、「あなたの価値観を変えましょう」と言わずに「SAPのしくみにあなたの組織を合わせましょう」と提案したのは、SAP導入という目的と、その方法論としての組織改変が見えやすく理解しやすいと思ったからです。

    日本の企業経営者に(海外でMBAを取得した)欧米的合理主義を理解できる方が多くなれば、トップダウンに変えましょうという言葉は、撃てば響くように伝わるのでしょうね。

  5. ひろ”ゆ”き
    6月 17th, 2009 at 21:51
    5

    >「ゼロ戦」化する日本の情報技術
    >このようにシステムとしての効率を考えないで、局所的な「ものづくり」や「すり合わせ」の完成度を高める傾向は、戦後の日本の製造業にも受け継がれた。
    >日本は、自前で新しいシステムを構築する必要に迫られたのだが、グランドデザインを考える習慣のない日本の技術陣は、依然として既存のシステムを残業の連続で改良する作業を続けている。
    >この原因は単純ではないが、私は江戸時代以来の労働集約的技術へのバイアスがいまだに続いているのではないかと考えている。だとすれば、この状況を是正するのは容易ではない。

    >>bobby
    >>「ボトムアップ」とか「すり合わせ」の思考方法は、現代の日本人が意識して行っているのではなく、現代日本の文化的背景から必然的にたどり着いた方法だと考えているからです。
    >>文化的背景を変える事は、すなわち価値観を変えましょうという事です。これは難しい。

    お二人のお話を聞いて、私達日本人は一つの隘路にはまり込んでいるようです。

    “システム・グランドデザイン”により、経営戦略をおしすすめる(または幸福な人生を送るために人生行路という”絵”を描く)-これは私たちにとって難しいことであっても、克服できないことではない、ように思えます。

    このことを自らの内でも問いかけて行こうと思います。

  6. bobby
    6月 17th, 2009 at 22:37
    6

    たとえば科学的とか理論的とか資本主義という言葉の背後にある文化は、合理性を追求する文化から生み出されたものであり、成果物です。これを追求するという事は、欧米人にとっては性に合っているかもしれませんが、はたして日本人にとって相性が良いのかどうかは不明です。

    いまの日本人の価値観は、ある意味で中途半端ではないかと思います。西欧的な学問や技術や思考方法をツールとして導入して(しようとして)いますが、根底にあるのはいまでも日本的(あるいは和式?)です。和洋折衷の文化ですが、アンパンのように完成度が高くない。西欧のツール(たとえばERPシステム)はどんどん進化しているのに、現在の日本人にはそれを消化吸収して新しい和洋折衷を生み出す柔軟性やエネルギーが足りない。

    なぜ足りないかと言うと、高度成長とそれに続く経済的な繁栄が、日本の文化を成熟させてしまったのかもしれません。成熟した文化は、人々からエネルギーを失わせ、新しいものに対する柔軟性も失います。

    ならばどうすればよいかというと、我々がまだ未熟であると認識した時にはじめて、日本人の価値観は新しい時代に相応しいバージョンアップを遂げられるのではないでしょうか。

  7. 6月 29th, 2009 at 21:24
    7

    >>導入に際しては、ソフトの改造を一切行わず、逆にあなたの会社組織と業務・書類フローと商習慣を、ERPソフトに合わせて「改善」するようにしましょう。

    私もシステム屋なので、「業務の流れを合理的に再構築して、そののちにシステムを導入する」ということをしない日本企業には悩まされ続けました。システム屋は経営者の怠慢の尻拭いをさせられるのです。

    そういう体験をあまりに長く積み重ねたので、彼らが変わることができるのかきわめて懐疑的になっています。bobby さんは長らく ERP ソフトの導入に携わってきたようにお見受けします。質問させていただきたいのですが、日本企業に変化の兆しは見られるのでしょうか。以前より、ERP ソフトにあわせて業務フローを変更するような動きは増えてきたのでしょうか。

    これからの時代、組織のトップに合理的思考ができる日本人がいないのなら、外国から人を連れてくるしかないのではないか、と私は考えはじめています。実際、日本企業の経営が傾いていくと、外国企業による買収という形で、経営陣に外国人が入ってくる可能性はあるかもしれません。

  8. bobby
    6月 29th, 2009 at 22:19
    8

    >以前より、ERP ソフトにあわせて業務フローを変更するような動きは増えてきたのでしょうか。

    elm200さん、コメント有難うございます。大きな流れとしての動きは、私の周りでは残念ながら見当たりませんね。ただ個別のケースでは、不況によってシステム化の予算が十分に取れなくて、苦肉の策としてパッケージソフトに合うように業務フローの標準化に挑戦する会社はあるようです。

  9. 6月 30th, 2009 at 19:07
    9

    bobby さん、お返事ありがとうございます。

    >いまの日本人の価値観は、ある意味で中途半端ではないかと思います。西欧的な学問や技術や思考方法をツールとして導入して(しようとして)いますが、根底にあるのはいまでも日本的(あるいは和式?)です。和洋折衷の文化ですが、アンパンのように完成度が高くない。西欧のツール(たとえばERPシステム)はどんどん進化しているのに、現在の日本人にはそれを消化吸収して新しい和洋折衷を生み出す柔軟性やエネルギーが足りない。

    欧米の考え方は合理的なところがあり魅力的です。一方で、日本人が単に欧米人の真似をするだけならば、永遠に彼らを乗り越えることはできないようにも思います。欧米の知恵と日本のよい部分をうまく調和させて、アンパンのようなすばらしい経営ができればいいなと私も思います。

    ただ、具体的に考えるととても難しい。いまはグローバル化の時代です。日本人は外国人たちと日常的に仕事をしていかなければなりません。この点は欧米企業は日本企業より何歩も先を行っているように見えます。日本的でありつつ、それが普遍性を持ち、外国人たちとうまく調和して仕事ができるような経営・・・。私がずっと考え続けているテーマでもありますが、bobby さんは何かよいアイディアをお持ちでしょうか?

  10. bobby
    7月 1st, 2009 at 00:25
    10

    間接的な方法論で恐縮ですが、私は日本式の商取引慣習のなかで、以下の悪習を改めれば、日本式経営でもかなり改善するのではないかと思います。

    1)単価が決まらないのに発注する。
      単価を決めてから発注するべき。 
    2)納品前にようやく正式発注書を出す。
      必ず正式発注書をもって発注すべきである。
    3)当月末締め、翌月末に検収書を一括作成して支払い。
      出荷・納品後1-2週間以内に検収・請求書を発行して、請求書単位で支払うべき。
    4)小数点丸め(切り上げ、切り下げ)を自分の都合で決める。
      小数点は全て、四捨五入で処理すべき。
    5)手形払い。
      支払いは現金で、遅くとも翌月末までに支払うべき。
    6)過去の納品分へ一括値引きの要求。
      納品・支払いが終了した取引を、過去に遡って値引きするべきではない。

    上記が改善されるだけでも、受注-発注-入庫-出荷-検収-請求-入金までの業務フローとシステム処理が単純化されてパッケージのシステム導入が楽になります。また、実担の業務処理効率が向上し、資金繰りも楽になると思います。

  11. 7月 1st, 2009 at 07:38
    11

    bobby さん、ご返答ありがとうございます。
    非常に具体的で示唆に富んだご提案だと思います。
    こういうことは、業界全体の合意が必要なので、例の「クールビズ」の件のように、
    政府が旗振り役になるといいのかもしれないですね。
    自分でもできる範囲でがんばってみたいと思います。

  12. bobby
    7月 1st, 2009 at 09:39
    12

    elm200さんの会社ウェブサイトを拝見させて頂きました。もしよろしければ、メールをお送りさせて頂いても宜しいでしょうか。

  13. 7月 1st, 2009 at 12:26
    13

    >>elm200さんの会社ウェブサイトを拝見させて頂きました。もしよろしければ、メールをお送りさせて頂いても宜しいでしょうか。

    もちろんよろこんで。メールをお待ちしております。

Comments are closed.